4.2 D. Hunting 軌道メンテナンス(2)。

文字数 2,063文字

  [道床◯○剤]、このケミカルに求められる物性は、〈低粘度〉と〈速硬化〉がまずある。*線路脇での施工においては、エアースプレー、場合によってはジョウロ(ヘッドナシ)を使って撒くためだ。更には、「不快な臭いはダメ!」があった。大切なことは、固まったあとの〈強度〉も重要ではあるが、それは当然として、むしろ現場の[作業員]にとって、負担やストレスがないことが一番大切だった。技術者でもないボクが言うのはなんなんだが、こういったニーズは、たいして難しいことではない。粘度を下げたければ、溶剤を増やせばいいだけ、早く固めたければ触媒を混ぜ込むだけでことは済む。臭気に関しては、少し値は張るが、その手の溶剤を使えばいいだけの話しだった。信じられないぐらいに求めは易かったのだ...。ただ、当社のボンド事業部には、石を固める目的の製品は、これまでなかった。少し、従来品の調整と現場での試験施工を積み重ねる必要はあった。また、なによりも競合となる[現行品]の入手が〈一番手〉であるとボクは考えた。

  銀座の会社は全国に支店をもたれていた。*そりゃそうだ、鉄道は日本全国を走っているのだから。「現行品の入手が適うであろう場所は仙台だ」との話しがあった。飛行機で大阪から仙台へ飛んだ。仙台支店の方が頑張って協力してくれた。鉄道保守の担当官へ電話を入れて、「少しでいいから現行品を分けて欲しい」とお願いして下さる。みんな地元の人間で、人間関係は強いものがあるらしい。が、なかなかいい返事はもらえなかった。しかし、とうとう、とある担当官が、「現行品に不満があり」とのことから提供することに「OK」と応じられる。*現行品には〈臭気〉面での問題があったのだ。数時間、車を飛ばして一緒に取りに行った。小さなアルミ缶、幾つかに移し替えて、持ち帰り、技術に渡す。

  銀座の会社は東京の◯○◯に工場をもっていた。試作品において、ここで最初の試験が行われた。一寸した〈檜舞台〉ではあった。〈火〉に対する防炎性があるか?も、重要な確認事項の一つだった。火を近づけると、「メッチャ燃えた」。なんと、うちの技術者は防炎剤を入れるのを忘れたのだ。「駄目だわ、これは...」との声が「ちらほら」と周りから聞こえてくる。これでは場がもたないと感じたボクは、現行品にも同じく〈火〉を近づけてみた。ありがたいことに、これも同じくらいによく燃えた。参加者には、取り敢えず、火に関してはイーブンとの印象を持ってもらえることができた。この試験に参加していた内の技術マンは、あとでボクに感謝の意を伝えてくれる(えらく恐縮してた)。取り敢えず、調整のやり直しが続く...。

  やがて、それなりのものが完成する。これの〈薄っすら甘い香り〉の評判は、よかった。試験的な散布が仙台のJRの線路上で行われる。結果、強度も問題なしとのことだった。しかし、ボクは心配性だ...。ある程度の日数を経てから、風雨にさらされたあとに、ボンドがどんな様子であるかを確認したいと思った。この申出は適い、先の現場を一ヶ月後に、改めて訪れた。上辺の様子には問題は認められなかった。念の為に石を砕いて、底の方の様子も確認してみた。すると、「なんと!」、土面に近い底の方では、ボンドは〈ビニール状〉になって固まっていたのだ。これは「よろしくない」と思った。まさに〈ケミカル汚染〉としての印象そのものと、ボクの目には映ったからだ。これは大問題だと思われた。もし将来、広範囲でうちの製品が使われてしまった後に、こういった事態が問題視されれば、大変なことになるかも知れないと思った。例えば:バラストは〈ケミカル汚染〉により、総入替えの方針になり、その面での経費の全額を請求される可能性が考えられた。この形状変化においての問題の改良を技術に求めた。希望のイメージとして、「膨潤しない」「硬化後は鉱物質の見かけになる」を伝えた。これへの改良は早々に果たされる。

  やがて、仙台、新潟、北海道での試験施工がJRの立ち合いのもと、いくつかの路線で行われる。ボクは全てに参加した。うちの技術も参加はしたが、銀座の会社が[表の演者]なので、我らは隅のほうで小さくなって居ただけではあったが...。
とうとう[売込み]がスタートしていったのだ。銀座の会社も大きな売上が見込める、新たな商材とのことで、頑張ってはくれていたと思う。しかし、期待された展開は、「なっか」「なっか」に、現れてはこなかった。

それでも障害は 未だ、いくつも潜んでいたのだ...。

               〈続く〉


追記:

価格においての条件は、えらく融通の利いたものだった。現行品の値段を元に試算をすると、当社品の粗利は◯0%オーバーになった。ボンドの仕切値としては大変魅力的な価格帯だ。【安全】への投資との名目があるからか?と言えばそれだけではなかった。
一つおかしな状況が、実は[道床◯◯剤]のビジネスにはあったのだ....。
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