9. Taiwan AAA 昇美龍(3)。

文字数 6,027文字

  去年(2017)の正月の二日に母は亡くなった。「家の外で転けて」が原因であったそうだ。そのため遺体確認は警察署で行うこととなる。警察からの連絡がボクに届いたのは夕方で、丁度、嫁の実家にいて夕食が始まったところだった。新年のご挨拶での訪問であり。毎年恒例の集まりで、そこではボクは肩身の狭い思いをせねばならない。社会的な立場も失い落ちぶれて、何ら芽が出ないままの状況が続いていている。義父からはもう関心を買われることもない。…中座して妻と二人して急いで家に帰った。

  豊中警察署ではボク一人でかなり待たされることとなる。その間に長女の妹が派手目の身なりの男と一緒に現れた。その男は運転手付きであることがあとで分かる。そして、ドヤドヤと急ぎ現れたのは社員であろう複数人。彼らは妹を取り囲んでいた。ボクには一人として面識のある人間はいなかった。気まずい雰囲気の中、ボクは長の時を過ごした。妹と言葉のやり取りはあるにはあったが、どれも相手をお互い警戒しての上辺だけのものでしかなかった。こと(検死)は済み、警察署の前でボクは妻の迎えを一人待つ。帰りがけの妹が車の中から声を掛けてくれたが、妻待ちであることを伝えてお誘いは断った。

  この後は、妹との連絡の窓口は妻となる。いろんな法事のスケジュールが伝えられる。【こと】の真相を知っているボクが、直に妹と連絡を取り合うなどできようはずもなかった。この連絡係としてのこの働きにおいて、何故か妻の態度にはボクに対する余所余所しさを感じることが多くなる。「私がいなかったら、あなたではここでの難局を仕切れないでしょう?」と優位のポーズが露骨になり鼻に突き出す。「何か勘違いをしているな」と思った。サポート役が自分を主役だと思いだしている節があった。連絡役としての立場の誇示が圧を強めてきたので、「(連絡窓口を)したくなかったらしなくていい」と一度ボクはキツく申し渡したことがある。『そ..そんなこと出来るわけないでしょ..』との困惑の反応だった。「いざここに至っても..」との思いでボクは寂しさ侘しさを覚えていた。これまでとは違うのだ。「一年以内にすべては間違いなく決着するのだぞ!」。
補記:既に長く、妻はボクの前を行くことをなんとも思わないようになっている。いやそれが当然であろうとさえ思うのが常態となってしまっている。妻たる人の変質過程もちゃんと描き切らないといけない。*味方としての配役がアウェイの存在へと化す。あくまでデータとして、(悲しい)記録として残さなければならない…。

 主たる法事が済み、やがて妹方より、ボクが父より相続して保有している会社の株式の買取の申し出がある。これは〔最後の可能性〕のためにあえて温存してきたものだった。万が一に、なんらかの事情の変化が起こり、母がボクに頭を下げてくるケースもありえると考えていたがためだ。これは未練からの思いからでは決してない。本当にこういったことがあり得るとも思えた。しかし現実が決済され、その目はないことが確定された。ボクは即座に譲渡する意思表示を妻に伝えてもらっていた。

  妻は、妹に携帯で呼び出され会社を単独で訪問している。そこではボクを知る社員5名ほどから、ボクに対する非難を聞かされたそうだ。あとでその内容を聞くと、正直、首を捻らざるを得ないものばかりだった。矛盾だらけだと、被告たるボクには思えた。

  妻が聞かされた話の中に聞き捨てられない話が一つあった。昇美龍がAAAより輸入販売した製品においてクレーム訴訟があったそうなのだ。ボクは、まったくもってなんのことやら分からない。推測としての話なのだが、当地(台湾)では輸入が禁止されているケミカルを製造で使い、あちらで販売してしまったのではないか?。この訴訟における損害は、過去、取締役であったボクに責任があるのではないかとの訴えだったらしい。「よくもまあ、そんなめちゃくちゃな話をしてくるものだな~」と呆れて聞いた。確かにボクは、名目は会社の取締役であったし、昇美龍の董事長にも就任したはした。しかし実際は、なんら権限も与えられず、現場がみんな好き勝手にやっててただけじゃないか!。ボクは蚊帳の外にされていたではないか...。ボクに対して一つの礼儀を尽くすこともなく、いいとこ取りで、「しら~」とボクの頭を超えて台湾での仕事を進めていたではないか。それに…董事長になったのは、昇美龍の【清算】の為に、ほんの一時、取り敢えずの立場でしかなかったではないか!。みんな、お前等は、このことは知っているはずではないか?。多分、相当な額の損害賠償が起こったのだろう。いざ、ことが悪く転がれば、責任の転嫁を誰かにしたくてしょうがなくなる。プライドが高いのに恥知らず。「?」。
  
  しかしだ…これが欠席裁判であるところがミソだ。なんらかの思惑からボクが株券に対して執着したり、またこれをより高く売ろうという考えがあれば、なかなかに効果的かつ妥当な演出だとは思う。しかし実際のところは、《迅速なる清算》と《関係の完全終了》だけがボクの願いのすべてであった。「会社にはなんの未練も御座いません」。

  兎も角も、心変わりの可能性を妹は封じたかったのだと思う。『あんたが会社に返り咲く可能性はないよ』とこれを伝えんがための演出であったのだろう。しかし在籍していた時点でも、会社には、かなりの危機感をボクは抱いていたのだ。あれから7年を経た現在ではもうどうしようもなくなっている。株式の買取は、「会社の規定通りで」などとの、こちらにとってはかなり部の悪い条件であったが、それの丸呑みで良しとした。最悪を想定すれば、相手に資金がある内に一刻も早く清算を終えることを優先すべきとの考えだった。相手と軋轢となるようなこと、停滞を招くようなことは一切控え、迅速かつ円満にことが進むことにのみに神経を使った。できるだけの低姿勢で、礼儀正しくが、八卦からのアドバイスでもあった。ステルス・マネージメント。

追記:

妻は、妹と接触するたびに、「何か悪いもの」をいつも気配としてもらって帰って来ていた。それをボクにもたらしてしまう(得も言われぬ気持ち悪さが伝染してくる)。アレに「心を許してはいけない」と何度も注意をしていたのだが、ボクの言葉は理解してもらえなかったようだ。妻は権威に弱い傾向性があり、あれの暗示力が効いてしまうタイプでもあるがためなのだろう。アレと早く縁が切れることを願うばかりであった。

悲しいのは、第三者である妻は事の真偽におけるは判断は、少なくとも保留すべきところを、ある程度、あの場の影響を受けて帰ってきてたことだ。このあと更にボクを見下げる傾向を強めてしまうこととなる。

彼女も先の見えない長の年月を理不尽な苦しみに晒されてきてしまったのだ。荒んでしまったとしても致し方無いのです。とても申し訳なく、憐れみの思いに絶えない。
しかし...激しく既視感(デジャブ)だこと!。
尽くした相手に裏切られたと感じ、そのことへの復讐にも似た怒りに燃立つ。
誰かを思い出す。



Re: 情報公開。

ここに、ある男についての新聞記事がある。
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2005年(平成17年)4月14日(木曜日)の日付。
毎日新聞 埼玉中央
見出:『通貨偽造の被告に懲役3年6月判決』
内容略。締めは、『さいたま地裁川越支部において、上記を言い渡した』。
【弘田恭子】とある。
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*この新聞は、匿名で、善意の方が送って下さったものである。
  
誰についてなのかは言わないでおこう。
そんなことより不思議なのは、その後この男は居場所を大阪に移し大きな顔をしてシャバをうろついていることである。この辺のカラクリは○○先生が話してくれている。実刑判決なのだが…。無限に先送りされるだけなんだが…。ボクの世界観では、そういう不自然なことをすれば必ずおかしなことにいずれなる。そういったことも含めて、万が一が想定されていたのだ。

彼らは分かっていない。
何を犠牲にしたのかについて。
豚箱入りは免れることができるのかもしれない。
しかし『真っ当に生きる』ことを投げ捨てたに等しいのだ。
自分の人生を逃げることで無駄に過ごしてしまったことにいつか思い当たる日がくる。
その時にはもう取り返せない。恐ろし過ぎる……



  Re:昇美龍の変節とその終わりについて。

  話はかなりを遡る。1998年。昇美龍が形作られていく流れの時期である....。
父である社長がいなくなったことにより、ボクは後ろ盾をほぼ失うことなった。別に前面に出て、ことを進めるつもりは毛頭なかった。昇美龍においてのビジネスの話である。しかし、《制御》としての関与は絶対必要であると強く感じていた。「何に?』おいてかというと、《陳○宗、下請けとする台湾現地の会社、そして昇美龍の社員》に対してである。『人』を見定めることが大事であるとの思いからだった。最初に、組むべき相手を間違えてはいけなかったし、うちの人間のセンスには信頼はおけなかった。是非に、昇美龍の体制が整うまでは責任者として欲しかった。しかし、そういった立場は後ろ盾のない身となることで一切叶うことはなかった。正直、古参の社員らに蹴散らされて、隅に追いやられていたのが実情だ。新社長の母は、めんどくさい話として、ボクからの提案は退けた。*古参の社員への気遣い、彼らのヤル気を削がないこと、が勝っていたのだ。

そして結果、ボクが最も危惧した形で昇美龍は形作られていってしまう。

  初手として、「陳○宗さん、息子さんにも昇美龍に入ってもらってはどうか?」との言葉を彼に言ってしまっている。これは海外部のNがしたことだ。いい子ちゃんぶりっこの、虚栄心からの発言でしかない。『絶対に言ってはいけない言葉』であったと驚愕して、この話をボクはあとで聞いた...。

  陳○宗には、子が三人いた。上二人は、学力優秀。アメリがで遠に自立して成功をしていた。『がっ!』末の男子は日本の文房具会社に務めていることを以前に聞いてはいた。この末っ子が、いつの間にか昇美龍に入り働いているではないか!。彼は、『完全な現代っ子』だった。かなりに調子が良く、存在が希薄て軽い。末の子として甘やかされて育ったのは間違いない。実際会ってみて、ボクはいい印象を彼には持てなかった。そいつの入社により、陳○宗の働きの目的は変化してしまう。この若い末の子の将来を盤石なものにすべく、昇美龍の事業展開は利用されていってしまうこととなった。当然の運びでしかない…

  ボクはある時節に、別件で台湾を訪れることがあった。初めてこのことの事情を知るに及び、愕然とした思いとなった。陳○宗は『Nさんが、F部長さんが、勧めてくださった』『好きにしていいと言って下さった』との言い訳を、おずおずとボクに告白してきた。この時に、会社の様子を観察ができたのだが、かなりに厳しい危惧を覚えたものだ。副社長の肩書を持つ、末の息子の、ペラペラとよく喋るいい加減な話には腹が立った。一回どやしつけたったら、しゅんとなりやがった。父の陳○宗とは存在において、何かが決定的にもう違う。また、なんで彼の奥さんまでここで働いているの?、それも幼い子供を連れて?...。そして何?あの高級自動車は??...。これから昇美龍は、この家族の為に、すべては整えられていくのかとの思いで、ボクは大いに心配と不安を覚えていた。
 
  そして6年後の2004年、昇美龍における不正融資の話が起こってくる。現地の監査法人(トー○ツ)は、「いったいなんの監査をやっていたのか?」と首を捻りたくなる事態になっていることが判明する。要は彼らは勝手に別会社を作り、そこを通すことによって、かなりの額を毎度販売の度に抜いていたのだ。この事態の判明の経緯についてはボクは詳しくは知らない。ただ、なんでか、社長は責任の所在はボクにあると、すべてはボクが悪いとの考えに凝り固まっていた。確かに、陳○宗を会社に連れ込んだのはボクではあるが...。皆の居並ぶ会議の席上で、ボクは社長に激しく非難される。そして責任をとるべく、台湾に行き、これから昇美龍をどうするかを決めるようにと激しい怒りの様子で、無慈悲な加減で申し渡されてしまう。他の社員は、これまでアレと関わってきた者たちは、ただ黙っているばかりで、素知らぬ様子でこれを聞いていた。

  船越さんをお供に台湾に渡り、陳○宗と面談を行う。書類も提出されたが、直感で、既に向こうは辻褄合わせの準備を完了していて、もうどうにも出来ないことが察せられた。最近できたという台北101の観光でお茶を濁されるだけに終わる。そしてすべての社員は退社する流れとなった。既に準備されていた会社に移っただけの話である。

  現地の人間にすべてを任すということが、どういう事になるのか分からなかったのだろうか?。内は、みんな頭のいい人ばかりであったのに…。

  昇美龍は台中にある祭さんの会社に間借りする形でそこに移転させた。そこに小さな研究室を作らせてもらう。更にかって台北の事務所で使われていた表札を掛けた。都落と感じられたが新たな再起にジックリ取り組まねばと虚ろにではあるが思ってはいた。しかし社長より清算の決定が間も無く伝えられる。ボクの再起のための営為は突然に、中途半端な形で終了させられることとなった。

追記:

最後に、そこそこの投資で完成させた研究室は、祭さんへのプレゼントになってしまった。これまでのお返しになったのでよかったのかもしれない。大変、お世話になりました。

最後にボクの下におかれた技術マンは、この研究室で現在働いていると思われる。これは状況の流れからのボクの推察である。彼も辞めさせられたのだ。ここ以外に行くところはあるまい。台湾語はマスターしてるしね…。彼の退職における一斉メール配信には、「大変ご苦労様でした」との返信を、ボクは自宅待機の身ではあったが返している。

お断り:

今回は二つに分けるべき話が一つになってしまています。それも時間軸が全く違うものがです。原因は、前エピ終わりを少し引き継いで書いてみたかった所為です。情報も割愛が多く概要でしかありません。重要な事柄の多くが、まったく触れられていない 。前半の内容は(いずれ)もう一度、再構成して再帰させます。ただし、ここでのみの重要な部分もあります。… ”アレ” はもう再掲はいたしません。ここに埋め込んでおきたく思います…。  
 
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