3. Guidance 沖縄からの宣教師。

文字数 1,657文字

  Chcoにはボクと同じ日本からの留学生がちらほらいた。ボクがこの地を選んだのは、
田舎のせいか比較的日本人が少ないと聞いたからだった。せっかくアメリカに来た以上は
アメリカを最大限吸収していかなければと思いここにした。しかし実際はこれは難しい。
やはり日本人同士は心細さからか寄り集まってしまう。小さな村社会が存在してしまう。
見知り合うのはALCIへの参加からか、後は人を介しての紹介だ。ボクの後からチコに来た
学生達が当然いた。なぜか沖縄出身者が多かったように思う。

  その中の一人に尚子(タカコ)さんがいた。Chico state のカフェテリアで紹介を受けたように思う。歳は訊かなかったので知らないが、22,3歳ぐらいに思った。とても愛嬌のある別嬪さんだ。何でもアメリカ人のフィアンセがいるとのことだった。彼女は出会いから、おかしなことを言ってきた。「ハル、あなた良くないものが憑いているわよ」と。彼女は既にボクを見知っていたようだ。なにかの目的を持ってアプローチしてきたのだ。ボクは素直にこの言葉を聞き入れていた。そしてボクは、しかし最近ジャンプがあったことを話した(あの体験をジャンプと表現した)。他には誰にも話したことはない。彼女はしっかり聞いていたが、あまりそのことには取りあわず、その良くないものから免れるには...のアドバイスに話を進める。「私が知る限りではキリスト教に帰依することがあるわ」と。特に強要する様なニュアンスはなかった(何気なさを装っていただけなのかもしれないが)。他にもあるのかも知らないけど、私はそれは知らないといった言い方だった。彼女自身の身の上話を少ししてくれた。彼女は霊媒体質なのだそうだ。なんでも沖縄には霊媒体質の人が多く生まれてくるらしい。でもみんな最後は不寓な死に方になるなどとも話していた。彼女自身、なにか目には見えない良からぬものに付きまとわれたり、追いかけられるする体験が過去に多くあったそうだ。キリスト教徒として洗礼を受けてから、ピタリとそれが止んだとのことだった。彼女はプロテスタントだそうだ。後は東京で生活していたこと、そこですり切れそうになったことを話してくれた。余りに人工的過ぎる印象だったそうだ。フィアンセのアメリカ人の彼氏も普通の人では無さそうな話だった。内容は話してはくれなかった。ボクは初めて出会ったその場で、「どうか友達になって下さい」と彼女にお願いをしていた。生まれて初めて使った、人への求めの言葉だった。彼女はノーとは言わなかった。

  彼女とはダウンタウンのカフェでも2人っきりで会っている。おかしなものだ。どういった経緯でそうなったのかは憶えていない。その場に臨むにあたり、ボクは内心、絶対に失礼のあってはならない相手であることを自分に強く言い聞かして行ったのは覚えている。なんの話をしたのかは殆ど憶えていない。ただ、彼女がボクがとても優しいとえらく驚いていたこと(何だろう、グラスにおかわりの水をカウンターに取りに行ってあげたかなんかだったと思う)、日本に残してきているボクの彼女の写真を見て、あなた達はよく似ていると感想を語ったこと。まじまじとボクを見つめて、「ハルは本当のクリスチャンになるかも」と、少し驚いた様子で口にしたのは覚えている。なにを観たり感じたのかは分からないが、あなたが勧めたのではないかと思って聞いていた。また、沖縄の海は昔は今よりも遥かに綺麗だったと語った(あそこの下には何かが在るらしい)。そして、もしボクが何らかの下心を持って、この場で彼女に付け入る様なことがあったならば救われなかったかもと最後のほうでさらっと言った。少し非情で残酷な彼女の一面を一瞬ちらりと覗いた気がした。とにかく彼女はリスクを背負って臨んでくれていたわけだ。彼女はボクに新約聖書をくれた。汎用タイプの小冊子で4福音のみのものだったと思う。そんなに厚いものではなかった。ボクはこれを読んでしまうのだ。
それもまともに。
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