第143話 帰還

文字数 599文字

 神楽が泣きながら抱きしめる中、瞬が息を吹き返し微かに目を開いた。

 神楽は恥ずかしくなって咄嗟に離れようとしたが神楽の背中に瞬が片方の腕だけ回していて放してくれなかった。

『…ちっ…死んだふりなんてしやがって』

 そう言って頬を濡らす神楽を見て、瞬は力の入らない傷だらけの顔で笑ってみせる。







 都河泪の車椅子を疎井冬は押し、少し抗争から離れた場所にいた。

 神奈川の人間を別に仲間と思った訳でも咲薇を許した訳でもないが、この少女は全く関係ないし愚かな暴走族たちの被害者であって、目覚めることのない今も毎日純粋に生きるということだけを繰り返す彼女の命はとても綺麗に思えた。

 冬はこんな中彼女の安全を優先し、その様子を見守っていた。

 都河泪はさっきとても悲しそうな表情をしていた。どうかしたのだろうか?容態が良くないのなら病院に連れていった方がいい。

 しかし顔色が悪い訳ではなく脈拍も呼吸も乱れた様子はない。何かあれば行動しようとしばらく泪の顔を気にしながらつきっきりでいた。

 それは雪ノ瀬瞬が目覚め冬もそれを見て少しほっとした時だった。ふと目をやると泪の顔はとても穏やかで、微かに笑っているようで安心してたった今寝てしまったようなそんな印象を受けた。

 不思議なことはあるものねと思うと、でもこの少女に何か声をかけてあげたくなってしまった。

『…よかったわね…』

 冬は少女を少女の友人の所まで連れていってあげた。
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