4. Pharisees (I) 真面目という名の呪縛。

文字数 2,664文字

化学屋としての技術マン。こういった人達と仕事をしてきたわけなのだが。「AAA」における[技術マン]に限ってであることは、ハッキリと言明しとかなければなるまいが。彼らがどういった人達であったのかをボクは、知らない分からない。実際、研究室における彼らの生活(?)は、朧(おぼろ)げにしか分かってはいない。いやいや、これは基本、他の”誰” においても言える話だと思う...。

 ほんの覗きでしかないが、彼等の仕事の特徴を挙げてみよう;

・同時並行的に複数の仕事をいつも進めていた。アクロバティック。
・細かな作業が多く立ちっぱなし。肉体労働としては、かなりキツイだろう。
・試行錯誤の記録等のデスクワークもある。
・上下関係が絶対規律のようだ。
・子供じみた『真面目さ』が伝家の宝刀。

*最後のが今回のメインテーマなのだがとても難しい...。

大学生時代も、彼らの生活は、まあ似た様な内容だったのだろう。ラボなる密室で、いつも同じ面子で時を過ごさなければならない。その上での孤独な、あのハードワークである。かなりのストレスがあると思う。「そりゃ〜」十年を超えて、あんな仕事を続けていれば、ある”存在”が出来上がってくるわけだ。確かに、『プライドが高くなければ、やってられない』(フェラーリ弁)世界ではあるのだろう。

あらためてボクは彼等が、どういった人間存在であったのかは分からない。評価をするつもりも更々ない。自分との関係がなければ、「どうぞ勝手に」「どうぞお好きなように」でことは済むのだけれど。
これは誰に対しても思うことではある...。

新規事業開拓なる部署にて技術マンが二人残っていた。一人は市大のマスター出の人間だった。大したキャリアーだ。しかし技術部内では、お荷物であったようだ。その証拠に、ボクの部署に出されてきている。
四十を少し越えてきたぐらいかな。結婚はされておらず、会社近くのアパートに一人暮らしらしい。彼は、歯がボロボロだった。なんでも、大酒飲みで、休みは大抵パチンコ屋だそうだ。仕事でのストレスの反動か、一人暮らしの彼は、自堕落な生活が常であったと思われる。とても純粋な人との印象もあった。
鮒寿司がなんたらの話から、彼が滋賀の旧家の出であることが推測されたこともある...。

彼は、部署に回されてきた時、テーマを持っていた。長く研究を続けてきていて、大事な顧客からの要請らしい。それを引き続き研究をしてもいいと伝えた。そのテーマは《ウッド・フロアリング》の塗料だった。それも水系(エマルジョン)での。評価のポイントはUV照射による耐光性だった。最初これを聞いた時に、「無理だ」と思った。ユーザーも無茶な要望を言ってくる。確かに、時は、溶剤規制への声がどの市場においても大きくなってはいた。しかし、「何でまた、こんな難しいテーマを...」。
UVの破壊力たるや半端じゃない。ボクの部屋の床は、かなり痛んでいる。陽の当たる部分などはボロボロだ。有機ケミカルで、UVの破壊作用に耐えることは至難であると思われた。

彼は、マジで、この研究をしていた。これを一人で遣り遂げようとしていた。できれば顧客は大喜び、
大変な数量の注文が保証されている。難しければ、難しいほどチャレンジのしがいがあるのだろう。
これも彼等の傾向性だ。ホームラン狙い。「お茶を濁す程度で良いのに...」。

ある程度の期間、ボクは彼に自由に研究をしてもらった。しかし、ある時に、これを終了させる。それは簡単だ。もし、これ以上この研究を続けるのなら、「自分のお金でやって」と言い渡したのだ。彼は、大いにショックを受けていたように観えた。しかし、もっと現実味のあるテーマをやって欲しかったのだ。同じ場にいたもう一人の技術マンは、後に『あの台詞だけはやめましょう』などとボクに意見をする。

不思議なことに、このタイミングで総務が動いていた。彼に退社をすべく説得を行っていた。ボクの意向は全く関係はない。そして、間も無く、彼は退社することとなっていた。自己都合で、である。彼はブラックリストに名が上っていたのだろう。ある時までの時間稼ぎでボクの部署に預けられていたのだと思われる。追記:かなりしてから、彼は会社に戻れる様にと泣きついて来たらしい。彼の願いが叶うことは無かった。滋賀の実家に戻ったほうがいい...。

そして、ボクの部署は、「解消」との辞令を間もなく受けとる。一時、会社の組織図、系統樹にボクの所属は無くなる。欄外に取締役としての掲載が形ばかりであるだけ...。誰かの入知恵、プランが同じく進行していたのだと思われる...。


追記:

『真面目』であることは、道徳と同じで、他者に対して訴えが効くものではないと思う。大切な価値ではあるが...。実社会では、だれそれの評価なくしても、そうあれるのが普通で望ましい。

なんでもAAAの[強み]として、よく語られていた。人への評価でもよく耳にした。でも、これが「強み」だと「表」で語られるならば、問題だと、いつも感じていた(繰り返しになるが、AAAは利益に対する計画性がなかったのだ)。ここが、学校なら分かる。学校では、真面目であることに評価が与えられる。でも、それは教育としての「強化」が目的であるためだ。決定的に、あそこでは、『純利益』に対しての学びはない。

最終、皆で求めるべきは、結果(利益)になると思う。それも長期の、全人生においての展望において。
確実に貪欲であってしかるべきものだと思う。真面目であろうがなかろうが関係ない。要は結果ありきだ。

真面目だけではダメだ。
会社として各部門の統合的な出力が問われるのだ。
形だけに価値はナイ。
部分がいかに突出していても意味はナイ。

「やはりプライドが一番のガンだ」

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イエスは、『ファリサイ人のパン種とヘロデのパン種によく気をつけなさい』と戒められた。
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追記2:ファリサイ人のパン種の喩えは、本懐をおざなりにして、形式が絶対化されてしまう事態への
警鐘である。つまりは、形骸化のこと。このことが如実に起こってしまっているのが介護業界である。
それはウルトラ級であった...。これはその内、表してみたいと思っています。』



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