5.3  Good Shape but Fake 最後の開発。

文字数 3,976文字

  大阪府○部のとある新興地帯。駅すぐそばの丘陵に新社屋は建設された。区画の縁に土地があったことから、それの容姿は駅ターミナルからすぐに見定めることができた。まさしく、丘に聳(そび)えるモダーンな城といった風情の建物だった。直方体に円柱の構造物を配したセンスのいい鉄骨○階建のビル。入口は左右に分かれてる大きなガラスの自動扉。玄関ロビーは広々とした円で吹き抜けになっていた。
いや〜、あれは[城]以外の何者でもない...。

  大阪市街からはかなり遠い。母の自宅からならたったの30分ほどではある。電車もあるが本数が少なく運賃はやけに高い。車での訪問が妥当だと思う。なんでもこの開拓地は、府が武○薬○の誘致を取り逃がしてしまい、急遽、方針を転換し、移転を希望してくる会社ならなんでも受け入れていたそうだ。本来であれば、バイオ関連の会社の集積地を目標に整備が行われていたのだけれど。多分、法人税や地価も恵まれたものになっていたのではないか?。糟谷先生の強い勧めがあり、母はここの購入にGOサインを出したらしい。

  片や、市街に獲得した新本社ビル、その三階にボクの所在は移った。隣席には、新たに部下となった技術マンが一人(6歳ほど上で未婚)。ボクにとって最後の課員となった人。先に言っておくと、彼はボクに対しての見張り番であったらしい。色々と動静をうかがい、社長に逐次報告をすることが[メイン・タスク]であったそうな。まあ、これは後になって分かったこと...。

  彼もキャラクターの人だった。技術内で持て余されていた。異常に高いプライドの持ち主。*同行すれば絶対に人を前には行かせない。あまりにその強力な威圧感には辟易させられたものだ。また根性があり過ぎの人だった。かって、台湾での技術指導員として長期滞在させられていた。彼には名誉で、性に合う場所だった(のかな?)。当時台湾は圧倒的に金利が高かった(4%越え)。であったにも関わらず、彼は現地が長いにも関わらず日本への送金をセッセこしていたそうだ。陳さんは、ちゃんとアドバイスはしたそうだ。彼の選択は不合理で理解不能だとボクにこぼしてた。「頭が固いだけの話だ」...。

  彼にはタイに同行してもらっている。とある会社の社長さんの誘いだった(開発に成功した会社のキーマンに昔紹介してもらった)。しかし、これはその会社の策略でしかなかった。ウチの技術のカッパライがその目的であった。でも、最初はそんなことは分かる訳がない。一つの可能性としてそれに乗ってみた。タイには、彼の会社が現地との合弁で作った工場があった。うちと同系統のケミカルだ。しかし経営はうまく行っておらずそこは閑古鳥が鳴いていた。立派できれいだけれど「ガランガラン」で、製品が見当たらない。あちらの提案は、[OEM]でタイで製品を作らせて欲しい、そして営業かけさせて欲しいとのことだった。しかし最終、この話は「無し」との判断をボクは下す。工場の設備は製品を作るに充分なものだった。だが、会計ソフトが入っていなかったからだった。同行した彼は、ボクのこの判断に大いに不服との反応を見せた。日頃クールなタイプなのだが...。かって彼は、昇美龍の隆盛に関与してきたせいもあり、夢よもう一度の思いだったのだろう。しかし、その後のアレの顛末も聞き知ってはいるはずだろうが...。「やりたきゃてめえの金でやれや」の思いだった。

  昔、名古屋での営業では全く成果をあげることはできなかった。相性が悪過ぎた。しかし「伝手」を作ることはできた。ある人間との出会いがあったのだ。例の鉄道関係の会社の名古屋支店、工事部の方。永田さん。歳は五十を少し回っていた。(略)以後、懇意にしてくださる。やがて大阪に配置が代わり、そして最終、ご出身地である九州博多に転属される。大阪支店在籍時は、工事があば、うちの製品を担いでくれた。なぜか現場は東海エリアだった。人間関係のため、離れて尚、面倒を見なければならなかったそうだ。『中々に放してもらえない』とこぼされてていた。馴染みの飲み屋に連れて行ってもらったことがある。そこのママは永田さんはのことを『本当に純粋で子供みたいな人』と感想を話してくれたことがある。そうだその通り...本当に「ホットする」タイプの人間だった。あまりインテリでないことにも安心ができた。ボクにとっては『寅さん』であった。

  例の鉄道関連のビジネスは、西日本では一切取引は無かった。営業には行っていなかった。誰も手を付けていないということで、ボクが動くことに問題はなかった。九州に向かう途中、広島支店の方ともアポをとった。とても純朴で真面目な年配の方だった。駅構内で会った。彼は、あまりピンとこないが、今度ニーズに関して調べておくわとのことだった。そしてボクを原爆ドームに連れて行った。路面電車での移動は少し観光気分を味わせてくれた。なんなのこの展開?との思いもあったが、記念碑の前で一緒に二人して手を合わせたてた。博多支店では永田さんには結局会えなかった。支店長なる方、お一人しかおられなかった。取り敢えずの話しかできなかった。こちらも調べておくわとの回答止りだった。帰りの途上、永田さんから電話が入る。愛情表現いっぱいの恨み節であった。「またすぐ訪問しますので」と詫びと挨拶にかえた。しかし二度目の訪問はあり得なかった...。

  靴の中敷のテーマがあった。「そんなありふれた商材の開発なんかやめましょう」と、女子ロッカーの覗きで首になった課員は、かってボクに意見した。しかし、あの特殊な海綿体の用途としての可能性として外すことはできなかった。梅田の阪急「イングス」(現在閉鎖)に東京からとある靴メーカーが出店を出していた。この会社は一度潰れて、全従業員で株式を引き取り再建したという珍しいところだった。無骨いまでの堅牢さが製品の特徴だった。かなりマニアックな靴を作られる。駄目元で声をかけ、営業要員の一人にサンプルを渡した。後日、穿きごごちの調整材として引き合いをいただく。デリケートな、足に障害のある方で試したところ、反応がよかったそうだ。しかし、電話を受け取ったボクは、どうしたのもかと大変困ることとなる。なせなら、その時の状況は自宅待機を命じられており仕事を進めることができなかったからである...。


  業務再開後の活動を表してみたが、実働時間は、のべ一週間もない。他の時間は、糟谷先生の所でクダを巻いて過ごしていた。会社に顔を出さなかった日も多い。直接の上司は多分母になるのだろうが、あまり意識をしていなかった。以前のように、勝手気儘、自由に動いてしまう。この様子をもって、一ヶ月後のある日、ボクは自宅待機を申し渡されてしまう。そして、ある課題を達成することを命じられる。*これについては次回のエピで...。

追記:

なかなかに意地の悪い演出が色々と凝らされていた。極端でメリハリが効き過ぎ。

礎石板に彫り込む字体、母はこれを妻に依頼した。彼女は書道の心得がある。
妹と旦那の居場所(デスク)が、こちらにも整えられていた。

以前、ここが完成まじかの頃に、一度糟谷先生の求めで、ボクは先生を車でお連れしたことがある。先生は外見を確認するだけで、中には入られようとはしなかった。後で、このことは誰かから報告が行ったのだろう、母にこっ酷く叱られる。先生は、自分がやがて連れて行きたかったそうだ。そして、ボクにはあそこには行って欲しくないとのことだった。『それと、糟谷先生は私の知り合いなんやで〜でもう会わんといてっ!』と嘆息。

技術マンの彼には、ボクのユニークな発想(w)においても技術対応をしてもらった。いたく不愉快な面持ちでいやった(浪速)。なんでも、遣らんうちに判断を下すのはいかがなものともかとボクは思うのだけんど..。

「同行すれば絶対に人を前には行かせない」。これが災いして彼は首になったのだと思われる。彼は妹のお付きで二人でニューヨークへ行ったそうだ。カードの所持をしておらず、ホテルの支払いを彼女にさせたのが裏(の表)で囁かれる理由であったそう。でも、おかしくない?。やっちまったんだろうな。相手が悪い...。

技術マンの彼との同行は、なんとも気詰まりで詰まらない旅程だった。かっての『ムーミン・大○』の方がまだ可愛げはあったと思う。まあ多分彼は、社長からの特命気分でボクとのペアを受け入れていたのだろう。「溺れつつある犬あれば、取り敢えず石を握りしめておこう」の心づもりだったのだろう。まったく心の通じ合わない関係だった。

直立不動で支店長の前に立ち尽くすボクの姿を、永田さんは哀れに思ったらしい。名古屋の支店長さんは、まったくボクを相手にするつもりは無かった。新規の売込みなど面倒臭いだけの話だったのだろう。ただ、いなされるだけ。辱めにも等しい対応だった。

ヨネちゃんは、知らないうちに、仕入れの中継として、彼の知り合いの会社と話をつけていた。*ボクになんの相談もなくだ!。そこがAAAから海綿体を仕入れて、あの靴屋に売るというスキームだ。「で、ボクはどこで利益をとれるの?」と訊くと憮然な顔つきで遠くを見てるだけ...。庇護者の顔をした横領ハウンド。図太い神経だこと...。これを知った夜、即座に東京支店の人間に電話をかけて、後のフォローを整えた。電話の相手がアイツであったのが、また演出が冴えている。「あとをよろしくお願いします」と電話口で頭を下げた。ヨネちゃんは、あれで完全にボクの中での信頼を失うことになる。
以降も、メンバーとしての関わりは続いては行くのだけど...。
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