第160話 代わり

文字数 1,504文字

『あ~!寒い!もう冬になるってのにいつまでやってんだい!おや?なんだ、いい勝負みたいだね。かぁ~…負けたよ、七条』

 海の方から神楽が歩いてきた。特攻服を着ている。

『神楽…』

 その後ろにも見たような顔ぶれが続いている。

『前から言いたかったんだけど樹ちゃんは左のガードが甘いんだよ。こっちはさぁ、病人連れてるんだから早くしてよね』

 琉花に千歌、瞬もいる。3人共東京連合のつなぎを着ている。

『なんやトサカのねーちゃん、豹とえぇ勝負やん。次あたしと行くか!?』

 天王道眩に煌と槐、疎井冬が泪の車イスを押してくる。八代心愛と霞ヶ﨑燎もだ。

『お前ら…なんで…』

『あなたはきっとこう思っているんじゃないかしら。自分が弱いからあの子を死なせてしまった。だから自分のせいだ。そうやって自分の中でもう決めてしまって、一生その気持ちで生きていこうとしてないかしら』

 如月伴が夜叉猫の特攻服で現れ樹の前まで出てきた。

『だから私たちは今日あなたと死ぬ気でタイマンを張る気で来たわ。あなたが弱くなんてないことを証明する為にね。でもまぁ全員とやるのはさすがに厳しいでしょう?だから彼女がその代表を買って出たの。ほら、こういう時真剣に向き合えるのが友達ってやつでしょう?』

 伴はチラッと豹那のことを見た。

「こういう時話せるのが友達ってもんだ」というのは大阪の時に樹が豹那の為に伴に言った言葉だ。
 豹那は機嫌悪そうにそっぽを向いた。

『ジョーダン言うな。あたしは殺すつもりでやってたさ』

 豹那は言うが伴たち後から来た面々はニヤニヤくすくすとしている。

『樹さん…』

 玲璃が樹の腕を引っ張り手に何かを握らせた。

『さっきさ、豹那の服から落っこちたんだ』

 手のひらにあったのは綺麗な百合の花びらだった。

『緋薙…』

 豹那はそっぽを向いたままタバコをくわえた。

『哉原。あなたは弱くなんてない。それを覚えていてほしいの。私たちは決して白桐優子の代わりにはなれないけど、でも私たち全員、彼女と同じ気持ちだということを忘れないでほしいの…』

 辺りが明るくなり始めた。白桐優子追悼の夜が明けた。




 その後、樹さんたちの思い出の海にみんなで花を飾って写真を撮りました。
 結局そこで樹さんの言い出しっぺで宴会が始まってしまい周辺のコンビニからお酒や食べ物を買い占めてきて、たき火をしたりしながら明るくなって日が昇りきって少し暖かくなるまでいてしまいました。

 樹さんが喋り始めると、その身振り手振り話すしぐさや話に出てくる人たちのモノマネをしたりおもしろおかしく話してくれるので、あたしたちはそれを聞きながら笑っていてそれだけで暇がなく、つくづく樹さんはオシャベリが上手で一緒にいて楽しい人だなと思ってしまいました。

 きっと静火さんや唯さん、鬼音姫のメンバーのみんなはそんな樹さんが大好きなんだろうなと思います。

 そして優子さんもずっとずっと大好きだったんだろうなと。

 優子さんとの色んな思い出を楽しそうに誇らしげに話す樹さんを見て、あたしはそう思いました。

 あの日優子さんは息を引き取る直前何か言おうとしてたけど、あれは多分

『あのね、樹。あたしさ、あんたのこと大好きだよ』

 と言おうとしたんじゃないかなというのはあたしの勝手な想像ですが、きっとそうだったんだろうなと思えるほど樹さんの優子さんへの気持ちがいっぱい感じられました。

 伴さんが言ってたようにあたしも麗桜ちゃんやみんなも優子さんの代わりには全然なってあげられないかもしれないけど、この気さくでオシャレでみんなを笑わせてくれる素敵な先輩をこれからもずっとずっと大切にしてあげたいとあたしたちみんなで思っています。

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