10. The World  庇護の解除。

文字数 1,207文字

  滋賀の国道沿いにあるとあるレストラン。家族で昼食をとりに入った。この店は工場が近いということもありボクには馴染みの店だ。近江牛の美味いのを食わせてくれる。久方ぶりの利用だった。お膳も整い、みなで食べていると何かがおかしいと感じていた。「美味くない」のだ。店内の雰囲気もなにか薄っぺらく感じる。内装は前となんら変わりはなく、客の入りも普通だった。やがてボクは一つの閃きを持ってしまっていた。今ここにある事態に「魔法が解けてしまっている」との思いを愕然と持っていた。世界が変わってしまっている...。

  このことはボクが『立場』を喪失したことと関係している。間違いなく...。この場(店)の顕れが変化してしまっている。ショックだった。以前機能していたであろうサポートが無くなってしまったのだ。決して店側が質の悪い肉を提供するようになったためではない。これまでに関係を築き、慣れ親しんできた環境が、あの肉の味わいでさえもが、幻術でしかなかったことを理解したのはこの時だった。

  通常、人間の認識は5種のセンサーを介してのものだ。(五門と呼ぶ人たちもいる)。これらからの情報は然るべき器官により整理/統合された上で、『心』に認識される。加工されたものとも言い得る。「ダイレクトに」とか「フラットな」は本来あり得ないのだ。『素直に』は実はあり得ない...。

  ところで物質性の範疇として、『心』自体もあちらに含まれるとの考えがある。サーンキヤ学派のものだ。『自然』という意味においては、自分の心でさえも、それの『一部』でしかないと理解される。つまりは、あちら(Nature)の管理下にあるのが実態だと。はっきりと『プラクリティ』(物質原理)と彼らの言葉で表してしまおう。*これはなんだろう~..ボクは『宇宙コンピューター』(システム)として理解しています。絶対の創造物なのだろうな~との思いで、しかし神そのものではない。一種自立自動で機能している。その目的は『プルシャ』とか言うものの為らしいが詳しくは分からない...。このシステム内におけるボクの位置が変化してしまったのだ。じゃないとあの時の直感は説明がつかない。

  かってのボクはAAAの中において立場を持つ人間であった。それに伴い、なんらかの優遇が世界としても働いていたのだと思う。この環境が崩れ去ってしまっている...。
この一事はボクの中に、大いなる不安の爪痕を残した。

ただ..御心のままにと思うことしかできなかった。



追記:

ただ単に精神に異常をきたしているだけの話もあり得ますね。

かって、せめてもの慰めで美味しいものとの縁は備えられていた。しかし、これも解除されたのが現在の状況です。現在は、美味いも不味いもない人間になってしまっていますので、役目を終えて不必要になっただけの話なのでしょう。

一つ一つ去っていく...。
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