第149話 お手上げ

文字数 1,208文字

『愛羽、すまねぇ…』

 樹は自分の特攻服の襷を包帯代わりにして愛羽の腕の付け根から傷口に巻きつけ止血をした。

『くそっ…くそっ…なんてこった…』

 2人は銃という物と向かい合って初めてそのあまりの力の差を感じた。あと数センチずれていたら愛羽の胴に命中し死んでいたかもしれない。

(どうする?どうすんだ…ここまで来て…どうすりゃ優子を守れんだ!)





 居場所がバレてしまった優子は鷹爪が3階の渡り廊下を渡ってくるのを見て2階の渡り廊下を渡り逆側に身を隠した。

(くそ…樹がもう目覚めるとは計算違いだった。なんとかあいつらを守りながらさっさと奴を殺っちまわねぇと…)

 優子は突然の樹たちの出現に焦りを感じていた。頼りにしていた足音もこれではもう期待できない。優子の作戦はじっと身を潜め鷹爪を誘き出し背後から撃つというものだった。




 一方鷹爪は元々優子がいた方の校舎に渡り灯りのついた美術室に来ていた。

(あの野郎。そうか、すでに神奈川4大暴走族の奴らと手を組んでいやがったんだな?そうはさせねぇぞ、ありゃあたしのブツだ。何億もの金になる魔法の粉なんだ。ぜってー渡さねぇぞ)

 鷹爪はその時窓の外で何かが光ったのを見た。それは気絶した旋のポケットの中の携帯が着信していた光だった。鷹爪はすぐに外に出てその少女を確認した。

『ん?確かこいつは…』






 旋は目を覚ました。激しいショックからの気絶だったせいか、目を開けてから数秒何があったかを思い出すのに時間がかかった。

 だがそれよりも早く視界に飛びこんできたのは拳銃を自分の方に向けて構えこちらを見ている鷹爪の姿だった。

『よぉ』

 それで相手が誰なのかはすぐに理解した。

『…あんたが鷹爪?…えっ?てことは、ねぇ!あんた優子ちゃんをどうしたの!?』

 まさか、まさか優子はもう殺されてしまった?背中に嫌なものが走り、同時に身体中の力が抜けそうになった。

『心配すんな、今会わしてやるから。よぉ優子!もう観念して出てこい!じゃなきゃてめぇの大切な後輩はてめぇの代わりにここで死ぬことになるぜ!?』

 バァァンッ!

 鷹爪は旋の足に向けて引き金を引いた。弾が旋の足の肉を貫き靭帯を引き裂いた。

『いやぁぁぁぁっ!!』

 旋はとても甲高い叫び声を上げ、地面をゴロゴロとしながら身をよじった。

『どうだ優子!次は頭をぶち抜いてやる!てめぇが出てこねぇならな!』




 まずい。鷹爪は本気だ。優子は旋の叫び声を聞いて、もういてもたってもいられなくなった。

『…結局、最後まで人質取られちまったか…』

 笑えてきてしまう。優子はもう観念した。自分のせいで旋を死なせるなんて絶対できない。自分のせいで深く傷つけ挙げ句の果てにはその傷を踏みにじってしまった。そんな自分をお姉ちゃんと呼んでくれた彼女をこれ以上傷つけられない。

 優子は窓から顔を出し叫んだ。

『分かった!今すぐ降りる!だからその子を撃たないでくれ!』

 それを見て鷹爪はニヤリとした。
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