0.1 Dad  ある夫婦の話し(1)。

文字数 3,277文字

  文化的な家庭に憧れる。そこは人を育てることに意識的で、かつ実際有効な内容(ノウハウ)を豊かに備えてられる。おいそれと獲得されるものではないだろう。どれだけの世代が続けばそうなるのだろうか?。どれだけの先祖の悪戦苦闘の積み重ねが、そこには埋まっていることやら。更には、神仏の加護がその家に、あったればの話しなのだと思う。

  ところで、「文化って何?」。この漢字二文字からは、あまり意味が見えてこない。言語(抽象化)に関わるものか?ぐらい。ところが、英語でこの言葉にあたる”Culture”になると、そこには確りとした意味を確認することができる。語源は「耕す」を意味するラテン語「Colere」。[土地を耕す][作物を養い育てる][実らせる]の一連の流れが意味として、すべて紐付けされている。 また関係するであろう”Cult”は(宗教的な)祭式、祭儀、儀式、(宗教的な)崇拝、信仰、礼賛。”Cultivation”は耕作、作物の栽培、養殖、培養、養成、教化、修養、修練、教養、洗練を意味する。
  もう十分だろう。ここでの意味は、間違いなく教条にそった営為すべてであろう。[種]は[イエスの語られた言葉]だ。まあ、これは西洋における価値観にはなる。では、東洋の日本においてはどうなるかだ。”業”なる概念を登場させてこなくばなるまい。「業」は[酷く悪い癖]でいい。ただし、かなりに根深く、おいそれとは改めにくいもの。これは血脈を伝う。遺伝因子と直接的な親との関係で、見事に受け継がれていく。どこの家でも、なにがしかの業を背負っているのではないだろうか?。長男と長女が、受け口としての主体になるケースが多いような気がする。生まれてきて直ぐ、白紙の状態で、ダイレクトに親との関係が始まるのだから...。
幸いであり、また不幸でもある。

  閑話休題、仏教/神道における教条に沿う営為が日本における文化の内容になるのだろう。取りあえず、仏教。*神道は知らないので。”業”は乗り越えていかなければならないもの。”煩悩”は無くしていかなければならないもの。不幸の原因なのだから。そう教えられ、そうだと思う。でも、ことは簡単じゃない。これは、幾世代にも渡る、血の滲むような努力の連続の基でしか成し得ない。あまりに手強い...。「少し改め、次がほんの少し改めて、また次が幾ばかりか...」。そういった立派な一族も、おらっしゃるであろうと勝手に夢想している。なんらかの”事業”という、この世における[船]に、お乗りではあろうなと、条件としては推測する。長く連綿と栄え、永久(とこしえ)に家系が続かれんことを願うばかりである。

  「うちは、そういう家ではなかったな〜」。でも、始まりの物語として、経済的な勃興をゼロから成し遂げる[初代運]を持つ、”ユニーク” な家ではあったとは思う。これは、成り上がりの夫婦の物語だ。やがては、「我こそが ”主” である」と互いに主張しあうに至る、ダブルスタンダード、[双頭の鷲]の夫婦の物語。「 俺が、あたしが一番偉いんじゃ〜」の夫婦の...。「あ〜嫌だ嫌だ...」。

  父は、S9生まれ。[狂気の9年]と俗に語られた年の生まれ。(恐ろしく短気。食卓の破壊者。ビール瓶で○を殴り気絶させたこともある)。一人っ子。幼き頃から良米と評されたそうだ。回りからは目端のきく子供と、誰の目にも写った。中学校では校庭の朝礼台に立って、「どこそこの組の給食費がまだ収められていません!」とみんなに伝えていたそうだ。*会計さんやってたのかな?。家の事情で工業専門高校に進むが、そこの先生に目を留められ、「こんなところに居てはダメだ」と説得される。市立大学への進学を考え、これを果たす。結核で一浪はするが、この時にストレプトマイシンが出回り始め、九死に一生を得ている。大学時代は学校には行かず、碁会所づめだったらしい。番台のお姉ちゃんに憧れてたのは、なんとなく知っている。工学部なので遊んでばかりもいられなかったとは思うのだが?。記憶力がいいのであろう、難関のケミカルの取扱い資格を早々と取ってしまったらしい。初めは、中小企業に入り、そして大手にトラバーユ。

  どこかのスナックに入り、カウンター向こうの、えらくグラマーで派手なベッピンさんに目をつける(佐久間良子さん、若きころのデビーに似ている)。「一丁遊んだろか」と付合ってみると、なんと向こうは豊中高校出であると知り、考えを変えて一生の伴侶としてしまう。結婚後、二人は、東大阪の花園にある線路わきの集合住宅に住まいする。そこで初めての男子を育てる。電車が通る度に、赤子は泣いていたそうだ。

  たいへん怜悧な男。幼き頃の夢は、警察官になって、悪者をやっつけたかったそうだ。教育勅語は、しっかり根をおろしている。[美談逸話集]を幼き頃、愛読していた。(この本の実物を、ボクは見て読んだことがある。簡単な道徳を偉人伝形式で語っていた)。二十台の彼は見かけは華奢な美青年。しかし、人の弱点を突くことにかけては天才だった(タイプ8)。一歩間違えば、ヤクザ。特技:湿った落葉を集めて燃やし切る。近隣は煙で大迷惑。自身の父親(ボクの祖父)は、あまり評価していなかった。甲斐性無しとしていた。家が金持ちでさえあれば、自分は京大にでも入れたそうだ。弱点は、煽(おだ)てに極端に弱いこと。プライドが非常に高かった。自分が[法]の人。美徳は質素であること。美意識も高かった。人気星があるのか、多くの人から好かれていた。しかし、実は孤独な人だった。基本、神輿(みこし)に乗せられ、担がれるのが運命の人。跡取り(ボク)の誕生を、誰よりも喜んでくれた人。

一つ彼の逸話をあげて終わろう。

常識(モラル)に従うことを受け入れられない局面というものもあるものだ。
このような時、あなたは、どのようにあれるだろうか?。
”魂”の選択において”意”を決っしなければならない!。

この折は、旅行の帰り、疲労困憊の家族を連れての帰宅の途中。
子供達三人は、未だ幼い小学生だ。自由席は満員満席、足場もない。
しかし、なぜか指定は空いていた。
彼は、家族を指定車両に連れていき、みなを座らせた。

やがて、訪れる車掌の点検。

『Hey you !!! 』

理屈では、退去せねばなるまい。
”しかし” 彼は、抗ってしまう。徹底抗戦の構えでっ!。
目を剥いて車掌を睨みつける。長く、長く、いつまでも。
やがては車掌の帽子をふんだくっていた。
それでも睨み合う二人。
降りたホームにそれは投げ捨てられる。
実は、いつのまにか『着いていたのだ』降りるべき駅に。

この時間の長かったこと、長かったこと。
母親は、こういう恥辱をともなうストレスが大嫌いなタイプ。まあ、女性はみんなそうでしょうけど。批判(怒り)は、いつも父へと向かう。「あんたは非常識や!」と。そのくせ、他人を犠牲にしても、己さえ良ければそれでいいという考えの人ではあった。まあ、みんなそうでしょうけど。

Embarrassing :
きまりの悪い、ばつの悪い、当惑/動揺させるような、やっかいな、困った。

『Such an embarrassing』
こういった経験を、どれだけボクは被ったことだろうか?
ただ、ただ、”素晴らしい” ことだったと今は思う。
ボクは本心からそう思う。
これは貴重な経験だったのだ。
動揺にさらされて、これへの耐性は身につけとかなければならない。
やがては、同じことをせねばならない時がくるのだから....。


男は世界を相手にしでも守らなねばならないものがある。
彼は、勇気の、義の、ひとだった。
これは誇りだ。ボクだけの。


追記:

京都でお世話になった、禅師でもあられたH先生は、かってもし自分に子があれば、
『苛め倒したったのにな〜』などと目を細めて言われてた。
呆気にとられて聞いていた。
「へ〜」と。
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