3.2 Invasion 丸まると太った...。

文字数 2,448文字

  主:『 まずは、エゴ等の騒乱の舞台を華々しく設(しつら)えん! 』

  昔あるとき、○○証券から巨額の運用損の報告を会社は受ける。即座に、母は単身京都支店に乗り込み、直談判したしたそうである。その時の支店長は彼である。不思議なのは、この損失が「穴埋めされた」ということだ。本来ならば「そういう事もありますよ」と歯牙にもかけられず、相手にもされないのが普通だと思うのだが...。つまりは、〈いかにでかい金額〉を回していたのかの証に尽きる。また、母の命がけ、鬼のごとき気迫の成果であったにも違いない。時はバブル真っ盛り、ボクはアメリカでオカシナことになっている。

  彼は策略家であった。会社の乗っ取り。こういったことになると、超人的な能力を発揮する人がいる。暗黒の理力の発動が本懐なのだ。これも悪い『業』の一種だと思う。「上場を果たした上でッ」、が彼の目的完遂になる。彼にとっても大事(おおごと)であったには違いない。先ずは、社員の誰にも本当の思惑には気づかれないようにしつつ、上場には全社一丸で邁進してもらわなければならない。そして外に向けて、会社としての飾り付けが必要だった。要は、一般投資家に「魅力」と「安心」をこの会社は歌えなければならないのだから。彼は、息のかかった人間を、かなりの人数を投下せねばならなかった。7人を揃えた。タイミングを考えると、彼の計画はかなり前から練られていたはずだ。

  ボクのその頃の本拠である東京支店にも配下の者を二人配した。共に元証券マン。一人は、やがてはボクの後釜として支店長にする腹づもりであったそうだ。当然にボクへの監視と支店の支配が彼ら二人の任務である。この人事において、口出しは一切通じなかった。ボクからの状況としては、古参の社員(男四名)は、若さゆえのプライドからの反抗、抵抗が主な基調音、つまりは上部のみの関係しかない。そして「君が面倒を見なさい」と預けられた正体は狼である熟年の男二人の相手をする毎日であった。当時は、ことの成り行きの危険性に関しては全く分からなかった。ボクはボクなりに、この新人さん二人を気にかけて面倒をみたつもりはある。

  女性社員を含め、みんなで屋形船をチャターして懇親会を持った。妻も連れて行く。第三者であった妻から後で、『あの二人の素ぶりはおかしい』との感想を聞く。

  内の一人が面白い質問をしてきたのを覚えている。「支店長は”運”は強いですか?」と。その問いには意味がないよとボクは応えていた。「悪くても”悪い”とは答えないだろうから...」と。「なるほど」と彼は頷いていた。思い返せば、これから会社に起こるであろうことを思い、彼なりに、ボクの身の上を少し案じてくれていたのかもしれない。


  本社に居れば居たで、部課長等が、彼らの言いなりになっているのに驚く。「上場の暁には、社員の皆様には大きな収入が保証されますよ!」との煽り、そして何と無く普段身近にはいない人間が多くいることからの浮き足立ち。イメージだけからの信望感を彼等は、浅川に持っていた。感化、オルグは、彼の十八番であったようだ。偉く精力的で、自信に溢れ、貫禄と洗練度のある煌びやか存在と社員の目には写っていたはずだ。そして何よりも、社長の号令である。若く、その手の現実を知らない彼らは、見事に浅川等の軍門に下っていた。


追記:

  母が社長になり上場計画のアナウンスをする前に、彼女は、社内の粛清を始める。前々から気に入らなかった海外部のNを筆頭に部長二人、課長一人が退職していた。あの向日葵おじさんもだ。彼の場合は、即座に父の後釜を狙って、母に言い寄った為なので自業自得の面はある。

  上場の為のお化粧として、社内のIT化とISOの導入が必要とされた。立場からと目くらましの目的で、ボクも各プロジェクトに参加させられる。これもつまらない虚栄心とプライドの塊である該当部署の人間達の独断で、ことは進められてしまう。ボクへのライバル心、意識をすることにより、彼らはボクの意見を悉く跳ね除ける。ボクの思い、希望は全く通ることはなかった。これ等(彼らの選択)は、やがては、稼働しない生産管理システム、煩雑なだけの社内文書を山のように残すだけのこととなる。損失は○億を超える。業務書類は、一度導入すれば、おいそれとは変えられない。この時の関係者は、「いずれは...」とボクは肝に命じていた。

  かなり先で、改めて原価計算と生産管理のソフトをボク主導で入れることになる。この時にも、旧ソフトを導入した人間は関与はさせざるを得ないのだが、なんの責任も後悔も見せず、見知らぬ人の如く”ケロっと”した態度でボクに接している。

「お前は億をドブに捨てたんだぞ...」。


蛇足:

浅川和彦の人物像に関してネットにあるものを引用させていただきます:

言葉巧みで負けず嫌い→元同僚「好きなマージャンでも、負ければ朝までやって取り返そうとした」
断定的な物言いをし、リスクを説明しない古典的営業スタイル
商品性を説明して納得してもらうというより、トップセールスマン特有の「人柄で契約してもらう」というもの典型的な野村の営業マン。人あたりがよくお調子者。「証券マンは普通7時には出社するんだよ!」
贅沢な生活ぶり→東京・六本木の高級マンションに住居を構えており、毎日毎日社員に食事をおごるなど羽振りの良さ

出典:「事例研究:AIJ投資顧問事件」(4/5)
http://whistle-t.com/blog/2013/05/ponziandaij4/

  一度、会議の席で、冗談で「内の本社をケイマンにおいたら?」と、ボクは言ってみた。すると俄然、彼は「タックスヘイブン」に関しては自分に尋けとばかりに、異常なほど興奮して喋り出していたのを思い出す。
「イリーガルの専門家ね〜...」。「負けず嫌いね〜...」。
「○○」。
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