6. Incubation Program  縁コントロール。

文字数 2,606文字

  易占について、Gの言葉を援用しつつポイントをまとめてみよう...。
〈キー〉となるのは ”Unity of Everything” という考えだ。以前に引用したGの言葉、「すべて(Everything)は、すべて自体(All)に準拠している」にも関係している。
平たく言えば、「雪の一片(ひとひら)でさえ、その落下の軌道は、その意義は、〈全宇宙の展開〉との兼ね合いの元に決定されている」みたいな...。これを理解をする者が易をたてると、正に上の現実が呼応して、答えが卦に顕されてしまう。

  易占では筮竹と呼ばれる道具を使い、求めに対して『数』を反映として象徴を手に入れることができる。64卦ある。各々、陰陽の組み合わせが六段である。プラスで変爻というものが必須である。本当に難しいのは、答えとして顕された卦を『読み解く』ことにある。その理由は、64卦に最終的に確定した意味を読み解くことは絶対にできないといった現実にある。無限の多様性の調和の法則を体現しているとするなば、卦は考察可能な無数の側面をもっていることを考慮しなければならない。更には世界は、動的に、流動的に変化が『ほんの一時も休まず』に進行しているといった現実がある。そのため、卦を読み解こうとすれば、さまざまな視点から同時に(変化のトレンドも織り込みつつ)、見る能力が読み手には必要となる(これはブッダの視座ではないか)。易占において理解の浅い無知なる者がこれを行うならば、いかに卦が正しくても、解釈はおかしな間違ったものになる。卦のメッセージを、紋切り型に、普通の言葉で置き換えられようものなら、それは内部で硬直し、不明確になり、いともたやすくそれ自体が顕すものの反対物になってしまう...。そうなれば、八卦は、まさに〈幻想の道具〉になってしまうこととなる。

糟谷先生は本物の易者であられた。その領域はボクには全くの不可知なものであった。その一例が今回のエピソードである。

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  ある日に糟谷先生を訪れた時のことだ。先生は一枚刷りのチラシをボクに渡してきた。『これ行ってきたらいいわ』と言われる。チラシには大阪市立大学主催の〈インキューベーションプログラム〉とあった。起業アシストみたいなものだった。小さいが研究室が貸し与えられるらしい。ただし、当然に事前の面接審査をパスした上での話であった。先生は言いっぱなしで、更なる説明は何もされなかった。ボクは少し混乱する。「なんでまたこんなモノに?」との思いがあった。応募をする理由は皆無であった。父の母校であること意外に接点は何もない。「え〜〜?!」。当惑するも「分かりました」と答えていた。”天の采配”とも受け止められたからだ。こういったことには素直に従うのがボクの務めであった。どうなるか皆目見当も付かないが応募をとりあえずはしてみる。テーマとしては〈感圧体〉しか思い浮かばなかった。

  この頃のボクは、東京から大阪に戻り、立場は新規事業開発なる部署の長の立場をいただいていた。名称が何になろうがやることに変わりはない。これまで通りに新たな仕事を会社に持ち込むまでであった。課員に三人の〈技術マン〉を付けてもらえていた。しかし一人は、この人事に絶望してか、一ヶ月ほどで会社を退社されてしまう。結果、二人の技術対応要員が残る。一人にはバラスト用のボンドのコストダウンの検討に入ってもらう。もう一人は、彼のこれまでのテーマを引き続き研究開発をしてもらうこととした。

  事前審査を受けに市大を訪問した。市大のある杉本町へは江坂からなら電車なら一時間もの距離だった。広い会議室に十人を超える関係者の方々がおられた。ロの字に大きくテーブルが設えてある。ボクは、感圧体なるものの特徴、そのメリットと想定市場について唄ってみた。亡き社長である父が、本校の出身であることも添えてみる。雰囲気的に特におかしなことは感じられなかった。ボクは取り敢えずは目先の合格の為のみに頑張ってはいた。審査は無事にパスすることとなる。後日に与えられる研究室を見学に行って、とても困惑してしまう。大学の敷地周辺の外に小ぶりな新築の鉄筋三階建てのビル内にそれはあった。「この場所、この空間をどう使えばいいのか?」と皆目検討がつかなかったのだ。

  とある日、市大キャンパス内を歩いていると呼び止められた。父の旧友と名乗る年配の男性だった。とても親しげに語りかけて下さる。父のことをそれは懐かしげに語られる。ご自身はとある有名上場化学メーカーを定年退職されて、現在は大学のサポートをされているとのことだった。ボクのことは、あのプログラムに関係して知られたとのことだった。京都人であられた。父亡き後の現在の状況をボクは話した。とても親身になって聞いてくださり、心配もしてくださっていた。

  この方は、しばらくしてから母とも会い、やがて会社に顧問として入社されることとなる。ボクにとっては、大変な協力者となって下さる。母とも上手くやれていた。流石は京都人だとボクは思っていた。彼のかっての人間関係、そして情報はボクに今までにない活動の契機を与えることとなる。お名前は『船越』さんとしておこう。

  船越さんとお会いしたことで、〈インキューベーションプログラム〉との関わりは終了となる。糟谷先生のボクへ示唆は、この方との出会いが目的であったのだと思われる。先生に後で報告すると、ただ笑っておられるばかりで何の説明もされなかった。プログラムの途中辞退も『構わん構わん』とばかりの無責任なご様子であった。
ボクは、ただ呆気にとられているばかりであった。


追記:

冒頭の援用に関しては、Gが神智学的加算と呼ばれるもの、タロット等において語ったものをボクなりにアレンジしてみました。(Fragments P.440)

易占用の八面体のサイコロが二個セットで売られています。これらと普通のサイコロがあれば誰でも易占は可能です。中尾書店(大阪市中央区心斎橋筋1-2-14)さんで、ボクは買いました。このお店は一種の専門窓口です。注文してから少し待たなきゃならない。

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