第136話 完敗
文字数 2,118文字
『へっ。おい燎、いいぜぇ?どっからでもかかって来いよ。あたしが直々にケジメ取ってやんからよぉ!』
四阿は目がらんらんとしていて実に不気味だ。
『後悔しますよ?ハッタリで余裕かましてんと』
燎は誘われるがままに攻めていった。フットワークを使ってプレッシャーをかけるが四阿は動じない。
『燎ダメ!距離を取って!』
琉花がすぐに声を出したが燎はまだステロイドの恐ろしさを知らず相手の間合いまで近づいていた。
燎の蹴りよりも早く四阿の拳が叩き込まれる。
左からこめかみに向かって四阿の右拳が飛んでくると、殴られるというより何かとてつもない、人の力とは思えない何かに押されどかされる。体ごと持っていかれる。そんな感覚を覚えたかと思うと派手に殴り飛ばされていた。
空中で体が軽々と一回転させられ転がっていくと燎はしばらくの間起き上がらなかった。
その場にいた全員が理解した。
ステロイドの2本打ちはやはり2本分の効果がある。
燎と四阿の間に琉花と千歌が入ると後方に風雅と神楽が回った。4人がかりだ。
『いいぜぇ何人でも。4人でいいのか?』
四阿は完全に勝ち誇っている。脇目も振らず殴られれば殴り返し蹴られれば蹴り返す。
圧倒的な力を笑いながら見せつけた。
すでに今日ダメージを負っている風雅と神楽は一撃でやられてしまった。
特に神楽は無理がたたった。そもそも戦える状態ではなかったのだ。
千歌がゴミのように蹴り飛ばされるのを琉花が止めようと渾身の拳を何度も叩きつけたが四阿は気にもしない。
それでも琉花が四阿の前に立とうとするとそれより先に瞬が四阿と向かい合っていた。
『瞬…』
『琉花。みんなと一緒に離れてて』
ドーピングをしているとはいえ、こちらもだいぶ負傷し消耗しているのが分かる瞬を見て四阿は笑っていた。
『はっはっは!血迷ったのかぁ?雪ノ瀬ぇ。あたしは2本ずつ打ってる。お前の倍だ。しかもお前はあたしより1時間は早く打ってんだ。先にてめぇの効果が切れてあたしの勝ちは揺るがねぇぜ!』
『今日初めて薬を使う君と今まで薬を続けてきたあたし。負ける訳ない。2本打とうが3本打とうが使用後の体に慣れるには使用した体での実戦と時間が必要なんだよ。体だって完全に対応しきれはしない』
『でたらめ言いやがって。このパワーが何よりの証明だろ。来いよ、ひねり潰してやる』
2人は一撃必殺級の拳を激しく打ち合った。
確かに2本打ちの四阿の方がパワーは上のようだ。それは周りの目から見ても分かる。
だが完全に使いこなしているかと言えばそうではない。
例えば元々100メートル10秒台で走れていた人が5kg太って久しぶりに100メートルを走ると、体の重さが想像以上に分かりもちろんタイムも落ちるが言わばそういう現象だ。
圧倒的なパワーは脅威ではあるがそれはあくまで使用していない人間に対してだ。
2本打った四阿の方は消耗が瞬より見られ確かにダメージは感じないが疲れが見れ息もすぐあがっている。
攻撃が強烈でもスピードはそこまでない。
瞬は短時間でそれを見極め、そこに勝機を見い出したのだろう。
『…なるほど。てめぇの負け惜しみも満更じゃねぇってことか』
さすがに四阿もただ打ち合うのではなく総合格闘技の構えを取り直した。
この辺りはあのアジラナと違って冷静で利口な所だ。
対してドーピングの切れる時間が迫る瞬は勝負を急ぎ相手の間合いに果敢に入っていき攻撃をしかけた。
しかし四阿は打たれるのも構わず技をかけにつかみかかった。
簡単な関節技だ。
肘を極めにかかりあっという間に寝技に持っていかれた。
今まだ瞬は薬が効いている。それらの技の痛みなどどうともない。
そんなことは四阿も分かっていた。
彼女の狙いはそこではなかった。
『くらえ!』
ボキィ!
つかんだ腕の肘を支点に一気に全体重をかけるとそのまま肘から折ってしまったのだ。
『瞬!』
『あの野郎…』
琉花が悲鳴をあげ千歌は 怒りを抑えられずなんとか立ち上がろうとした。
四阿は今度は瞬から離れ急に距離を取りだした。
『はは!どうだ雪ノ瀬ぇ。お前の薬はボチボチ切れるはずだ。あたしは痛みにもだえ転がるてめぇを高みの見物とさせてもらうぜぇ!』
瞬は腕の感覚がなく、だが骨を伝わる痛みに焦りを覚えた。
『汚い奴…』
風雅がこぼすと神楽がそれを否定した。
『いや、あいつは冷静に判断したのさ。ヤバい、このままじゃ分が悪いってね。あいつだって制限時間がある。確実に勝てる方法を見つけただけの話だよ。…完敗かもね。今回ばかりは』
神楽がいつになく弱気なセリフを口にした時、瞬の方の時間がもう来てしまった。
『うぁぁぁ!うっ…うぅっ…』
四阿の読み通り瞬の効き目が切れ始めた。明らかに折れた腕の痛みが見れる。
そしてそこを四阿は待ってましたと狙っていき馬乗りになると今度は何度も右の拳を瞬の目を狙って叩きつける。
次第に瞬は防ぎもしなくなってしまった。
無抵抗な瞬をいたぶり尽くした後、四阿は勝利を確信した。
『へへ、どうだオイ。もう立てねーだろ』
だが瞬のその目は開いていた。
気味が悪く四阿は思わず離れてしまった。
すると瞬はゆっくりと立ち上がった。
四阿は目がらんらんとしていて実に不気味だ。
『後悔しますよ?ハッタリで余裕かましてんと』
燎は誘われるがままに攻めていった。フットワークを使ってプレッシャーをかけるが四阿は動じない。
『燎ダメ!距離を取って!』
琉花がすぐに声を出したが燎はまだステロイドの恐ろしさを知らず相手の間合いまで近づいていた。
燎の蹴りよりも早く四阿の拳が叩き込まれる。
左からこめかみに向かって四阿の右拳が飛んでくると、殴られるというより何かとてつもない、人の力とは思えない何かに押されどかされる。体ごと持っていかれる。そんな感覚を覚えたかと思うと派手に殴り飛ばされていた。
空中で体が軽々と一回転させられ転がっていくと燎はしばらくの間起き上がらなかった。
その場にいた全員が理解した。
ステロイドの2本打ちはやはり2本分の効果がある。
燎と四阿の間に琉花と千歌が入ると後方に風雅と神楽が回った。4人がかりだ。
『いいぜぇ何人でも。4人でいいのか?』
四阿は完全に勝ち誇っている。脇目も振らず殴られれば殴り返し蹴られれば蹴り返す。
圧倒的な力を笑いながら見せつけた。
すでに今日ダメージを負っている風雅と神楽は一撃でやられてしまった。
特に神楽は無理がたたった。そもそも戦える状態ではなかったのだ。
千歌がゴミのように蹴り飛ばされるのを琉花が止めようと渾身の拳を何度も叩きつけたが四阿は気にもしない。
それでも琉花が四阿の前に立とうとするとそれより先に瞬が四阿と向かい合っていた。
『瞬…』
『琉花。みんなと一緒に離れてて』
ドーピングをしているとはいえ、こちらもだいぶ負傷し消耗しているのが分かる瞬を見て四阿は笑っていた。
『はっはっは!血迷ったのかぁ?雪ノ瀬ぇ。あたしは2本ずつ打ってる。お前の倍だ。しかもお前はあたしより1時間は早く打ってんだ。先にてめぇの効果が切れてあたしの勝ちは揺るがねぇぜ!』
『今日初めて薬を使う君と今まで薬を続けてきたあたし。負ける訳ない。2本打とうが3本打とうが使用後の体に慣れるには使用した体での実戦と時間が必要なんだよ。体だって完全に対応しきれはしない』
『でたらめ言いやがって。このパワーが何よりの証明だろ。来いよ、ひねり潰してやる』
2人は一撃必殺級の拳を激しく打ち合った。
確かに2本打ちの四阿の方がパワーは上のようだ。それは周りの目から見ても分かる。
だが完全に使いこなしているかと言えばそうではない。
例えば元々100メートル10秒台で走れていた人が5kg太って久しぶりに100メートルを走ると、体の重さが想像以上に分かりもちろんタイムも落ちるが言わばそういう現象だ。
圧倒的なパワーは脅威ではあるがそれはあくまで使用していない人間に対してだ。
2本打った四阿の方は消耗が瞬より見られ確かにダメージは感じないが疲れが見れ息もすぐあがっている。
攻撃が強烈でもスピードはそこまでない。
瞬は短時間でそれを見極め、そこに勝機を見い出したのだろう。
『…なるほど。てめぇの負け惜しみも満更じゃねぇってことか』
さすがに四阿もただ打ち合うのではなく総合格闘技の構えを取り直した。
この辺りはあのアジラナと違って冷静で利口な所だ。
対してドーピングの切れる時間が迫る瞬は勝負を急ぎ相手の間合いに果敢に入っていき攻撃をしかけた。
しかし四阿は打たれるのも構わず技をかけにつかみかかった。
簡単な関節技だ。
肘を極めにかかりあっという間に寝技に持っていかれた。
今まだ瞬は薬が効いている。それらの技の痛みなどどうともない。
そんなことは四阿も分かっていた。
彼女の狙いはそこではなかった。
『くらえ!』
ボキィ!
つかんだ腕の肘を支点に一気に全体重をかけるとそのまま肘から折ってしまったのだ。
『瞬!』
『あの野郎…』
琉花が悲鳴をあげ千歌は 怒りを抑えられずなんとか立ち上がろうとした。
四阿は今度は瞬から離れ急に距離を取りだした。
『はは!どうだ雪ノ瀬ぇ。お前の薬はボチボチ切れるはずだ。あたしは痛みにもだえ転がるてめぇを高みの見物とさせてもらうぜぇ!』
瞬は腕の感覚がなく、だが骨を伝わる痛みに焦りを覚えた。
『汚い奴…』
風雅がこぼすと神楽がそれを否定した。
『いや、あいつは冷静に判断したのさ。ヤバい、このままじゃ分が悪いってね。あいつだって制限時間がある。確実に勝てる方法を見つけただけの話だよ。…完敗かもね。今回ばかりは』
神楽がいつになく弱気なセリフを口にした時、瞬の方の時間がもう来てしまった。
『うぁぁぁ!うっ…うぅっ…』
四阿の読み通り瞬の効き目が切れ始めた。明らかに折れた腕の痛みが見れる。
そしてそこを四阿は待ってましたと狙っていき馬乗りになると今度は何度も右の拳を瞬の目を狙って叩きつける。
次第に瞬は防ぎもしなくなってしまった。
無抵抗な瞬をいたぶり尽くした後、四阿は勝利を確信した。
『へへ、どうだオイ。もう立てねーだろ』
だが瞬のその目は開いていた。
気味が悪く四阿は思わず離れてしまった。
すると瞬はゆっくりと立ち上がった。