8. Captain EO & Goddess ロサンジェルスへ。

文字数 1,866文字

  一週間程して父を通して連絡が入る。ある人の電話番号と事務所の住所が知らされる。場所はロサンジェルスであった。電話を入れると相手は一度でつかまった。「H本先生にご紹介頂きましたF村と申します」と緊張しながら切り出すと、相手は「はいはい聞いています」「では何日の何時にお待ちしていています」と簡単に話はついた。ロスは、ここChicoからはえらく遠い。車で片道十時間はかかる。でも、あまりそれは気にはならなかった。どこかでディズニーランドには、よって行こうなどと呑気なことを考えていた。二泊三日の旅だった。

  サクラメントまで南下して五号線(Interstate 5)にのる。あとは何もない景色の中を延々だた車を走らせるだけだった。死ぬほど退屈な一人の行軍だった。(ボクはこの道を、短い期間を置いて結果二往復することになる。一回目は、このこちらでの就職の依頼の為であり、次のは、そのお断りの為に...。)ある程度、夜も深くなり疲れも限界かと感じられたので目についたモーテルに入り泊まった。その建ち姿と辺りの寂れ具合に少しヤバそうな感じがしたが、もうこれでいいと思い切った。どんなところであっても頓着はしない。眠れればそれで十分だった。初めてアメリカに着いた晩なんかは空港での泊りだった。堅い凸凹のベンチで寝たのだった。

  翌日はディズニーランドに先ずはよった。約束の時間はその日の夕方だったのだ。その前に時間を潰す必要があり、それには恰好の場所と思えた。広大な敷地の駐車場についた。未だ日は早く停めてある車は、まばらであった。お目当ては〈Captain EO〉だった。この短い3D映画を観ている中でおかしなことがあった。お話の展開として、敵役の”黒の女王”はマイケル扮するところの〈EO〉との攻防の果て、最後には光り輝く存在に変わる。その”白の女王”がボクを見つめてきたのだ。勘違い、思い違いの類いでは絶対にない。映像に重なって、もう一つなにか別の存在が確かにそこにいた。彼女は、ただボクを見詰めてくれていた。なんらかの思い(メッセージ)がそこにはあったのかもしれないが、それは分からなかった。(あえて想像するなら、「心配しています」「私も見守っています」だったのかもしれない。)とても印象に残った。
後述:後にこの存在は日本で、ある(本当に実在の)女性の眼差しの中に再びその存在を一度だけ現す。
  「おかしなことがあったなあ」と思いながらも遊びは終わりとし、車へ戻る。ところがその頃には駐車場には車が溢れかえっていた。どこに自分の車があるのか分からなくなってしまっていた。景色が全然違う。どこを向いても車の列で埋まっていた。ただでさえ、どえらく広いのに...。目視で必死で探そうとするも車の列が視線を遮る。絶望に襲われた。どうしよう...と、一人わらわら車を探す。見つかったのは奇跡だったと思う。

  約束の事務所は郊外にあった。お相手して下さったのは五十代前半と思われる男性だった。その小さな事務所には、この方しか居なかった。お一人で何かされているのだろう。なんでも「H本先生には、お世話になってんねん」とのことでだった。ご自身は日本で、やり過ぎて、ここ(アメリカ)での務めとなっているとか言われていた。多分、仕事の上でのことだろうと思い聞いていた。ご自身に関しては余り話されなかった。少しボクの希望というか、素養において尋ねられて、「何か探しておくは」とのことでこの出会いは終了となる。

  最後の旅程(サクラメントをめざしていた)で、ルート5を車で走行中のボクは眠ってしまう。本人はかなりの時間、寝てたと感じた。幸い目をさました時には、なんの問題もなく夜のハイウエイを運転していた。ありがとうございますと天に感謝した。

  ボクは日本に残してきている彼女との関係にけじめをつけていなかった。これをはっきりさせなければならないとの思いが徐々に膨れ上がってきていた。就学の途中であったが帰国することを決心する。まずは先の訪問先に電話をいれて「あらためてお伺いしたい」とお願いする。「どうぞどうぞ」との応答であった。行って要件を話すと驚かれて、「そんなら電話でよかったのに...」と恐縮されていた。確かに、それでことは済んだとは思うが、お願いしたH本先生への手前、礼儀と思い直接お詫びかたがた出向いた次第であった。






  
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