第3話 白い粉

文字数 817文字

『あれぇ~?おっかしいなぁ~。もうなくなっちゃったんだっけ?あれぇ~?』

 とぼけた声で探し物をしているのは暁愛羽。

 前髪パッツンの大型ポニーテールで童顔のミニマムロリ16歳、高校1年生である。

 とぼけているのは声だけではなく頭の中もしっかりととぼけていて「天然」と言われる人種だ。

『あっ!あった!そーだ、使おうと思って出しといたの忘れてた。あっはは、バッカー』

 こんなアホも一応暴走族の総長をしている。

 道行く人が聞いたら2000%信じてくれないだろうがケンカをすれば驚く程強く、単車に乗れば風のように速く、神奈川対東京の全面戦争を治めれば関西大戦争に巻き込まれたりとかなり波乱万丈に忙しく生きている。

 彼女のチーム名は「暴走愛努流」

 飾らず真っ直ぐで友達や仲間を自分の全てをかけて大切にするそんな姿に争いあった敵さえも仲間に変えてしまう。

 そんな愛羽が取り出したのは白い粉だった。

『これがないと始まらないんですよ~』

 まさかそんな幼い顔でそんな物に手を出してしまったのか?

 暴走族は薬物厳禁ではなかったのか?

 すると次に冷蔵庫から卵、バターなどを取り出していく。

 そう、白い粉の正体は砂糖だった。

 愛羽はどうやらこれからクッキーを作るつもりらしい。

 最近転校してきた新しい友達の誕生日が明日なので、おいしくて可愛いクッキーを作ってプレゼントしようと思ったのだ。

 偶然にもその日は文化祭の初日だ。ちなみに初日には愛羽たち「暴走アイドル」の待ちに待ったステージがある。

 夏休みからあの悪修羅嬢(あしゅらじょう)緋薙豹那(ひなぎひょうな)のコーチの元、厳しいレッスンに耐え練習してきた成果をとうとう披露するのだ。

『あー、ドキドキする。明日は頑張らなくちゃ。みんなで頑張ってきたし、あの子も楽しみにしてくれてたもんね。よーし、今日は早く寝なきゃ!』

 クッキーの出来はバッチリだ。味も文句なし。形も自分らしさが表れていて完璧だと思える。

『喜んでくれるといいなぁ~、メイちゃん』
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