6.1 Taiwan AAA 昇美龍(1)。

文字数 2,155文字




  「どうね?、私にこれの日本への売込みを任せないか!」。福建省の木工加工業者を相手に陳◯宗は、こう話しを持ちかけていた。商材は木の”椀もの”であった。『どうぞ勝手にするよろしアル』と業者は答えた。大きな商売につなげてくれるなら、誰でもいいから期待してるよとの返事であったそうだ(w)。福建省は彼の出身地であった。
”荒削りの木の椀”である...。言ってはなんだが、[こんなものの]ために、彼はワザワザ台湾から飛行機で日本まできて、あちこちの地方の業者に売込みを行っていたのである。(前の会社、理晃にいた時に)この道程への[アテンド]をしたのがボクと彼、陳◯宗との出会いであった。側で見てて「行商やん...」との思いがあった。彼の最後の決め台詞はいつも『 どうねッ!』であった。邪気がまったくない。愛嬌としての印象しか残らない...。陳さんは、見た目はアンパンマンにそっくりである(えらいでっかく太っといアンパンマンだこと)。「どうね!」やないで、とボクはそばで密かに思ってた。この商談が果たして上手く行ったのかどうかをボクは知らない。彼にしてみれば売物は、なんだって良かったのだろう。いろんな商材を担いで、日本にきては売込みをこれまでにも行ってきたのだ。なんの当てもなく...。そして、鏡の中の自分へのバカ野郎である。彼もまた[誠]なる愚者の一人であった。

  ボクは彼に連絡を入れて、会社に来てもらった。少し社長に時間をとってもらい彼を紹介した。Nも呼ばれて同席をする。父はNに「彼(ボク)は、この陳さんと台湾で新規開拓をやりたいそうだ」と話す。Nは、いやいや私に相談することではないじゃないですかとばかりに照れ笑いをうかべながら、慌てて「是非に」と言葉を発する。ことは整いボクは台湾へと出立した。

  当地で、ボクは何かをした訳ではない。陳さんについて、彼の知り合い関係をいろいろ回ったに過ぎない。訪問した先は、台中と台南が多かった。先のNとの台湾紀行の折は、現地商社の立派な車での移動だったが、今回は列車での旅である。場所は、みんな辺鄙な所ばかりだった。そういった所だからこそ行く価値はあるはある。中小の工場、会社を多く見ることができた。会話はすべて台湾語。陳さん一人で喋ってた。その、よく喋ること、よく喋ること...。大体の内容は雰囲気で分かった。ボクは、その日本の会社の代表として愛想よくしているだけでよかった。いたくフランクな最初の「你好」(ニーハーオ)だけがロールだった。「この人が、社長の息子、二代目さんだよ」の台詞は、話しを真面目に聴かせるには効果があったと思う。新しいビジネスを一緒にやりませんかとの申出が中身だったのだ。ボクは基本、陳さんにとやかく何も言わなかった。事後も会話の中身について尋ねはしなかった。彼が好きなようにしてくれれば、それで十分だった。彼は、とても楽しげに生き生きと話をしていた。

  みるみる強く関心を寄せる人々が集まってしまったらしい。どんな思惑でいたのだろうか?。彼らは、新たな事業参加への機会(チャンス)と見たのだろう。日本のちゃんとした歴史ある会社が、ここ台湾で初めて会社を設立しようとしている...。お金持ちなれば、当然に興味は涌くわな〜。それも、この話しを持ってきた人間は、〈アンパンマンおじさん〉と〈このボク〉である。人物読みの達人である◯○◯達からすると、初段は『クリアー』。あとはかなりの踏み込みを急ぎ進めてしまう。

 これが

カタリティック・トラクショナル・エマージェンス・フェノメノンだ!

             Catalytic Tractional Emergence Phenomenon

               (通称『でてこいシャザーン』)

                 「バルバルバルバル!


                     ご参考...








  5人程の台湾人がまとまって陳さんの引率のもと、日本のうちの会社を訪れた。中にはボクはお会いした覚えのない年配の女性の方もいた。会社は一時、えらく華やいだ雰囲気に包まれる。社長は思わぬ舞台の設えに、ご機嫌よろしく出番では、いろいろと、長々と、話しをされていた。陳さんは、日本語が分からない人たちには通訳をしてくれている。幹部達も順次呼ばれて、いろいろと自己紹介をしていた。ボクは、少しそこに軽薄なものを感じていたが、取り敢えずは良い展開なのかな〜との思いで側で眺めていた。その晩は、盛大な歓迎会が催される。幹部達は大挙してこれに参加していた。陳さんは忙しくてボクの存在など忘れたかの如きのご様子であった。
「バルバルバルバル...」。

  その後の話しの展開は一切ボクには伝えられなかった。あとできいた話しでは、出資額にもとづく株式の所有の割合において、社長(父)は強引な方針を伝えたらしい。
おそらくは「うちは技術を出すので五割以上をよこせ」とか...。
すべては夢のまた夢と化す。
「バルバルバルバル...」。



補記:
本トークの最初のアイコン、あの絵がなにかお分かりであろうか?。
聖愚者『パルシファル』 by Odilon Redon。
ボクは、この絵を最初見た時に泣いてしまった...。




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