2.1 Never Gonna Give You Up 出会い。

文字数 4,252文字

  本エピソードでは一旦過去に話を戻してボクと彼女との馴初めが語られる。
概要としては三年という期間における[出会い]→[週一デート]→[身内意識の芽生え]→[留学による別れ]→[再会]になる。要は大きく振り返って観れば「最初から○○の関与があったのかも......?」ということに尽きる。本稿の意義はその限りでしかない。だから、もう、ここからは本エピソードをスキップされることをボクは強くお勧めすることが出来る。まったく面白くも何ともない話だからだ。読めば情けなく呆れて後悔されることは100%間違いなし!これは請け負ってもいい。

「ほんと〜に、止めときなさい!」「スキップ!!」「スキップ!!!」。

  これでも、できるだけコンパクトにまとめようとしたのだが、がかなりの長さになってしまった(三部構成)。また過去の自分のあまりの未熟なあり様に慚愧、羞恥の思いに堪えられず、あまり満足のゆくものとはならなかった。かなり上辺(キレイゴト)の内容に留まったものになってしまっている。それでも、「まあ読んでも良い」という方々が居られるならば幸いなことだと思い感謝とお詫びを申し上げたく思います。*何時かは完全版として内容を改めたいとは思っています。

                〈開幕〉

   彼女の名前は斉◯ 昌子といった。出会いはレンタルレコード屋さんで、彼女はカウンターの向こうの人だった。1983年のことだ。(レンタル屋が豊中で初めて登場したのはこのころだった)。その時のボクはアルバイトがメインの浪人生だった。バイト先は難波にある中古レコード屋さんで趣味と実益を兼ねていた。ほとんど受験勉強はしていなかった。まあ一種の引きこもり状態であったと思って頂いて支障はない。高校を卒業して「一休みしたかった」というのが、その頃のボクの言い分ではあった(どんだけ一休みするねん...?というぐらい時は経っていた)。音楽が好きだった。それも少し度を越すほどに...。なので、開店して間もないそのレンタル屋へは割と足しげく通っていた。そのせいでなのか一人の女性店員さんがボクを見覚えてしまっていたようだった。その店員さんがある日声をかけてきた。「あなたに紹介したい人がいるの」とのことだった。いきなりの話でボクは面食らった。「きっと趣味があうと思うのよ」と彼女は続ける。*この店員さんが、どうしてそんなことを思いついたのかは分からない。とにかく「その紹介したい人は◯曜日のシフトなので是非来てみてね」と言われる。どうしようかと迷ったが面白そうなので行ってみることにした。その日もボクに声をかけてくれた店員さんはカウンターの向こうにちゃんといた。ボクに気がつくと、すぐに側の誰かに声をかけていた。そして一人の女性が顔をあげてこちらを見てきた。これが彼女との初めての出会いだった。品のいい人だった。「なんか先生っぽいな」というのが彼女に対しての最初の印象だった(実際、彼女は家庭教師のバイトを何軒か掛け持ちしていた)。「もうすぐ休憩だから喫茶店でもいこー」と初対面にも関わらず、その「斉◯さん」は、いきなりボクを外に誘ってくれた。かなりフランクなもの言いだった。意外な展開だったがボクは「分かりました」と答えてついて行った。胸中は、かなりドキマギしていた。

  近くの喫茶店に二人で入った。趣味のいいお店だった。自己紹介のあと、XXさん(中継ぎをしてくれた店員さん)が「面白い趣味でLPを借りていく人がいるので、話したら面白いかも」と聞かされていたとのことだった。この時は、いろいろ好みの音楽について話をした。彼女も音楽が大好きだった。それも、かなり聴く人を選ぶ様なタイプの音楽だったと思う。例えば「ルネッサンス、ペンタングル、オールドフィールド、ジェネシスetc....」。ボクも同じく少し変わっていた。Magma、Pulsar、Osanna、KC、Can、森田童子etc...。「今度よかったら貸しますよ」とボクは言っていた。斉○さんは喜んで「じゃあ私も貸してあげる」とのことで次回が準備されてしまう。休憩は60分だったと思う。あっという間に時は過ぎてしまっていた。帰りのバスのなかで、ボクは交わした会話を思い起こして「あれはこう言えば良かった、あれは言うべきではなかった」などと夢中で反芻を繰り返していた。

  二回目に会ったのも同じ喫茶店だった。最初に彼女が貸してくれたのはRenaissanceの[Scheherazade]だった。ボクは多分Oldfieldの[Incantations]だったと思う。後に彼女は、えらくそのアルバムを気に入り「これは買う!」と少し興奮した面持ちで感想を伝えてくれた。彼女との逢瀬(?)は週一のペースで続いて行った。間もなく落ち合う場所は梅田が多くなる。(彼女があの仕事は辞めた為だ)。阪急三番街のカーディナル、東通り商店街の田園、泉の広場のカンテG、万博公園というのもあった。ボクは梅田の喫茶店をよく知っていた。彼女は商工会議所の近くのホテルでコンシェルジュの仕事にもついていた(TOEICで満点に近い点数の持ち主だった)。終業時間終わりに迎えにいくこともあった。(駆け込みの相談者に少しヒステリー気味にお断りを伝えるようすを一回見た。まあ残業代もつかないというので分からなくもなかった)。何を話していたかというと基本、貸したレコード、本、マンガに対しての感想だったり、それを起点とした雑談。貸し手は殆どがボクになっていった(コレクターだったもので)。お互いの嗜好を確認することを、えらく綿密に回りくどく楽しんでいたのだといえる。彼女の音楽への理解力、その守備範囲の広さはボクを遥かに上回っていた(ボクは基本広かった)。これは言っておかなければならない。どうやってこれを手に入れたのか分からない。多分、天与の知性と感性の持ち主だったのだと思う。ボクの訳の分からんイメージ創作にも何故かとても興味をもって聞いてくれた。(ボクは高校時代に一冊だけ自費で本を作ったことがある。一千一秒物語に影響されたかの様な、詩のような、超短編小説だった。*もう既にこれはとても危ない世界に繋がっている)。ボクにとって彼女は人生初めての話が通じる、また新たな視点を教えてくれる貴重な存在であった。

  やがて少しずつお互いの家庭環境、育ちにおいての話が加わってていく。高校はミッション系の女子校だったそうだ(家庭教師のバイトは母校の先生からの斡旋だった)。真面目な生徒で先生からの信頼も厚かったであろうことは想像に難くない。それよりも、必須科目であったに違いない教条教育にいたく感化されていたと思われる節が、多々見受けられた(後日に、やっとだ)。またキリスト教文化としての音楽と絵画がやっぱり一番好きな、一番性に合う世界とのことだった。この頃のボクにはそれがどれほど根深いものであったのかは皆目検討も想像もつかなかった。(あとになってこうして振り返ると魂にまで届く程のものであったのは間違いない)。また同時に異教としてのアイルランドのファンタジー世界を絶対に捨てられないもの、ギュスターブモローのあの色彩感覚に強く惹かれるなどの嗜好も見せた。ボクは単純に[非常に繊細でハイブローな感性の持ち主、しかしかなりスノビッシュ]ぐらいにしか考えていなかった(三流もいいところだ)。

  彼女は母親と二人暮らしだった。父親は健在だが、だいぶ昔に家を出てしまっていた。新しい家庭を築いて二人の男の子がいるとのことだった。あれだけの頭脳とセンスを持ち合わせていたのに、彼女は経済的にはあまり恵まれていたとはいえなかった(このことへの気付きもボクは遅かった)。彼女はこう言ったことがある「女性は一般の男性社員と同じ評価を得るには三倍働かなければならない」と。彼女はその評価を欲していたのだと思う。また、実の父親の新しい住まいを見たことがあるとの話をしたことがある。立派だったそうだ。

  それに比べてボクは家が事業をやっていたこともあり、恵まれていたと言わなければならない。しかし実際は親は渋く、こちらが勝手に財布から失敬することで色々と埋め合わせていたのが実状だった。母親の財布には何故かいつも沢山のお金が入っていた。また、管理が杜撰だったのかバレることはまずなかった。そういったお金は、レコード、本、マンガ、喫茶代、等に消えて行った。........。

  ここで少し脱線させていただきたい。彼女との共通の心の源泉としての話題ではある。Re: 24年組。”花の”を頭につけなきゃなんないのだろうが、ボクは止めておこう。ポスト24年組の皆さんも含めて、どれだけの影響をもたらしてくれたかだ。(どんだけ〜だ)。はっきり言うと特に萩◯望◯先生においてだ。おそらく彼女は雑誌の連載ベースで消化していってたと思う。ボクは丁度、あの赤本の全集が刊行されていたのであれで読んだ(高校一年の時だ)。二人とも言葉に尽くせぬぐらいの愛着を持っていた。各作品の話題においては、お互いとても興味深い話が延々と聞けた。彼女は「鳥になった少女」(原作:アンデルセン)においては感情が爆発したと語った。「トーマ」よりも「キムナジウム」を好んだ。(そういった魂の持ち主だった)。しかし彼女は心酔していたがカラーの色彩感覚はいただけないとしていた。ボクは性が記号としてしか描けないのが唯一いただけなかった。こっそりとボクの秘密を明かそう。最初に読んだのは「とっても大好きモトちゃん」だった。たわいのない四コママンガのような話が沢山入っていた。なぜかとても気に入った。そして次々にあの赤本達を買って夢中になって読んでいった。いろいろ読んで行く中でボクはある種のメセージを覚える。高一のボクは「分かりました」と答え、◯○のままで留まることを決意する。そしてその通りになった(なっている)。よって、いくつになっても何があってもボクはボクのまま。見かけも余り変わらない。白髪は少し混じってきたが。老眼にはなってしまったが。中身は昔の時のまんま。[ボク]でしか語れない。

               〈続く〉

蛇足:
かの方は、あの件でのことと同じく「責任取れないわよ〜」と仰ると思います。
言いつけないでね〜(W)。
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