第129話 死神危うし

文字数 1,318文字

 アジラナは血走った目をぎょろっとさせ目を見開いたまま走って向かってきた。

『HAHAHA!イクゾコラァ!』

 大振りのパンチを繰り出してくる。眩は動きを見切るとその拳を受け止めようとした。
 しかし本能的な何かが受け止めようとしていた手を直前で引っこませた。

 間近で見ると思っていたよりも重そうな拳に腕がとにかく太い。それにスピードもある。
 眩はよけると距離をとった。

 今まともに手のひらで受けていたら、なんだかヤバい気がした。
 言葉にできない魔力のようなものを感じたのだ。

(なんや今のは…そんな訳あるかい…)

 アジラナは2発目のパンチを振るってきた。

『姉ちゃん!そいつは今ドーピングしてんだよ!ただのドーピングじゃない!かなりヤバい薬だ!2個も使いやがった!まともにやり合っちゃダメだ!』

『ドーピングやと?』

 そういえば槐がそんなような物を使って関西制覇を企んでいたということを誰かが言ってたような気がした。それのことだろうか?

『はは、何言うてんねん』

 そうは自分に言い聞かせながらも信じた方が説明がつく。

 前に大阪で戦った神楽などもとても強い女だった。
 ケンカをよく知っていてケンカで鍛えられた拳、腕力をしていた。
 相手にとって不足はなく、それでいてとても気持ちのよい相手だった。

 だが槐のやられ方を見ても眩には到底理解のできないこの外国人は、人体を破壊してそれを心から楽しんでいるような奴だ。
 初めて小田原で向かい合った時も嫌なものを感じたし、今一瞬立ち合っただけでも嫌なものしか感じなかった。

 神楽は決め球をストレートにして直球で勝負してくるような、そういう好感の持てる甲子園球児のようなタイプだった。

 だがアジラナは、こいつは小学生相手に平気で鉄球を投げれる奴だ。
 見ていて1番胸くそ悪くなる、そっち系の奴だ。

 眩は素早い動きで相手の攻撃を警戒しながら反撃していった。
 だがドーピングの者を初めて相手にした眩はその恐るべき効果をおもいしらされる。

 眩はこれ以上ない位力を込めて今、後ろから脇腹を打ってやった。
 しかしびくともしないどころか全く反応がない。あまりにも手応えがなさすぎる。

『FuFuFu。ヘャヘャヘャ。イマナニカシタカ?』

 アジラナは見下したようなバカにしたような笑いを見せた。

『やせ我慢しよって。今に体おかしなるで』

『ちげーんだよ姉ちゃん!あいつは痛みも感じねーんだ!中国製のやべぇ鎮痛剤も一緒に使ってんだ!』

 玲璃に言われて眩は改めてアジラナを見た。

『なん…やとぉ?…』

『ホンノチョットクスグッタイダケダ。マスイミタイナモンサ』

 アジラナは蹴りを入れてきた。眩はとっさにガードしたが軽々と蹴り飛ばされ転がった。

(ふ、踏ん張れへんかった…いや、そのおかげでダメージも少なくて済んだ…)

 玲璃も掠も心愛も消耗している。助けに入りたいが圧倒的すぎるアジラナの暴力に足を踏み出すことができずにいた。

『くそっ!やったろうやないか!かかってこんかい!』

『イマニコウカイスルゾ』

 眩は殴り飛ばされ蹴り転がされながらもアジラナに向かっていった。
 しかし関西最強の女の力を持ってしてもドーピングされたアジラナにはまるで及ばなかった。
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