3.1  Two(2) King Kongs  御伽の国へ。

文字数 4,098文字

  毎日、糟谷先生の所に出かけて行く。今日は若しかしたら、新たな状況のの変化についての情報を聞くことができるのでは?との思いで。馬鹿の一つ覚えでしかない。往復の運賃がバカにならない(往復千円と)。これが毎度、少なからず心を侵食する。その場に集えば相も変わらぬ長話ばかり。不思議と時間は埋まる。ヨネちゃんを置いたことは正解だった。ヨネちゃんは内部の若い衆と付き合いを持っていた。保険の斡旋もしていたので、そのアフターの為だろう。
そういった時に仕入れた四方山話しを(篩にかけた上で)公開してくれた。「誰それも、これこれの理由で辞めたそうだ」etc…。彼は相変わらずの猟犬ハウンドにすぎない。気長にチャンスを伺っているまで。ボクの立場の復帰に賭けていた。この集いの中にいても埒が開かんことを
薄々勘づいていく。独自の就活を急ぐ。



  その会社は千里中央からモノレールで、ほんの数駅の距離にあった。大した移動ではない
と思うのだが環境は見る間に見知らぬ界隈へと変わる。広々と雑然とした平地ばかりでの工業
エリア。人が住むにはあまりに殺風景で大味すぎる。こんな所に、もし住まいすることになったならまず自分では耐えられまい。空中にある駅改札から地上へはエスカレーターで降りる。
それがまた近未来然としたチューブのような作りで、まるで見知らぬ世界へとこれによって
ワープ(空間跳躍)の仕掛けのように思えてしまう。何か非現実な感覚をいつも感じていた。
そこはまさに正しく、特別誂えの舞台、御伽の国であったわけなのだが....。

  最初の訪問は面接の時。駅からは歩いて15分ほどで着くはずだった。しかし何の介入よる
ものなのか、違う方向に歩き出してしまう。駅員にもちゃんと場所を確認し上だったのに!。
そして約束の時間に間に合わなくなってしまう。とりあえず電話で少し遅れることは伝えた。
これは基本ありえないことなのだ。何をどうしようが、大概、決まった時間、少し前に到着するのが従来のボクのパターンだった。こんな遅刻でチャンスを逃してなるものかと急ぎ探しまわる。人を見かけては、その会社の所在についてを尋ねるが、誰一人知る者はいなかった。
かなり焦りながら、しんどい思いで走ってた。やがて、ひらりとその会社と思われる建屋を見つける。先の電話で外観は伝えられていた。道路に面して大きな口を開け放つ二階建ての鉄骨倉庫だ。社名は見当たらない。左端にドアがあった。その側のインターフォンを押して来訪を告げる。確認すると、そこで間違いなかったので、やっとホットできた。時刻は予定時間を30以上もオーバーしていた。階段を上がり事務室に声をかけてしばらく待たされた。やがて、呼ばれて
小さな応接室らしき部屋に入る。対応されたのは高齢と中年の男性二人だった。高齢の男性は、最初こちらを黙って観察するまでだったが、もう一方の説明が間怠っこしいとばかりに強引に割って入り、話を引き継いだ。なかなかに灰汁の強そうな御仁であることが知れた。その後、
少しでも良い印象を残すべく、ボクは機会を伺う。話の中で示された世界地図には、速やかに
立ち上がり、その近くに寄って立つ、その取引先の国やらに目線を投げかけ、また語る相手の
方に顔をしっかりと戻すことも行なった。海外との取引が多いことがご自慢のようであった。

  後で分かったことは、本当の採用担当である社長は、この時不在であったようだ。
その代わりに、彼が信頼を寄せる顧問と、もう一人が面接対応に”急遽”、立てられていたようだ。そしてキーマンは、その顧問になってしまってた。如才の無い何やら灰汁の強そうな老人に見受けられたその御仁。急な役回りの言い渡しであったのだろう、少しいい加減な対応であったように思われる。「そのおかげ」、と言っては何だがボクは、次の日に採用の連絡を経理の女性から受け取ることとなった。多分、英語ができることが主な理由で、あとは真面目そうに見えたぐらいが決め手であったのであろう。この時期は就職難が社会問題になっており、逆に人材を
とるにはいいチャンスと思う会社もあったのであろう。そういうところは平時にはなかなか
応募が集まらないのだから。

  このメーカーは、かなり個性的な会社だった。製品は、グラスファイバーの不織布を加工/
成型したものになる。原反の製造は、知られた大手なのだが、加工自体を嫌がり、下請けであるこの会社に、その関係を丸ごと移管することにしたらしい。*ガラス繊維の成形/加工は、
危険で汚れ仕事である。この仕事を譲り受けた社長は、かなりのへそ曲がり。歯に絹着せずに
モノをズケズケ言う。年齢は60をだいぶ越えてはいようが、やけに精力的で若々しい。
背丈はないが、その体は、ぶ厚い筋肉に覆われていた。社内では専制をしき、絵に描いたような町工場の社長さん。コードは”金角”。
  もう一人、彼のサブとして強烈な存在感を表していたのが、面接の時にいた顧問。
実際には現場の半分を取り仕切っていた。やがて、ボクの直接の上司となる人。何もかも、
あの社長と似ていた。筋肉の塊がその老体を覆っていた。エゲツなく意地/性格が悪い。
コード、”銀角”。会社は、この二人によるダブルスタンダード体制であった。

  他の社員さんは、定年越えのいい歳のおじさんばかりが5名ばかり。これは契約だ。
気むづかしいが、根は単純。最初はえらく注意されることが多かったが、のちには馴染まれて
きた。金角と銀角を、皆えらく恐れていた。また正社員として、やたら若い社員が7名。高卒で
すぐ採用されたと思われる。入社して10年以内か。みんな真面目な良い子だった。
だが、こちらへは一線を引いて、やけに意識をしていた。最後、中堅であろう熟年の方が3名。
あの社長のワンマンに嫌気をさし、一人を残しすべて現場社員が退職される事態がかってあったそうだ。それを埋め合わすために中途で採られたのが3名のうちの2名。いろんな加工現場の経験をお持ちで、確かにプロだった。一人は体格、人柄もよく、ボクはよく庇われることになった。コード:赤鬼さん。もう一方は。やけに背が高くそしてクール。しかし、陰によく気遣ってくださってた。コード:青鬼さん。

  求人の内容は、「英語ができて、物作りが好きな人」だった。しかし、実際は、肉体労働がかなりのウエイトを占める職場だった。少しの場慣らしのあと、ボクは接着剤をスプレーガンで長尺のガラス繊維に吹き付ける、専門工とされてしまう。また、週に二回、コンテナーが
トラックで運ばれてきて、荷下ろしを全社員でおこな行事がある。これはボクの肉体能力から
すれば、キャパオーバーの内容だった.....。

        〈続く〉


追記:

就活に精をだすと話せば、『ろくな勤め先なんかあるかい』と足を引っ張る、意気地を挫くようなことを言われる。社会情勢としては確かにそうだ。だが、主の加護があること、一念において道は開かれると信じていた。Ω(オーム)で、嫌ことは聞き流す。そうあんたの慰みごとばかりもしてられんわいと...

集会も毎日続けば時には、三人で遊覧ドライブなんてのもあった。先生の大ファンの焼肉屋さんがある。かなりの遠方。現在は修学旅行生の団体さんも利用する大手に成長を遂げられている
とのことだった。最近の相談事は、隣接する土地を駐車場として購入してもいいか?であった
らしい。とびっきりのお肉が提供されたが、先生は「しがむ」までで、後は密かに取りだして
捨てられていた。

阿倍野橋からすぐ近くに花町があるという。わざわざボクの為にと言って、見学に連れて行ってもらった。それは、そぼろ降る雨の日だった。ノロノロと走る車の中から見たのは、延々と続く提灯の灯る長屋の集合地帯。暖簾の掛かった入り口は開け放たれ、明るさ全開の小さな空間が、いきなり道に面して現れている。どこもかしこにも美女と醜女のコンビ。二人揃って正面を向いて座っている。完璧に流行りの美のモード(例:メガネ)で装い整えていた。若い女性がいたく礼儀正しく、しかし婉然とした風情で佇んでいた。なかなかに情緒的で、女の子はみんな相当
レベルは高かった。大阪にこんなところがあるとは露ほども知らなかった。あそこも時は流れてはいないのだろう。懐古と最先端モードが同居する異空間。何かミスマッチで不自然な印象
だった。雨の日の見学でよかったと思う。

ヨネちゃんは、親切めかして人の依存心を引き出すことにかけては達人だ。ボクは二件いかれた。良い歯医者ということで紹介された先は、金歯を押し付けられ、かつ下手な手術で一週間
以上も顔が異常に腫れ上がった。親知らずを抜くのに数時間。何でそんなにかかるんやろか?!。入れた金歯もわずか数年で落ちた。保険屋ともグルで、「安い」としながら実態は
ボラれていた。ほんとにダンディでダーティーな方。でも、それらも、その時の情勢で、
天の采配での出来事でしかなかったわけだが.......、しかし弱り目の人間からよく抜けると思う。

ジンクスの一つに縁なき所の場合、その縁を繋ごうとすると努力/行為には妨害、障害が発生するがある。最近では京都の職業訓練の試験に行くときに迷ってしまった。できるだけ早く、
次のステップの足掛かりを探すべく選んだ相手だったのに。
久方ぶりの京都見学となったまで...。

金角銀角だの、赤鬼青鬼だの..... 振り返れば、鬼子母神だの、神農さまだの。本当は、ファンタジーとして再構成すべきだったのかも知れない。このトークは。多分説得力は落ちてしまうが、物語の意味性としては深まるような気がする。ロマン性が増すことにより没入感も易くなるかも?。終わって全部の加筆と見直しがすんだら、また違った表現をしてみたいと思っています。


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