8. Expelling Causer 隙間ねらい。 

文字数 4,058文字

  ユーザー(候補)をまわると、いろいろと〔技術〕に対応を求めることがでてくる。頼りになる《向日葵おじさん》が、いつもボクの側に居る訳ではない。彼は彼で、精力的に外を飛びまわっている。直接、技術に接触することになる。すると、毎度毎度、「お嫌ッ」であることが、露骨に、すぐに窺(うかが)える。「コイツは、いつも現場をかき回しにくる」。激情の気配が見え隠れしている...。ある課長さんの話しだけどネッ。彼は真面目なだけなのだ。みんな忙しいのだ...。こちらはいつも、その為にジレンマを抱え込むことになる。

  ある時、一人の技術マンが、ボク専属でつけられることになった。さぞかし優秀な人であったかというと、しょゅ訳ではなくて、ある意味〈逆〉...。技術部のお荷物さんを押し付けられた。それもかなり年輩の人だ。社歴が長いということだけで、かって部長職にもつけてもらったこともあるが、現場の総反発にあい、弾き出されてしまったという経歴の持ち主だった。ある意味、可哀想な人。名を〔大◯さん〕といった。その当時のご年齢は47歳。タイプ9。見かけは、背の高いムーミン・トロール。少し、勘所がみんなと違い、ズレてはいたな...。どうでもいいと思われる細々とした事柄に異常に詳しかった。どこそこの会社の配食は、なになにが引き受けていていて、ドウだコウだとか。人はいいのだが、ご多分に漏れずプライドが高い。ボクは当然にやりにくい。

  この大◯さんを連れて、遠出をしたときのことだ。ビジネスホテルで一泊する。翌朝の打合せの為に、「ボクの部屋に来て下さい」と内線で呼んだ。そしたら「お前が来んかい!」と宣(のたま)われる。「まあ、まあ来て下さいよ」と堪えて、お願いをした。「でッ」、部屋に来られてたらメッチャ不機嫌、ブッキラボウ。本件は、あの鉄道ネタだったのだ...。立場としても、ボクとしては大きな顔をしてもいいハズなのだが関係ないらしい。また、彼にも日の光を当ててあげたいとの思いで、一緒に連れてきている事情もあった。*善かれと思ってしても、相手にはそれが理解されず、歓迎されない場合もある。
  翌日の現場では、また別人のような張り切り様と仕切り顔であった。無闇にテンションが高かった。JRさん相手では躁病的なまでに元気で愛想よく喋られる。彼は彼で、溜まりに溜まったものを、さぞかしお持ちではあったのだろう...。「こんなん制御できる訳がない!」。「でっかい赤ちゃんやん」。ボクは呆れていただけ。「まあよい」。ことが良い方に進んでくれさえすれば、それだけでよかった。

  ボンドのニーズ(テーマ)として、ボクが好んだのは、ある種の隙間(ニッチ)と思えるものだ。数量やビッグネームを追うことは絶対にしなかった。当然、過当競争が厳しいに決まっている。地味なれど安定的なもの。そこに特殊なものの要素があれば「ビンゴ!」である。また、当社にとって、基礎技術の開発の機会につながるものにアンテナを張った。

  一つ引っ掛かってきたものがあった。自動車のウインドーのチャンネル部材である。ウインドーを下げると、ドアのふちに植毛されたゴムが押さえとしてある。これだ。ボンドは植毛のために使われる。どうやって、このテーマを見つけたかというと、あまり付き合いのない商社とも積極的に接触をもってみたからだ。個人会社である植毛部材の専門職人の方を、この商社から紹介されてたことがことの始まりであった。四方山話をざっと聞いて、何とはなしに「ピン」ときた。ボクは、先行きが読めないまでも、なぜか執念を燃やしてしまう。

  関係者を「商売が成り立ちますように」と、それとなくコーディネートしはじめる。推進していく。これは、それなりに気苦労と手間がかかる。やんわりジワジワ、みながこのテーマを忘れないように...。時間をよく計って、各関係者への訪問を積み重ねていく。また、当社の技術には、しっかり対応をしてもらわなければならない。

  このテーマの技術対応は、すべて大◯さんとなった。タイミングが、状況がそうさせたのだ。外の関係者達への気づかいとは別で、ボクの彼への求めはシンプルかつストレートだった。「求められる仕様のものを作れ」「ASAP」でだけ。あまりとやかくは言わない。ただボクは、なんでも真剣なので、暗に伝えられるプレッシャーには、相当なものがあったかも知れない...。売込みの先端はあの専門職人。間に二社商社が入る。もの自体の開発、製造はAAAの担当であった。

  自動車に使われる部材と言うこともあって、寒暖や雨、そして摩耗に関しての耐久性が重要であった。供与したサンプルは、顧客が物性を試験機で確認する。内容は、かなり「シビアー」である。その結果が、まずは「すべて」であった。また、いつもの如く、ボクのできることといえば、「祈る」ことだけだった。執念の思いだけの日月が、ここでも積み重ねられていった。なんにしても、ことの成否を『今』握っているのは、あの大◯さんなのだから...。祈りも、常より強いものであったと思う。最終、試験は「合格」との連絡をいただけた。誉め讃えにいくと、大◯さんは、ゲッソリと憔悴したご様子であった。

  このあとぐらいに、大◯さんは、会社を移られる。社長の斡旋もあり、付き合いの長い商社さんに行かれたのだ。今回のテーマも、お土産に使うこと(口実)になってたのかも知れない。商社さんは技術の分かる営業としての有用性を期待されていた。すべてタイミングが関係していた。大◯さんには渡りに船と思われたのではないか...。このまま、ボクの下で、これからもを過ごすことは平和主義者の彼には無理ではあったと思われる。

追記:

商社のうち、一社は関係者内での話し合いで、外すことが決められる。実際、三社も商社が入れる余地はコスト面でなかった。すべての始まりは彼とのコンタクトであったのに...。

先端の専門職人さんは、名古屋を皮切りに、各自動車会社への売込みを実績を元に開始していく。経理からの報告、数量と売上の伸びは、意外なものとボクには思えたほどだった。かなり先、なんかの腕時計がボクに、あの激情の課長さんを通して届けられる。「いらないので、誰かにあげて」と受取らなかった。

その後、伝え聞いた話しでは、移られてからの大◯さんの評判は、かの地でも、あまり芳しいものでないとのことだった。商社には失望感があったようだ。また彼は、この時から10年を経たず亡くなられる。ご家庭も、お持ちであったはずなんだが...。

彼のあとも、ボクには部下として技術マンが、都度つけられることになる。のべ4名。みんな、なんらかの事情のある人ばかりである。そして、すべて会社を去ることになる。

激情の課長さんは、現在は取締役だ。いずれは彼が◯○になると、◯○は観ている。
ボクじゃない。ボクには関心ない。


IMT.of Christi (12.2-5)
  Sometimes it is good that we put up with people speaking against us, and sometimes it is good that we be thought of as bad and flawed even when we do good things and have good intentions. Such troubles are often aids to humility, and they protect us from pride. Indeed, we are sometimes better at seeking God when people have nothing but bad things to say about us and when they refuse to give us credit for the good things we have done! That being the case, we should so root in God that we do not need to look for comfort anywhere else.
  when a person of good will is troubled or tempted or vexed by evil thoughts, then he better understands his need for God, without whom he can do nothing good at all. In such a state, he is sad and he sighs and prays because of the miseries he suffers.

  時々、人間関係においては我慢しなきゃならないことがあります。せっかく相手を慮(おもんばか)って、よいと思われることをしたのに、相手には悪くとられてしまったり、誤解されて、こちらが欠陥のある人間だと評されたりすることもあります。これらは私たちにとって、実はよいことなのです。なぜなら、こういったトラブル(困難)があることは、私たちが謙遜であれるために役だってくれるのです。虚栄心(プライド)に陥らないようにしてくれる。(略)
  善意ある行為が踏みにじられ、侮蔑と嘲りを受ける...、片や、内面では悪しき想念がために苦しんでいるとするならば、その時こそ、彼は、神の助けなしには、なにも、善きことは行いえないであろうことを得心する。彼は、嘆き悲しみ、その苦しみのゆえに、神に祈りを捧げるようになるのです。[意訳:byME]


今回の訳はソフトだ。罪悪感のためだろう...。
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