13. Who are you  砂を噛むよな3

文字数 1,164文字

  苦悩の坩堝にあるが如しの8ヶ月間もやがては終わる。そう、放っておいても時は間違いなく過ぎてくれる。そして想定どおり不合格の立場を確定したボクは、然るべく次のアクションへと移る...。

  母の自宅を訪ねた。「どうかどんな立場でもいいから会社においてやって下さい」と頭を下げにいった。母の返答は怒気も露わな『あきません』だった。『あんたがいたらみんなが迷惑する』がつづく。その場にある、あまりの非情さにボクは驚いてしまってた。まったく赤の他人としての扱いもいいところだったからだ。取りつく島など一切ないことは即座に理解された。

  更に、母は、この時に行うべきこととしてしっかり頭に入れていたと思われる話をする。自己都合で会社を辞めた方が、あんたのこれからの人生の為にも良いよと。だから、退職願を書いて提出しなさいと。それも今日書いて明日中に持ってきなさいと。そうするならば、給与の支払い停止を少しだけ伸ばしてあげてもいいと。まるで好意めいて、情けからの提案でもあるかの如くで彼女は語り終えていた。内心動揺しながらも、会社都合にして頂きたいと、ボクはハッキリと言葉を返した。いたく不愉快に思いながらも、彼女は更なる求めをすることはなかった。ことの動かし難さを直感したボクは早々に実家から離れ、家に戻ることとした。


追記:

不思議なことにボクは、どこであれの試験を受けたのか憶えていない。

屈辱ではあるが、”やっとくべき事”とは思えたのだ。ダメは覚悟はしていた。

あの時を最後としてAAAでの勤めは完全に終了したことになる。また、個人として彼女と会うことは以降はない。大人数の中でとか、第三者を交えてとかはあるが、それも二度ほど。でも近所に住んでいるので、散歩中の彼女を見かけることは時たまあった。
そのまま彼女は去った。

考えようによっては、これも幸いな話だったのかも知れない。親しい人を失うことは辛いことだ。そういった悲しみを母においてボクは知らずにすんだ。ああいったことがあって八年も経てば不幸があったとしても大した感慨はありはしない。あの父の時でさえ、喪失感はあまり感じなかった。いつの間にか居なくてなってしまったといった不思議感ぐらいか。この生における親との関係は、幻の如くであったように思う。大変ドラマチックな設定だったな〜。


「ありがとうございました。お世話になりました。ご苦労様でした」。
「次の良き流れに渡られますように」が朝の勤めで唱える言葉になっている。 

 
再掲:
『だれが知ろうか。影のように過ごす虚しい " つかのま " の人生で、何が人のために善であるかを』(コヘレト)

Ravel の ”パヴァーヌ” ...ではなく、Fauré のほうをキボンヌ。
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