第110話 般若再び

文字数 2,659文字

 アジラナは走って向かってくると飛んだ。飛び蹴りでかかってくる。
 愛羽と綺夜羅はそう読んで左右にかわし着地を狙って逆に飛び蹴りにいった。

 しかしそんな両サイドからの同時攻撃をアジラナはまるでそう来ることが分かっていたかのように意図も簡単によけた。

(え!?)(くそが!)

 2人は完全に命中するつもりだった攻撃が外れた反動で一瞬体勢を崩し、アジラナはそこを綺夜羅の顔面に裏拳を叩きこむと続いて愛羽の腹におもいきりパンチを叩きこんだ。

『うっ!』

 愛羽は腹を抱えて膝を着いてしまった。

 今のはとんでもなく重い一撃だった。さっきまであの瞬の重く破壊力のある拳を受けていたがそれとさほど変わらないように思えた。

 愛羽は初めてアジラナに会ったあの時に感じた嫌な予感を思い出した。
 やはりこの人物は危険だった。

 それも、想像を更に超えてだ。

『愛羽ぁ~!!』

 SEXYMARIAの兵隊の相手をしていた玲璃が我慢できずアジラナに走って向かう。

『ゴミガ…』

 玲璃はそのまま助走をつけてパンチを打っていった。
 アジラナはそれを腕でガードするとお返しにカウンターの拳をあごに叩きつけ回し蹴りで蹴り倒した。

『ぐぁぁぁ!』

 続いて綺夜羅も飛びかかっていく。

『てんめぇ!』

 飛び蹴りを腕で受けさせると着地と同時にまた飛び上がり空中回し蹴りを放った。
 しかしその蹴りをくらいながらもアジラナは綺夜羅の顔面のど真ん中に拳を叩きこんできた。

『綺夜羅!こーの外人野郎!』

 綺夜羅が殴り飛ばされたのを見て掠も黙っていられずアジラナに向かっていくがアジラナもそれに気付くと掠に向かって走り強烈なラリアットをお見舞いした。掠は頭から叩きつけられ転がっていく。

 神奈川の暴走族のルーキーたちはまるで歯が立たず、ことごとく引きずり回された。
 心愛はなんとか助けに入りたかったが麗桜や旋たちを追おうとするのを阻止するので精一杯だった。

(それにしても…アジラナの強さときたらめちゃくちゃだ。奴め、今までずっと実力を隠していたというのか?)

 心愛が以前に手を合わせた時は少なくともほぼほぼ互角と認識していたが、実際今戦う様子を見ていると彼女も勝てる気がしない。

『ハッハッハ!ヨワイヨワイ。ヨワイヨワイヨワイヨワイ。クズドモガナンビキアツマロウトショセンハクズッテコトダ』

 愛羽たちがまだ完全に立ち上がれないでいると、そこへ単車で眩をまいたレディがやってきた。

『ヤァレディ。ドウダ?ガキドモヲイチモウダジンニシタゼ』

 レディは愛羽たちを見回した。

『…頭数が足りない。どこへ行った?』

『ア、アァ…ナンビキカハシッテッチマッタナ』

 アジラナはレディに誰が来ても絶対にここを通すなと言われていた。釘を刺されていただけにさすがのアジラナもばつが悪そうだ。

(ちっ、どこまでも使えない奴め)

 それを聞くとレディは厚央に向かって一気にアクセルをひねった。

『ヤバい!行かれた!』

 旋と珠凛は走って向かった。おそらくまだ着いてないはずだ。レディに追いつかれると2人が危ない。白桐優子を助けるということも危うくなってくる。
 すぐに後を追いたいがアジラナがさせてくれるとは思えない。

『はっはっはっは。なっさけないのう。4人がかりでその程度かい。奴の言う通り、クズはなんぼ集まってもクズ言うことや』

 今までずーっと我関せずと離れて退屈そうに見ていた槐が歩いてこちらに向かってきた。

『てめぇ…』

 玲璃は怒りを露にした。

『なんや?言われて悔しいんやったらなぁ、クズのプライド見してみーや!あのアホ共が見したんやぞ。これで終わられたら萼も浬も浮かばれへん』

 愛羽も玲璃も掠も、自分たちを行かせる為に自ら体を張って一斉検挙を打破し捕まっていった2人の姿を思い出した。

『あいつらがしたことに意味があったんかなかったんかは、お前らが示せ。あたしにこのままどの面下げて大阪帰れ言うねん』

『だったら、あなたも戦ってよ。お願い…あたしたち負けられないの』

『放っとけよ愛羽、そんな奴。そいつには戦う理由なんてねーんだ』

 玲璃は皮肉をたっぷり込めて言うが槐は冷静だった。

『あぁ、そうや。あたしには戦う理由もお前らに手を貸す理由もない。あたしは風矢咲薇に借りもない』

 だがここでアジラナが般若の導火線に火をつけた。

『オイ!グダグダヤッテネーデサッサトカカッテコイ!ソコノタンパツノサル!ヤルキガネーナラカエッテイーカラオウチデネタクッテテメーノユビチンポトオマンコシテナ!』

 アジラナがそう言うとSEXYMARIAたちはバカにしたように笑いだした。

 槐の顔つきがそこで変わった。

『…お前らに手を貸す理由ができたわ』

『え?』

 訳もなく手を貸すなんてできなかった。だから何か理由が欲しかった。

『あのっクソ、ごっつムカつくわ』

 槐は目を血走らせアジラナをにらみつけた。

『おい外人、覚悟せぇよ。死んでも知らんからな』

 狂気に満ちた笑みを浮かべると胸のポケットから2本の注射器を取り出した。

『喜べガキ共。あたしの中の鬼目覚めさせたんはあいつや。隙見てとっとと行くんやな』

 そう言って一気に2本の注射を腕に打ち込んでしまった。

『ソレハ…』

『楽しみや。お前のような化物とやれること。そしてお前のように自分が1番強いと思っとる奴のプライドを踏み潰せることがや』

 ステロイドと鎮痛剤がドクンドクンと体を流れる血液に混ざり合っていく。十分体に行き渡ると薬の効果はすぐに出る。
 その体には不自然な張りが見れ、危険な雰囲気が漂い始めた。

『…オマエモ、シヨウシャダッタノカ』

 アジラナもその存在を知っていただけに驚きを隠せなかった。

『さぁ、おしおきの時間や』

 槐は走り出すとアジラナに向かい助走をつけた。そして構えたアジラナに遠慮なくパンチを打った。
 アジラナはその拳を腕で払うようにして軌道をずらしカウンターを打とうとした。
 しかし槐はその拳を直前で止めると反対の拳を目にも止まらぬ速度で打ちこんだ。
 今日初めてアジラナが殴り倒された。

『フェイントやアホめ。さっきからなんぼお前の技見てた思てんねん』

 槐はひるまず倒れたアジラナの背中に飛び降りた。

『グァァァッ!』

『まだやぞっ!』

 そのまま蹴り転がしアジラナを仰向けにさせると馬乗りになって左右交互に連続パンチを顔面に叩きつけていく。
 見ていた愛羽たちも圧倒されてしまっていた。

『愛羽行け!ボサッとすんな!』

 玲璃の声で愛羽が思い出したように走り出すと綺夜羅もそれに続いた。

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