第120話 憧れのヒーロー
文字数 1,499文字
藺檻槐はまだ小さい頃から素行が良くないことで有名だった。
小学校の頃からタバコを吸い、シンナーや薬をやり盗みをして度々人にケガをさせた。
初めて逮捕されたのは中学1年の時。その時にはすでに柄の悪い大人と付き合いがあり、ある詐欺事件に関わっていた。
まだ中学生の槐は留置場に20日勾留された後、約1ヶ月鑑別所に収容され家に帰らされた。
しかし槐が自宅のアパートに帰ると、もうそこには誰も住んでいなかった。
親は槐を見捨て何も言わず逃げてしまったのだ。
悲しくはなかった。槐は槐なりに理解した。
いつか見つけたら半殺しにしてやると心に誓った。
しかし13歳の少女は当然生きていくということに行き詰まった。住む所もなければ自分の物など着ている服位で学校にだって行けなかった。
結果空き家に勝手に入って寝泊まりし食べる物も全て万引きで済ましていた。
槐が捨てられたことはすぐに噂が広まり、同級生とすれ違えば指を差された。
親に捨てられたことなど屁とも思わなかったが後ろ指を差されるのは惨めだった。
だからいつも自分に指を差す奴は捕まえて泣きわめいて謝るまでボコボコにした。
そんなだからその内またすぐ捕まり次は少年院に半年送致された。
自分は自分の名誉を守っただけだ。なのに社会は自分をつま弾きにした。
少年院を出ると施設に預けられることになった。衣食住ある上に学校も通わせてくれるらしく文句はなかった。
だがそこは大阪でもかなり治安の悪い地区で学校でも不良が多く、他からやってきた自分はかなり目を付けられた。
結局こうなる。どこへ行っても自分のような者はこうして迫害を受け、安息の場所などないのだろう。
生きてる限りは舐められたら終わりだ。
舐められたらまた後ろ指差されて終わり。
あの日はそれが嫌で、絡んできた年上のグループの1人に殴り返してしまったのだ。
すると相手はまるで虫に群がる蟻のように大人数でかかってきた。
その女と出会ったのはその時だった。
同い年位の女で、ダッサいエプロンをしながらママチャリに乗っていた。
どうやら買い物をしてきたらしく自転車のカゴは満ぱんでハンドルにもパンパンのecoバックを両側にかけていた。
『おい、やめたれや』
女は注意しに来てくれたようだ。
やめてやれなんて人から言ってもらったのは初めてだった。
それは嬉しかったが正直アホだなぁとしか思えなかった。
こんな大人数の不良相手にいい人ぶってかわいそうに。やられて終わりだ。
しかし槐が次に見た光景は思いもよらないものだった。
『は?』
まるで特撮ヒーローのテレビを見ているようだった。
その女は袖をまくると、たった1人で何人いたのかも分からない不良たちを次々に蹴散らし結局全員やっつけてしまったのだ。
『…は?』
最後の1人をなぎ倒すと女は慌ただしい様子で槐に向かってきた。
『大丈夫か!?今○✕△□○△□…!!』
と、何を言っているのか分からないまま槐は自転車の後ろに乗せられ、その女の家まで連れていかれた。
どうやら女は
『今急いでんねん!鍋に火ぃ入れたまま来てしもたんや!詳しい話は後や!早よ乗り!あ~焦げたら終わりや~。えらいこっちゃ~』
と言っていたらしい。
結局その妹と居候の女が気づいて火は止めたらしく、その2人が手当てもしてくれた後ご飯まで食べさせてくれた。
そして食べ終わった後彼女は言った。
『で!君誰なん?』
この女はアホ。槐は思った。
でもめちゃくちゃ強くてカッコいい。
生きてる限りは舐められたら終わり。そんな世界で戦って勝つことがそんなにカッコいいものと教えてくれたのは、いつもその人だった。
小学校の頃からタバコを吸い、シンナーや薬をやり盗みをして度々人にケガをさせた。
初めて逮捕されたのは中学1年の時。その時にはすでに柄の悪い大人と付き合いがあり、ある詐欺事件に関わっていた。
まだ中学生の槐は留置場に20日勾留された後、約1ヶ月鑑別所に収容され家に帰らされた。
しかし槐が自宅のアパートに帰ると、もうそこには誰も住んでいなかった。
親は槐を見捨て何も言わず逃げてしまったのだ。
悲しくはなかった。槐は槐なりに理解した。
いつか見つけたら半殺しにしてやると心に誓った。
しかし13歳の少女は当然生きていくということに行き詰まった。住む所もなければ自分の物など着ている服位で学校にだって行けなかった。
結果空き家に勝手に入って寝泊まりし食べる物も全て万引きで済ましていた。
槐が捨てられたことはすぐに噂が広まり、同級生とすれ違えば指を差された。
親に捨てられたことなど屁とも思わなかったが後ろ指を差されるのは惨めだった。
だからいつも自分に指を差す奴は捕まえて泣きわめいて謝るまでボコボコにした。
そんなだからその内またすぐ捕まり次は少年院に半年送致された。
自分は自分の名誉を守っただけだ。なのに社会は自分をつま弾きにした。
少年院を出ると施設に預けられることになった。衣食住ある上に学校も通わせてくれるらしく文句はなかった。
だがそこは大阪でもかなり治安の悪い地区で学校でも不良が多く、他からやってきた自分はかなり目を付けられた。
結局こうなる。どこへ行っても自分のような者はこうして迫害を受け、安息の場所などないのだろう。
生きてる限りは舐められたら終わりだ。
舐められたらまた後ろ指差されて終わり。
あの日はそれが嫌で、絡んできた年上のグループの1人に殴り返してしまったのだ。
すると相手はまるで虫に群がる蟻のように大人数でかかってきた。
その女と出会ったのはその時だった。
同い年位の女で、ダッサいエプロンをしながらママチャリに乗っていた。
どうやら買い物をしてきたらしく自転車のカゴは満ぱんでハンドルにもパンパンのecoバックを両側にかけていた。
『おい、やめたれや』
女は注意しに来てくれたようだ。
やめてやれなんて人から言ってもらったのは初めてだった。
それは嬉しかったが正直アホだなぁとしか思えなかった。
こんな大人数の不良相手にいい人ぶってかわいそうに。やられて終わりだ。
しかし槐が次に見た光景は思いもよらないものだった。
『は?』
まるで特撮ヒーローのテレビを見ているようだった。
その女は袖をまくると、たった1人で何人いたのかも分からない不良たちを次々に蹴散らし結局全員やっつけてしまったのだ。
『…は?』
最後の1人をなぎ倒すと女は慌ただしい様子で槐に向かってきた。
『大丈夫か!?今○✕△□○△□…!!』
と、何を言っているのか分からないまま槐は自転車の後ろに乗せられ、その女の家まで連れていかれた。
どうやら女は
『今急いでんねん!鍋に火ぃ入れたまま来てしもたんや!詳しい話は後や!早よ乗り!あ~焦げたら終わりや~。えらいこっちゃ~』
と言っていたらしい。
結局その妹と居候の女が気づいて火は止めたらしく、その2人が手当てもしてくれた後ご飯まで食べさせてくれた。
そして食べ終わった後彼女は言った。
『で!君誰なん?』
この女はアホ。槐は思った。
でもめちゃくちゃ強くてカッコいい。
生きてる限りは舐められたら終わり。そんな世界で戦って勝つことがそんなにカッコいいものと教えてくれたのは、いつもその人だった。