4.3 D. Hunting 軌道メンテナンス(3)。

文字数 2,756文字

  何で読んだのか、何についての話しだったのかは忘れたが心に残るものがある。
こんな内容だった....。「それは育つと” Dragon ”のようになる」と語りだす...。
そして、やがては「みんなででなければ制御できなくなる」と...。さもなくば、
「それは振り向いて、お前を引き裂き、喰い殺すことになるであろう」と結んでいた。
仕事を取込むこと、独り占めをすることへの[戒め]なのだと理解をした。

  鉄道関係の資材の購入では、現行の商品を他に替えることは滅多にない。【安全】に対する絶対的な意識のためか、かなりに保守的なのだ。鉄道のキーマン達とお会いしたが、みんな〈顔〉が大きいという共通点が多く認められた。これは強運の人相だ。また、この市場における閉鎖的なこと、閉鎖的なこと...。おいそれと新規の参入など「できャ〜」しない。人間関係は、深く、重く影響を及ぼしあっている。柵(しがらみ)は鉄の掟の如くある。この面で、単なる飛込みで見つけた銀座の会社は最適なパートナーであった。ここには、厳しい軌道現場での実際を長く経験されてきた、真面目な方が多くおられた。なんたる幸甚であったことか...。ただし、スピード感においては、ボクとは違っていた。「なにを悠長にしてくれてるんや!」との思いに自身が苛(さいな)まれていた。

  こちらはやるべきことは終えたつもりなのだが、一向に動きは起ってこなかった。様子伺いで、各支店への訪問を行い、プレッシャーをかける。この頃、最初にこのテーマを持ってきてくれた工事部の方は、北海道の札幌へ転勤になっていた。各部署間のコーディネートを担当されていたので、札幌へも訪問をした。しかし彼の対応は、なにか歯切れの悪い、単に「こちらは去(い)なされているだけ」にしか思えないものだった。「じりじり」と”焦り”に身を焦がしながらも待つしかなかった。これは数ヶ月間におよぶ話し。祈るが如くの数ヶ月間。

  ある時、ことが動く。それも発注元は、ノーマークの新潟支店からだった。急ぎ、訪れてみた。新潟支店は三名ほどの小さなところだった。支店長は東京出身の〈おばさま〉であった。旦那さんは昔に亡くされていた。その境遇を憐れんでか、周りの男達は彼女への気遣いをよくされているのを側で観察できた。そんなことしなくても、この支店長さんは営業としては、かなり優秀であるとボクは思ってた。中々に勇敢かつ老獪な、お方であった。この支店長さんと同行で、JR新潟、各保線区を回った。商材の利用の目的は、[レールの張り出し防止]とのことだった。気温が上がりだすと、レールの熱膨張がおこるので、これを封じ込める為にボンドを撒くとのことだった。少し、ややこしかったのは、ボクの立場の問題であった。商材自体のラベルには、AAAとしての表記は一切ないからだ。つまりボク達は、〈OEMの製造元〉との立場にならざるを得なかった。でも、強引に、図々しく、一緒にあちらこちらの保線区等へ、お礼の行脚をした。おばさまは、警戒心をもたれて困った様子もあったが最後は、なし崩し的に協力してくださるようにはなっていった。

  二回目ぐらいの訪問時にJR新潟から、急な呼び出しがある。うかがってみると、〈引火性の問題〉があるとの指摘が、とある部署からあったので、納品された商品すべてを即刻、引き取って欲しいと、担当官は冷たく言い放った...。おばさまは、「おろおろ」とボクに対応を求めるばかり。これは一つの正念場だった。ボクは、「防炎剤が入っているので引火性の問題はありません」との説明をした。JRの購買担当さんは、困った様子にすぐに変わられたが、『では確認試験をさせてもらってから決裁を行う』との話しでまとめられた。日時、場所が伝えられる。この試験にはボクは行かなかった。技術が行き、なんら問題無しとの結果になったそうだ。このあとは、順調に、大きなロットで、新潟からの発注をもらえる流れとなった。「どんどこどんどこ」夢のような、気持ちいいぐらいの荷運びだった。しかし、あの一件には、おかしなものを覚えた...。後日、聞いた話しでは、競合会社からの〈横やり〉が背景にはあったそうだ。いろいろな人間関係をバネに工作をしかけてきたのだった。*彼らも引火性の問題の改良を済ませたので、ここを突けると思ったのだろう。

  新潟での起動に呼応して、仙台が、札幌が、少し遅れて関東エリアが、あの商材の利用を始めた。とうとう[ほんちゃん]の到来となる。不思議なことが一つあった。JRの購買の考えとして、なんでも「一社独占はよくない」との方針が少し前に出ていたそうなのだ...。絶好のタイミングであった。この方針がでていなければ、「いいのは知っているが、うちでは使えない」が購買担当官達の判断になっていたかも知れない。いや、かなりはそうなっていたはずなのだ...。*〈奇跡〉以外のなにものでもないのです!。

  このテーマのビジネスは巨大だ。そして、とんでもなく閉鎖的なものだった...。なんでも、とある◯◯◯の利権として、これまで存在をしてきたとのことだった。かなりデリケートで、ややこしいものが背景にある。ボクは始まりから7年間程、担当をさせてもらった。だが、ある時節に、これを降りた。もう関わりとしての役目は終わったとの感があったからだ。更には、もし、あのややこしさに関して課題があがってくれば、対処することは自分には無理との思いもあった。(頭が単純なので)。
既に仕事は継続的に、右肩あがりで大きな展開をみせていっていた。タイミング的に、新たな人的投入(ショック)をしたほうがいいとの考えもあった。結果、新たに担当になった者は、ボクでは突破できなかった、名古屋エリアでの採用にも漕ぎ着けてくれる。

              〈おしまい〉


追記:

ボクの果たしえた金額的には一番の成果だと思う。
ボクが会社を去った後も、仕事は続いていた。

このテーマは、父へのプレゼントとして天が備えてくれたものだ。なにより名誉を重んじる彼にとって、
これにまさるものはなかったと思う。これまでは、彼には恥の思いしかさせることしかできなかったボクにとっても。

工事部のあの人は、女性問題が災いして会社を辞められている。
ことの始まる起動前夜のことだった。

この仕事に投入したエネルギーもそこそこだが、他にもっと苦労するものがある。
【感圧体】と呼んでいたもの...。

ショックは当然、インターバルを埋めるためのもの。さもないと曲折していってしまうのだ...。

あの霊能者の予言は、これで、ほぼすべて成就したことになる...。



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