2. ERP 手もって考えだされるもの。

文字数 2,803文字

  母は会社の管理部門を江坂の駅前ビルに移転させた。一階には銀行が入る大層立派なテナントビルだった。自身の牙城である経理部を駅前に持って行きたかったのだろう。ついでに連れて行かれた総務と業務をおいても空間は、あまりに余っていた。健康のために歩いて会社まで通いたかっ..いや、虚栄心からの散財衝動だったのだと思う。

  そして、二年も経たぬうちに、今度は、なんと、○○○駅近くで売りに出されていたオフィスビルを一棟丸ごと購入してしまう。江坂駅前のオフィスは当然に解約された。さらには、○部の新興地帯に研究と営業の新たな居城として、鉄筋○階建ての施設の計画がアナウンスされる。*ボクへの相談は一切なかった。研究施設のの移転は、少しやむを得ない事情は確かにあった。ケミカルの研究を民間住宅に紛れて行なっていることへの風当たりが強くなりつつある情勢が確かにあった。しかし、どんな金銭感覚なのだろうか...。。剛毅と言うよりも、勘違いなのではないかと疑ってしまう。例のアレだ...、100億の売り上げには、100億の会社の体裁と言うわけだ。*父の在命の時期に、一度だけ50をマークをしたことはある(利益は大したものではなかったけど)。あの時からの衰退たるや、勢いが失われていっていることは明白であった。優先順位がおかしいと思った。そんな余裕があるなら、工場に合理化の為の投資がされるべきだった。研究にも分析機器やコンピューター制御の重合のための試験機を入れて欲しかった。担当部署に訊くと、稟議は、ほとんど却下になっているとのことだった。発言力のある人間は誰としていなかったのだ。

  大人数が揃う会議は、本社の最上階、4Fの大部屋で行われていた。ここは、いつも昼食どきにはみんなが集まる場所であった。それ以外は大抵空いている。ある時の経営会議に、母は妹を連れてこの場へとやって来た。母の隣の席に彼女は着いた。母は、なんの説明もしはしなかった。これを見て、ボクは大いに動揺した。会議の進行中、彼女は大人しく、黙ってそこに座っていた。そして、最後、母の声かけをキッカケを合図に、至極簡単に自己紹介をした。これから彼女が、会社に場を持つことは明らかとであることが、ボクには確信されていた。何も分からなかった。何も知らされてはいなかった...。




  Re: [ERP]〜Enterprise Resources Planning〜

  この頃は、まだ新規事業開拓なる部署で、ボクは二人の課員と仕事?をしていた。ここでの最後のテーマといえばERPの選定と導入がある。初期導入費用は500であった。金額よりも、数多あるソフトの中から、自社に合うものを見つけ出してくることが一番の課題だった。またトライアルとして格安なものを探した。


  ERPは、情報の一元管理をするためのプラットホーム。なんらかの多角形をイメージしていただきたい。これがERP...。各面は、各部署の入力画面。情報は共有される。例えば、顧客や製品の名前。一度の入力で、関わる部署全てにこの情報は必要なとき使われる。また、即座の拘束力を他部署に課すこともできる。例えば、ある商品の価格の入力を行えば、営業マンが勝手な値引きをすれば、後で面倒な処理をすることになる。従来は紙ベースの書類の受け渡しで情報は受け渡しされていく。モノによっては、いくつもの印を押されて...。大変煩雑で効率が無駄に悪い。よって、[ある条件]が整っているならば、情報伝達の加速装置となる。また、同時に、不合理極まりない人間存在としての社員の行動規制たるに十分な効果が期待できる。

  ある条件とは、紙ベースでの『現在の業務自体が、既に洗練されたものである』こと。書類と手順が、必要性から磨かれてきたものでなければならない。*会社の善し悪しは、社内文書のレイアウトを見れば一発で分かる。長期に渡る行錯誤の果てに出来上がってくるものだと思う。” 手で考えだされた” 形とでも言うべきもの。しかし、真面目で、真剣な関わりがないと、こういうまとめ、要約は出来上がらない。日々のルーチンに、ただ追われているだけでは、これは為せない。

  以前の上場への運びの為、社内の文書は、必要以上に細かく、意味不明のレイアウトになっていた。当然に、上の条件などある訳がない。よって、自前が永遠にかなうわけがないので、よくできたソフトを導入することとした。一挙にベンチマークによる改善をしてしまおうと思ったわけだ。New Paradigmへの強制移行...。
  見つけてきたのは、武○薬○とオ○○ンをパイロットとして作られたというソフトだった。実際に利用されているユーザーさんにヒアリングで訪問もした。ミ○ボ○。有名なケミカル関係のメーカーさんだった。そこで、担当者からのお話を聞いて、問題なし。これが正解の感触を得ていた。

  次は、社長の説得だった。案の定、ダメの一点張り。『アホなことを言いなさんな〜』だった。そこはそれ、ボクはシツコい。...でもダメで、最終的には、船越さんの説得と糟谷先生の援護があって、彼女の了承を取り付けることができる。『あんたとこは、IT(情報)化の流れでは、えらい遅れている』が殺し文句だったそう。これの導入プロジェクトで二年は、時間を潰すことになった。別モジュールとしての生産管理ソフトも付けた。あのストックフローもアドオンで入れてもらった。

  本来ならば、これは強権をもって短期決戦で導入をしてしまい、これに沿った業務進行の監視に長期をかけるものだと思う。が、実際は衆知をもって、進めていかざるを得なかった。皆の前向きな参加意識を、各自の虚栄心を憚りながら醸成していかなければならなかった。べらぼうに時間と手間がかかる。

  そして、いざソフトが入った時点で、もうボクの立場は霧散するにも等しい状態になる。いつもの如きだ。あとはこっちでやるだ。権力なき権威では現場は制御できない。本当の真価を発揮させるには、全体的なコーデを長期間でしなきゃならないのだけど...。多分、旧来のやり方で利用し、矛盾のシステムと化していることだろう。


追記:

すべては、コスト、原価計算をしっかりしたいとの思いからだった。

よりにもよって、プロジェクトメンバーの若いのが、わざわざ展示会に行って、よそのソフトメーカーのエージェントと化して帰ってくる。一応俎上に上げて検討はするが却下。いくらの製品を提案しとんね?!。何においてもそうだが、会社のお金となると、みんな恐ろしく羽振りが良くなる。


使い慣らされた道具が、至極単純な形状になるのがいい例だと思う。
なんの見栄もない。合理の極みとしての顕れ。
職人以外には、まったく価値は認められない。

  
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