3.4 The Day of Container 肉体の恐れ。

文字数 2,286文字

 Re: コンテナーの日

  ある日の午前、仕事半ばであったが、本社前に集まるように言われた。行ってみるとコンテナーが一本、正面に横付けに置いてあるではないか。それを運んできたトラックはもう去った後なのかもう見当たらなかった。そのコンテナーのデカいこと。ボクは集められた理由、これからどんな仕事をさせられるかなど全くピンときていなかった。集められていたのは正社員のみ。金閣&銀閣を筆頭に若手が8名、古参が3名、そして新入りのボクを含めての2名、総勢15名。*契約社員の熟年のおじさま方は戦力外と外されていた。

  コンテナーの扉が開き放たれた。中にはギッシリ箱が詰められているのが分かる。「入れれるだけ詰め込んだ」といった加減なのが「パッと見」で分かった。箱は薄手のダンボールにPPバンド巻き。大きさは45(W)x30(H)x20(T)㎝ぐらい。中身が何なのかは、ボクは終ぞ知ることはなかった。だが推察としては[薄手の屋根材]だったのではないか?と思う(一度チラリと、バラけた箱の中に薄い焼結板の束を見たことがある)。兎に角その箱は両手にもずっしり重かった。一箱で15Kg以上はあったと思う。

  始まりは、隙間なく詰め込まれた箱を、まるで力づくで引き抜くかのようにして箱は渡されていってた。リフターが高々と持ち上げた台の上で、率先してことを行うのは社長だった。あとはバケツリレーの要領で搬送は行われる。最終、木枠のパレットに小高く積まれる。すると電動フォークリフトがやってきて、二本の鉄串をパレットに差し込み、持ち上げては何処いやらへと運び去っていく。これの繰り返し。電動フォークリフトが三台、荷積みされたパレットを行きつ帰りつして運び去っていた。*(思い返せば、リフトの操縦は目まぐるしくも巧みなものだった。よほど訓練されていたのか、少しの無駄もない動きだった)。

  12人が荷下ろしを行なう。これは大変な労働だった。延々と尽きることのない荷運びの作業。みんな粛々とこれを行なっていた。しかしボクには無理だった。ものの30分程で体の動きはがた落ち、意識は朦朧としてくる。もうヨレヨレ状態だった。目敏くボクの有様に気付いた社長は、『お前、ええわッ、どっか外れとけ!』と言い放った。恥辱の思いを感じながらも、「もう保たない」と体が逃げるようにしてその言葉に反応する。速やかにその集いから抜け出た。総量の1割も未だ済んではいなかった。

  このコンテナーの作業は二週間に一回は、間違いなくある行事だった。ボクは4回参加し、少しづつ労働時間を伸ばしてはいく(毎度[退場]を告げらていたが)。そして最後の4回目。初めて、全ての運び出しが完了するまで作業を続けることができる。計:4時間近い内容だった。

  毎度この機会には、『体』が恐怖を覚えてしまい怖気付いていた。その「しんどさ」を思えば、逃げ出したい気持ちで一杯だった。しかしこの肉体の恐怖に打ち勝つことを大切な課題であると意識していた。むしろ精一杯、力の出し惜しみもせずに、作業を最後までやり通すことに執念を燃やす。これは真実。そう出来ることを、真剣に神に祈ってさえいた。大したことではなかろう…。だがこの試練はボクにとっては、それまでの人生において最も強烈なものの一つであった。

  最後の4回目には、これを「為す」ことができるのだが、この達成をもって『ここは卒業』となっていたようだ。解雇の原因となったことも、この時の荷運びに関係する。決して戦力外と見なされて切られる訳ではない。とても興味深い成り行き…。だがこの詳細は次回に譲るとしよう。 


追記:

ここまでの肉体の恐怖は、人生においてはこれを含め三回しかない。
マラソンで本当に最後まで全力を出し尽くす。
ある高山を踏破する。
すべて、一生忘れない印象を心に残す。

これは大事なことらしい....。



抜粋:

普通の人間の場合、もし彼が、自身に対してなんらかのワークをすることは避けられないとの結論に達したとしても、未だ彼は肉体の奴隷のままだ。彼は、意識されるそして視認されうる肉体の活動の奴隷に留まらず、意識されなく、目には付かない肉体の活動の奴隷でもある。そしてまさに『これら』が彼を支配する力の正体なのだ。よって、人が自由の獲得のために奮闘するとするならば、彼が最初に戦わねばならない相手は、あなた自身の肉体である。

Ordinary man, even if he comes to the conclusion that work on himself indispensable ― is the slave of his body, he is not only the slave of the recognized and visible activity of the body but the slave of the unrecognized and the invisible activities of the body, and it is precisely these which hold him in their power .Therefore when a man decides to struggle for freedom he has first of all to struggle with his own body.

Fragments: P.536

(意訳:byMe)
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