第116話 今宵の悪夢

文字数 985文字

 川崎の246では駆けつけた覇女たちのおかげで戦況はひっくり返りつつあったが、瞬対煌はまだ決着がつかず、神楽対四阿も手負いの神楽は分が悪く勝負が長引いていた。
 病み上がりの神楽は長引けば不利。無論、四阿の狙いはそこにあった。

 しかし、そこに人質を乗せて燎の車が戻ってきた。

『瞬!』

 その声に驚いて瞬が振り向くと琉花、千歌、そして都河泪の姿が目に映った。
 蘭菜と蓮華も一緒で疎井冬が泪の車椅子を押している。

『泪…みんな…』

 瞬が思わず安心して力が抜けそうになると同時に糸が切れたかのように煌が膝を着いた。

 もうすでにとっくに限界だったのだろう。

『…全く…遅いのよ…風矢咲薇に、大きな貸しができたわ…汚らわしい…』

 そう言うと煌は倒れそうになり瞬はとっさにそれをかばった。

『風矢…さん?…君たちはひょっとして風矢さんに言われてここに来たって言うの?』

『…うる、さいわね…私は、姉さんに…ついてきた、だけよ…』

 瞬の腕の中で煌はそのまま気を失ってしまった。


『燎、てめぇ。余計なことしやがって』

『残念、四阿さん。ついでだけどオレ前からあんた嫌いだったんすよ。タイマン張りましょうよ』

『燎。こいつはあたしがやる』

 燎に琉花に千歌は神楽と四阿の所まで着くと割って入っていった。
 だが人質も取り返され、自分も絶対絶命であるはずなのに四阿は急に笑い始めた。

『あっはっは!こいつは傑作だ。まんまとやられたよ。こっちの作戦は失敗だぁ!』

 気でもおかしくなったのか、一同はその気味の悪さに近づいていけなかった。

『うひっひっひ!だがこれも想定内。こうなった時の為のプランは用意されてんだよ』

 四阿は注射器を4本取り出した。

 瞬から奪ったステロイドと鎮痛剤がそれぞれ2本ずつある。

 するとそれを次々に自分の腕に打ち込んでいった。

『なっ!嘘でしょ!?』

 それが何か見て分かった琉花と千歌がやはり1番驚いている。
 無理もない。あの瞬でも2セット同時に使用したことはない。

『せいぜい震えるがいいぜ。最後に笑うのはこのあたしだ』



 瞬は煌を抱き抱えると泪の所まで歩いていった。
 乱闘からだいぶ離れた所で冬が泪に毛布を何重にもして巻きつけ、その隣に寄り添っている。

 煌の体を冬に預けると申し訳なさそうな顔をして言った。

『寝てる…この子をお願いね』

 泪が無事なのを一目確認すると瞬は神楽たちの方へ歩いていった。
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