第124話 ごめんね

文字数 1,318文字

 校門の壁によりかかって誰かが座っている。麗桜だ。
 だが気を失っている。声をかけてあげたいが今はそれどころではない。
 旋はそのまま中まで走っていくと優子が見えた。

『優子ちゃん先輩!』

 旋は全力で走った。

『待って!優子ちゃん先輩!』

 旋の声を聞いても優子は足を止めようともせず、旋は目の前まで行きやっと顔と顔を合わせた。

『ねぇ、優子ちゃん先輩。ダメだよ、逃げよ。お願い。全部仕組まれてたってちゃんと後で説明しよ?それか警察に相談するとか、とりあえず今は落ち着くまで逃げようよ!』

 優子は何も言わず旋を殴り飛ばした。

『それが答えだ、どけ』

 大好きな優子の拳は特別な痛みがあった。

 だが旋はそれでも立った。

『…ダメだよ…どかない。珠凛と約束した。絶対優子ちゃんを助けてあげるって』

 ズンッ!!

 優子は旋の腹におもいきり拳を叩き込むと無言で歩いていこうとした。
 旋は意識が飛びかけながらも優子にもたれかかりつかんだ。

『うっ…う…うぅ…』

『消えろ』

 重い。苦しい。でも言わなければならない。

 このまま言えずにいることの方が苦しい。

『…あたし、小学校5年生の、時…お姉ちゃんが、自殺…したの…』

 それを聞いて優子は思わず足を止めてしまった。

『…お姉ちゃんはね、進路に悩んで苦しんで、でも家族にも分かってもらえなくて…覚醒剤を使って飛び降りたの…』

 そんな話は知らなかった。

 というより、突然なんの話をしているのかと戸惑い、でも、動揺していた。

『珠凛はね…お姉ちゃんが覚醒剤持ってるの見たんだって。死ぬ前の日に。でもそれが何か分からなくて、言えなくて自分のせいで死なせたんだってずっと苦しんできたみたい』

 優子は胃が痛くなってきた。ギュッと握られているようなそんな感覚がある。

『でもね、あれはあたしたち家族のせいなの。あたし1人でもお姉ちゃんのこと分かってあげられてたら、お姉ちゃんは死んだりしなかったの。だから多分…あたしがお姉ちゃんを殺しちゃったんだ』

 旋は息を整えた。

 まだ苦しい。だがまず気持ちを強く持った。

『あたしのお姉ちゃん…優子って名前だったの…あたし、お姉ちゃんのこと大好きだった…』

 優子は心の奥底が引き裂かれる思いだった。できればここで聞きたくはなかった。

『だから、優子ちゃんのこと、お姉ちゃんみたいに思えて嬉しかった。優しくて、かっこよくて大好きだった…』

 優子は目を閉じると自分を落ち着かせた。

 ダメだ、気をしっかり持つんだ、と。

『だから優子ちゃんは…死なせたりしない。絶対に…』

 優子は旋に振り返った。

『めぐ…』

『え?』

『すまなかった…』

 優子は旋を力一杯抱きしめた。

『優子ちゃん…』

 優子は旋の肩を持った。さっきまでとは違う穏やかな表情、やっと分かってもらえた。
 と旋は一瞬肩の力が抜けた。

『それより早くここから移動しよ!?麗桜ちゃんも起こしてさ、珠凛も近くにいるんだ。あたしたちの仲間もすぐそこに来てくれ…』

 旋が言い終わらない内に優子は本気のパンチを腹にえぐりこんだ。

 今度は失神するまで腕に力を込め腹を圧迫し続けた。

 旋が完全に意識を失うと優子は人目のつかない隅の方へ彼女を運び寝かせてやった。

『…めぐ…ごめんね…』
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