3.4 Invasion 丸まると太った...。

文字数 1,617文字

  権威ある立場に立つと、人は誰か下位の人間を公衆の面前で、貶(けな)したり、貶(おとし)めることをしたがるものだ。周りへの〈見せしめ〉であると同時に、自己の優越感の満足の為なのだろう。全体朝礼などで『父』も、よくボクを的にしてこれを行っていた。一般の社員へは、なかなかに出来ることでは無かったであろうとは思う。しかし、トップが『母』に代わると、この目的におけるボクの扱いは、たいへん”タチ”が悪いものになった。舞台は、いつも取締役会である。母の脇を固めるのは浅川配下の人間たちだ。ボクは正論しか言っていない。彼らが提案し、推し進めようとしていることへの不安材料、危惧を述べただけた。どういう気遣いからだろうか、母にはすべて自分の面子を汚す発言として響いたようだ。『あんたは黙っていなさい!』『あんたは何にも分かっていないのだから!!』とのお言葉をいただく。更には、嫌になるほど聞き慣れたセリフ『あんたは大体がいい加減で、だらし無い人間なのだから』等が付け加えられていく。いい晒し者だ。浅川等は満足気に、これを眺めは聞いていた。そして最後、颯爽と彼らを引き連れて、母は会議室を後にするのが常だった。後にはボクだけが「ポツネン」と残される。さぞかし第三者が見れば完璧な悲喜劇であったであろう...。

  二世塾なる中小公庫さん主催のセミナーに出される。場所は東京のどこか。ホテルに缶詰にされる。浅川は、このタイミングでボクを夜に外へと呼び出す。行かぬわけにもいかなかった。電話口での彼の口調には「逃げんなよ」との含みがあったのだ。その晩は、セミナー上がりで完徹となる。彼は、会議等でのボクの〈あり様〉が気に障っていたのだ。「一丁潰しとこか」との思惑であった。いや、なんのことはないのだ。スナックへ連れて行って「そこで炙(あぶ)れさせておけば、それで参るであろう」との算段でしかなかった。彼の連れも含め、3人で数件をハシゴする。場が始まれば、すぐにボクは捨て置かれる。二人してお姉ちゃんを相手にお喋りに興じ続ける。こんなん察するのに時間はかからない。ボクはボクでお隣さん相手に一人で好きなことを言って楽しんでやった。これは彼には想定外であったようだ。「不快な眼差しでチラッっと見て寄越した」。最後は、浅川と二人で、どこやらのシティサウナに行き、大部屋の仮眠室で朝まで寝ていた。少し寝て、すぐにホテルに飛んで帰った。*基本外出はダメだったのだ。

  ある時に彼の企みが発覚する。上場前夜の頃である。母が関係書類を中小公庫の担当者に預けたところ、ことが判明したそうだ。『これは会社の乗っ取りですよ』と。ギリギリのタイミングであったらしい。いや、あちらが必要な資金を用意しきれていないと言った幸運なる状況がそこにはあっただけの話だそうだ。

そして、社内の動揺を安定さねばという理由で、急遽ボクは大阪に呼び戻されることとなった。

       〈了〉

追記:

彼の連れてきた何人かと関係を築くべく、ボクの新規関係にお連れしたことがある。
驚くのは、獲物に対する彼等の反射神経の素早さだった。簡単には身には備わらない。そして、仮面を剥げば、恐ろしく傲慢な顔がそこにあった。もう人間では無くなっている。

この後登場する千里眼の方によると、彼は母の体も狙っていたそうだ。
既に、かなり際どいところまでいっていたそうである。
なんでこんな話を聞かされるのか、今だに理解に苦しむ。

取り敢えずは、大きな危機を脱せたが、これは只の初回でしかない。
以降には、更に二件が控えている。
あれ等も...「大変によくできている」(ボー読みで)。
母には『学ぶ』ということがなかった。
〈夢見る永遠の女子高生〉それが彼女の本質である。
そして、もうこれは生涯変わることはないのだ...。


ブロードウェイの女優が自分には適職であったそうだ....。
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