第35話 業火
文字数 3,061文字
綺夜羅たちは6人で背を向け合い、囲まれながらもなんとかまだ戦っていた。
しかしそれはこの圧倒的な人数の差に対する苦肉の策で、押されていることに変わりはなく、どんどん消耗させられていく。
『もういい!やめろ!』
再び白桐優子が怒鳴り声をあげると学ラン女たちは手を止めた。
『これで分かっただろ!これ以上やってもお前らなんかに勝ち目はない。これで見逃してやるから消えろ。そしてもう2度と目の前に現れるな。行け』
『勝ち目があろうがなかろうがそんなこたどーだっていいんだ。めぐと珠凛に謝れ。こいつらが納得いく答えを出してやれよ!』
綺夜羅は尚も優子に噛みついた。このまま退く気など微塵もない。
『アラアラソウチョウ。コレハノリコミカケラレテルッテコト?Ahaha。サイキンノガキハホンットニゲンキガイインダネェ』
そこにアジラナと連れられた愛羽たちが到着した。
『あれ?綺夜羅ちゃん?』
愛羽たちは全く状況が理解できなかったがアジラナは綺夜羅たちの方へ向かって走りだした。
『よせ!アジラナ!』
優子が止めるのも聞かずあっという間に目の前まで来ると全体重を乗せたアジラナの拳が綺夜羅の顔面をとらえた。
不意打ちではあったが、まるで車にでもはねられたかのように綺夜羅はふっとび転がっていった。
殴られた本人が1番驚いたに違いない。
『綺夜羅!』
『綺夜羅ちゃん!』
掠も愛羽も名前を呼んだが反応はなく、すぐには起き上がらなかった。
『アジラナ!こいつらはもうこれで帰すとこなんだ。これ以上話をややこしくするな!』
『ツメタイイイカタスルネ。ソウチョウガナメラレナイヨウニスルノガワタシノシゴトナンダヨ。ソレトモナニカ?コイツラブッコロシタクナイリユウデモアルノ?』
優子は舌打ちした。
『…そんなものねぇよ。けどあたしらの敵はこんなガキ共じゃないだろうが。こんな大人数でたった6人相手にして何が楽しいんだ。あたしはこういうのが嫌いなだけだ』
アジラナは小さく笑うと愛羽たちを指差した。
『ソレヨリ、オマエニオキャクサンダヨ。オトモダチノオニオトヒメダッテサ』
『…は?』
優子がそれを聞いて明らかに動揺したのを見てアジラナは狂喜に満ち溢れた顔をした。
『…誰だ…あいつら…』
もちろん優子は愛羽たちのことなど知らない。
だがアジラナが友達の鬼音姫という言葉を強調したので、その場は微妙な雰囲気になってしまった。
だがその直後、事態は更に悪化する。
気づくと綺夜羅がアジラナの前に立っていた。
掠たちや、愛羽が無事を喜んだのも束の間、次に誰が何を言うよりも早くフルスイングした。
『おぉーべぇーかぁぁぁ!!』
綺夜羅も渾身のパンチをアジラナの顔面に打ち返した。
先程の綺夜羅ほどではないがアジラナも殴り飛ばされ尻もちをついた。
『マリアさん!』
学ラン女たちが駆け寄る中、アジラナは殴られた頬の辺りを手でさすりながら静かに立った。
『オイユーコ!コイツラテキッテコトデイイナ?ココマデサレテタダデカエスナンテワタシハデキナイゾ』
アジラナは怒りに顔を歪ませ震えていた。
『ソレデモマダコノガキドモノカタヲモツナラ、ソレハモンダイトシテカンブカイデアゲサセテモラウ』
『それはお前の勝手だがな、総長であるあたしの決定に従わない時点でお前もその対象だぞ』
『フフフ、イツマデモオマエノオモイドオリニイクトオモッテルナラオオマチガイダ』
『なんだと?』
やはり優子とアジラナの間には明らかな確執があるようだ。
『Hahaha。イイカガキドモ!オマエラハキョウカラアタシタチCRSノテキタイグループダ。ハジョ、ヤシャネコ、アシュラジョウニクワエテオマエラ6ニンモテキタイニンテイシタ。ノウノウトタンシャナンテノッテヤガッタヒニハヒキコロスカラナ』
『C…RS?』
旋も珠凛も耳を疑った。3年前優子が話してくれたそのチームはすでに2人の知らない所で現実のものとなっていた。
『アヤマッテドゲザスルナライマノウチダヨ。マ、ワタシハモウユルサナイケドネ』
『奇遇だな』
『Ha?』
『あたしもそう思うよ。CRSだかCRCだか知らねーけどな、あたしはあいつにめぐと珠凛に謝れって言ってんだ!それがそんなにできねぇってんならいいよ、やってやるよ。てめーら全員ぶっとばしてでもゼッテー2人に謝らせてやるよ!』
『ハハ!タッタ6ニンデカ?デカイクチタタクノモタイガイニシトケヨガキィ!』
アジラナは段々とまたその顔を怒りで歪ませた。
『ヨーシキメタ。ツギヲマタズオマエタチハイマココデブッコロス。コウカイショケイダ!』
『上等だっバッカヤロー!!』
そんな中、麗桜は優子のすぐ目の前まで歩み寄っていた。
『あんたが優子さんかい?俺たち樹さんの友達なんだけど、もしよかったらあの人に会ってあげてくれないか?樹さん、あんたのこと心配してるぜ?』
(樹…)
優子はかつての相棒のことを一瞬思い出してしまった。
『じゃあお前が樹に伝えてやれ。心配なんていらない。話すことも何もない。お前も何があってもあたしに関わるなとな』
『なんだって!?』
麗桜はあまりの言葉に思わず大きな声になってしまった。
『ちょっと!そんなこと言える訳ないじゃない!あの人は今でもちゃんとあんたとの約束覚えてんのよ!?お互い神奈川で1番カッコいいチーム作るって言ったんでしょ!?あたしが言うのもなんだけどね、バカでお調子者でヘラヘラしてるけど、あの人はその約束守ってカッコよく生きてるわよ。その樹さんにそんなひどいこと言える訳ないでしょ!』
珍しく蓮華が怒っている。いや、怒るのは珍しくないかもしれないが普段ならこんなに大勢の不良たちを目の前にして決して前に出てくる方ではない。
『あ~バッカみたい!来なきゃよかった。話し聞いてきたからどんだけカッコいい人なのかと思ってたのにガッカリ。樹さんがかわいそうだわ』
蓮華が言いたいだけ言うと優子の手が蓮華の胸ぐらをつかんだ。ここまで揉め事に消極的だった彼女が初めて怒りの表情を見せた。
『お前らなんかに…』
蓮華を殴りつけようとしたその手を横から麗桜がつかんで止めた。
『やめろよ。蓮華は間違ったこと言っちゃいないだろ』
その目はしっかりと自分の目を見ていた。
麗桜が優子を止めたのを見て愛羽と玲璃が優子の少し手前で着地して息をついた。
おそらく飛び蹴りに来るつもりだったのだろう。
少し離れた所から蘭菜も風雅も優子のことをじっと見ていた。
自分がCRSの総長だということを聞いていなかった訳ではないはずだ。
綺夜羅たちが今100人近くの人間に囲まれている状況だって見て分かるだろう。
なのにどうだ。
この少女たちはそんなことなどお構いなしにかかってこようとする。
その真っ直ぐな眼差しは優子の心に刺さるようだった。
ここに突然現れた、まだ自分より若い少女たちを見て何を思ったのか優子は蓮華から手を放した。
それから間もなく通報からパトカーが3台サイレンを鳴らし赤色灯(赤灯)を回しながら学校に入ってきた。
優子が学ラン女たち全員に即校舎に戻るよう命令すると女たちは今度こそ一斉に戻っていった。
ただ1人残ったアジラナと綺夜羅は警察に止められながらも最後までにらみ合っていた。
『ガキィ!マッポニビビッテナイデハヤクカカッテコイ!』
『やってやるよアメリカヤロー!関係ねーからテメーがかかってきやがれ!』
『コラ!もうやめなさい!』
警察に立ち去るよう言われ他のメンバーにも引っ張られていき一同はとりあえず場所を移した。
しかしそれはこの圧倒的な人数の差に対する苦肉の策で、押されていることに変わりはなく、どんどん消耗させられていく。
『もういい!やめろ!』
再び白桐優子が怒鳴り声をあげると学ラン女たちは手を止めた。
『これで分かっただろ!これ以上やってもお前らなんかに勝ち目はない。これで見逃してやるから消えろ。そしてもう2度と目の前に現れるな。行け』
『勝ち目があろうがなかろうがそんなこたどーだっていいんだ。めぐと珠凛に謝れ。こいつらが納得いく答えを出してやれよ!』
綺夜羅は尚も優子に噛みついた。このまま退く気など微塵もない。
『アラアラソウチョウ。コレハノリコミカケラレテルッテコト?Ahaha。サイキンノガキハホンットニゲンキガイインダネェ』
そこにアジラナと連れられた愛羽たちが到着した。
『あれ?綺夜羅ちゃん?』
愛羽たちは全く状況が理解できなかったがアジラナは綺夜羅たちの方へ向かって走りだした。
『よせ!アジラナ!』
優子が止めるのも聞かずあっという間に目の前まで来ると全体重を乗せたアジラナの拳が綺夜羅の顔面をとらえた。
不意打ちではあったが、まるで車にでもはねられたかのように綺夜羅はふっとび転がっていった。
殴られた本人が1番驚いたに違いない。
『綺夜羅!』
『綺夜羅ちゃん!』
掠も愛羽も名前を呼んだが反応はなく、すぐには起き上がらなかった。
『アジラナ!こいつらはもうこれで帰すとこなんだ。これ以上話をややこしくするな!』
『ツメタイイイカタスルネ。ソウチョウガナメラレナイヨウニスルノガワタシノシゴトナンダヨ。ソレトモナニカ?コイツラブッコロシタクナイリユウデモアルノ?』
優子は舌打ちした。
『…そんなものねぇよ。けどあたしらの敵はこんなガキ共じゃないだろうが。こんな大人数でたった6人相手にして何が楽しいんだ。あたしはこういうのが嫌いなだけだ』
アジラナは小さく笑うと愛羽たちを指差した。
『ソレヨリ、オマエニオキャクサンダヨ。オトモダチノオニオトヒメダッテサ』
『…は?』
優子がそれを聞いて明らかに動揺したのを見てアジラナは狂喜に満ち溢れた顔をした。
『…誰だ…あいつら…』
もちろん優子は愛羽たちのことなど知らない。
だがアジラナが友達の鬼音姫という言葉を強調したので、その場は微妙な雰囲気になってしまった。
だがその直後、事態は更に悪化する。
気づくと綺夜羅がアジラナの前に立っていた。
掠たちや、愛羽が無事を喜んだのも束の間、次に誰が何を言うよりも早くフルスイングした。
『おぉーべぇーかぁぁぁ!!』
綺夜羅も渾身のパンチをアジラナの顔面に打ち返した。
先程の綺夜羅ほどではないがアジラナも殴り飛ばされ尻もちをついた。
『マリアさん!』
学ラン女たちが駆け寄る中、アジラナは殴られた頬の辺りを手でさすりながら静かに立った。
『オイユーコ!コイツラテキッテコトデイイナ?ココマデサレテタダデカエスナンテワタシハデキナイゾ』
アジラナは怒りに顔を歪ませ震えていた。
『ソレデモマダコノガキドモノカタヲモツナラ、ソレハモンダイトシテカンブカイデアゲサセテモラウ』
『それはお前の勝手だがな、総長であるあたしの決定に従わない時点でお前もその対象だぞ』
『フフフ、イツマデモオマエノオモイドオリニイクトオモッテルナラオオマチガイダ』
『なんだと?』
やはり優子とアジラナの間には明らかな確執があるようだ。
『Hahaha。イイカガキドモ!オマエラハキョウカラアタシタチCRSノテキタイグループダ。ハジョ、ヤシャネコ、アシュラジョウニクワエテオマエラ6ニンモテキタイニンテイシタ。ノウノウトタンシャナンテノッテヤガッタヒニハヒキコロスカラナ』
『C…RS?』
旋も珠凛も耳を疑った。3年前優子が話してくれたそのチームはすでに2人の知らない所で現実のものとなっていた。
『アヤマッテドゲザスルナライマノウチダヨ。マ、ワタシハモウユルサナイケドネ』
『奇遇だな』
『Ha?』
『あたしもそう思うよ。CRSだかCRCだか知らねーけどな、あたしはあいつにめぐと珠凛に謝れって言ってんだ!それがそんなにできねぇってんならいいよ、やってやるよ。てめーら全員ぶっとばしてでもゼッテー2人に謝らせてやるよ!』
『ハハ!タッタ6ニンデカ?デカイクチタタクノモタイガイニシトケヨガキィ!』
アジラナは段々とまたその顔を怒りで歪ませた。
『ヨーシキメタ。ツギヲマタズオマエタチハイマココデブッコロス。コウカイショケイダ!』
『上等だっバッカヤロー!!』
そんな中、麗桜は優子のすぐ目の前まで歩み寄っていた。
『あんたが優子さんかい?俺たち樹さんの友達なんだけど、もしよかったらあの人に会ってあげてくれないか?樹さん、あんたのこと心配してるぜ?』
(樹…)
優子はかつての相棒のことを一瞬思い出してしまった。
『じゃあお前が樹に伝えてやれ。心配なんていらない。話すことも何もない。お前も何があってもあたしに関わるなとな』
『なんだって!?』
麗桜はあまりの言葉に思わず大きな声になってしまった。
『ちょっと!そんなこと言える訳ないじゃない!あの人は今でもちゃんとあんたとの約束覚えてんのよ!?お互い神奈川で1番カッコいいチーム作るって言ったんでしょ!?あたしが言うのもなんだけどね、バカでお調子者でヘラヘラしてるけど、あの人はその約束守ってカッコよく生きてるわよ。その樹さんにそんなひどいこと言える訳ないでしょ!』
珍しく蓮華が怒っている。いや、怒るのは珍しくないかもしれないが普段ならこんなに大勢の不良たちを目の前にして決して前に出てくる方ではない。
『あ~バッカみたい!来なきゃよかった。話し聞いてきたからどんだけカッコいい人なのかと思ってたのにガッカリ。樹さんがかわいそうだわ』
蓮華が言いたいだけ言うと優子の手が蓮華の胸ぐらをつかんだ。ここまで揉め事に消極的だった彼女が初めて怒りの表情を見せた。
『お前らなんかに…』
蓮華を殴りつけようとしたその手を横から麗桜がつかんで止めた。
『やめろよ。蓮華は間違ったこと言っちゃいないだろ』
その目はしっかりと自分の目を見ていた。
麗桜が優子を止めたのを見て愛羽と玲璃が優子の少し手前で着地して息をついた。
おそらく飛び蹴りに来るつもりだったのだろう。
少し離れた所から蘭菜も風雅も優子のことをじっと見ていた。
自分がCRSの総長だということを聞いていなかった訳ではないはずだ。
綺夜羅たちが今100人近くの人間に囲まれている状況だって見て分かるだろう。
なのにどうだ。
この少女たちはそんなことなどお構いなしにかかってこようとする。
その真っ直ぐな眼差しは優子の心に刺さるようだった。
ここに突然現れた、まだ自分より若い少女たちを見て何を思ったのか優子は蓮華から手を放した。
それから間もなく通報からパトカーが3台サイレンを鳴らし赤色灯(赤灯)を回しながら学校に入ってきた。
優子が学ラン女たち全員に即校舎に戻るよう命令すると女たちは今度こそ一斉に戻っていった。
ただ1人残ったアジラナと綺夜羅は警察に止められながらも最後までにらみ合っていた。
『ガキィ!マッポニビビッテナイデハヤクカカッテコイ!』
『やってやるよアメリカヤロー!関係ねーからテメーがかかってきやがれ!』
『コラ!もうやめなさい!』
警察に立ち去るよう言われ他のメンバーにも引っ張られていき一同はとりあえず場所を移した。