第113話 拳対拳
文字数 1,994文字
『うっ…』
麗桜は今1発目のパンチが見えなかった。
速い。硬い。重い。上手い。
麗桜の経験の中で間違いなく1番のパンチだった。
蝶のように舞い蜂のように刺すとはよく言ったものだが麗桜の感じ方では「差す」だった。
打つならばそこという決められた場所に気付けば差し込まれていた感じだ。
豪快だけど正確。繊細だけど切れ味は鋭い。
麗桜は腹を打ち抜かれていた。
(こ、この…拳は…この人、樹さんと同格位かと思ったのが…う、嘘だろ…ジョーダンじゃないぜ。この人の拳は…強ぇ…格が違いすぎる…)
『う…うぅっ…』
腹を1発でいかれた麗桜はまだ声が出せず、膝を着き足に力が入らなかった。
『分かったろ。邪魔だから立てるようになったら消えろ』
そう言って行ってしまおうとする優子に麗桜はなんとか声を絞り出した。
『ま…待ってくれ…あんた、なんで自分に嘘ついてんだ』
優子の足が止まり振り返った。
『なんだと?』
『こんなにいいパンチ持ってる人が、なんで自分に嘘ついてまで親友や自分を慕う者を遠ざけてんだって言ったんだ。そうだろ?』
麗桜はゆっくり大きく息を吸い込んだ。
『あんた、あの時蓮華に向かって言いかけたよな。お前らなんかにって…あの言葉の先はなんだったんだろうって、あれから考えてたよ。考えたけど分からなかった。でも今は分かる。あれは「お前らなんかに何が分かる」だ。とっさに口から出て、でもあんたは言うのをやめた。言う訳にはいかなかった。誰にも知られる訳にはいかなかったんだ。本当の気持ちを』
やっと呼吸が落ち着いてきた。足にも力が入る。少しフラつきながら麗桜は立った。
『なぁ、お願いだから樹さんの所に戻ってやってくれよ。あんたらいつも一緒で、2人で1本のタバコ吸った仲なんだろ?樹さん、今も約束守ってんだって言ったよな?自分は神奈川一カッコいい暴走族だって、あの人は口ぐせのように言ってんぜ、それ』
優子は麗桜の胸ぐらをつかみ力任せに殴り飛ばした。
『おい。もう喋るな』
ここへきてイラつきを見せている。麗桜はなんとか立ち上がる。
『…夏…俺たちが東京連合と戦った時、俺の相手は元全日本チャンピオンの七条琉花だった…そいつは樹さんのリベンジの相手でもあった…でも、その日あの人は、七条の戦い方を見せる為に俺の前にそいつとやり合って、俺の目の前で散々攻撃を受けながら足1本破壊してわざと負けてくれた。まともにやり合っても俺に勝ち目はなかった。だから俺が自分の力で勝てる為に自分の戦いを捨ててそこまでしてくれた。いっつもヘラヘラしてるけど、いっつも笑って助けてくれる、俺にとっても大切な人だよ』
『おい…だからなんなんだよ!』
優子は感情をむき出しにして殴りかかる。麗桜はまた殴り飛ばされた。
『あ…あんたの目は…俺の親友に…似てるよ…』
フラフラになりながらも向かってくる相手を優子は殴りつけた。大ハンマーで殴られたような衝撃が麗桜を襲う。
『…お…俺の親友は…ボーカルだったんだ。俺がギターで…いつかメジャーデビューするって…絶対できるって信じてたし、言われてた。だけどあいつの耳が聞こえなくなっちまって、病院も渡り歩いたけど治す手立てが見つからなくて…あいつは、やめる。みんなの夢諦めさせたくない。後は任せるって言って、俺たちの前から消えちまったんだ。い、今は俺が代わりに歌ってる。いつかあいつが戻ってきてくれることを信じて、いつでもあいつが戻ってこれるように…』
優子は容赦なく殴り飛ばすが麗桜はまだ立ち上がり向かっていく。
『…俺たちは、メジャーデビューがしたいんじゃない…あいつが歌うバンドで音楽をやりてーんだ…100歩譲って…1枚もCDが売れなくてもいい…あのバンドは下手くそだって指差されても構わない…それでもいいから俺は…あいつの歌う横でギターが弾きたいんだ…』
もう何発殴られたのか、次に殴り倒されるとついに麗桜は立てなかった。
それでも這いつくばって優子に向かおうとしている。
『あ、あんたの目は…澪の目にそっくりだ…歌いたいのに歌えない悲しい目…本当はそこにいたいのに消えちまった、あの悔しそうな目…なぁ、あんた…本当は樹さんのとこ戻りたいんだろ?』
『やめろ…それ以上喋るな』
優子は鈍器で殴られたような痛みを心の中に感じていた。
『お、俺が…悪いんだ…俺がちゃんとあいつを守って…支えてやれなかったから…こんな思いは…たくさんなんだよ…』
麗桜は最後の力を振り絞って立ち上がった。
『だから俺は…樹さんを…守るんだぁ~!!』
拳を握ると優子に向かっていった。渾身の力を込めた右ストレートだ。
優子はそれをよけない代わりにガラ空きのボディに拳を叩き込んだ。
麗桜は膝から崩れ脱力のまま倒れてしまった。
気を失ったようだ。
『…いいパンチだったな。だがあたしもこの拳でずっと、樹とめぐと珠凛を守ってきたんだよ』
麗桜は今1発目のパンチが見えなかった。
速い。硬い。重い。上手い。
麗桜の経験の中で間違いなく1番のパンチだった。
蝶のように舞い蜂のように刺すとはよく言ったものだが麗桜の感じ方では「差す」だった。
打つならばそこという決められた場所に気付けば差し込まれていた感じだ。
豪快だけど正確。繊細だけど切れ味は鋭い。
麗桜は腹を打ち抜かれていた。
(こ、この…拳は…この人、樹さんと同格位かと思ったのが…う、嘘だろ…ジョーダンじゃないぜ。この人の拳は…強ぇ…格が違いすぎる…)
『う…うぅっ…』
腹を1発でいかれた麗桜はまだ声が出せず、膝を着き足に力が入らなかった。
『分かったろ。邪魔だから立てるようになったら消えろ』
そう言って行ってしまおうとする優子に麗桜はなんとか声を絞り出した。
『ま…待ってくれ…あんた、なんで自分に嘘ついてんだ』
優子の足が止まり振り返った。
『なんだと?』
『こんなにいいパンチ持ってる人が、なんで自分に嘘ついてまで親友や自分を慕う者を遠ざけてんだって言ったんだ。そうだろ?』
麗桜はゆっくり大きく息を吸い込んだ。
『あんた、あの時蓮華に向かって言いかけたよな。お前らなんかにって…あの言葉の先はなんだったんだろうって、あれから考えてたよ。考えたけど分からなかった。でも今は分かる。あれは「お前らなんかに何が分かる」だ。とっさに口から出て、でもあんたは言うのをやめた。言う訳にはいかなかった。誰にも知られる訳にはいかなかったんだ。本当の気持ちを』
やっと呼吸が落ち着いてきた。足にも力が入る。少しフラつきながら麗桜は立った。
『なぁ、お願いだから樹さんの所に戻ってやってくれよ。あんたらいつも一緒で、2人で1本のタバコ吸った仲なんだろ?樹さん、今も約束守ってんだって言ったよな?自分は神奈川一カッコいい暴走族だって、あの人は口ぐせのように言ってんぜ、それ』
優子は麗桜の胸ぐらをつかみ力任せに殴り飛ばした。
『おい。もう喋るな』
ここへきてイラつきを見せている。麗桜はなんとか立ち上がる。
『…夏…俺たちが東京連合と戦った時、俺の相手は元全日本チャンピオンの七条琉花だった…そいつは樹さんのリベンジの相手でもあった…でも、その日あの人は、七条の戦い方を見せる為に俺の前にそいつとやり合って、俺の目の前で散々攻撃を受けながら足1本破壊してわざと負けてくれた。まともにやり合っても俺に勝ち目はなかった。だから俺が自分の力で勝てる為に自分の戦いを捨ててそこまでしてくれた。いっつもヘラヘラしてるけど、いっつも笑って助けてくれる、俺にとっても大切な人だよ』
『おい…だからなんなんだよ!』
優子は感情をむき出しにして殴りかかる。麗桜はまた殴り飛ばされた。
『あ…あんたの目は…俺の親友に…似てるよ…』
フラフラになりながらも向かってくる相手を優子は殴りつけた。大ハンマーで殴られたような衝撃が麗桜を襲う。
『…お…俺の親友は…ボーカルだったんだ。俺がギターで…いつかメジャーデビューするって…絶対できるって信じてたし、言われてた。だけどあいつの耳が聞こえなくなっちまって、病院も渡り歩いたけど治す手立てが見つからなくて…あいつは、やめる。みんなの夢諦めさせたくない。後は任せるって言って、俺たちの前から消えちまったんだ。い、今は俺が代わりに歌ってる。いつかあいつが戻ってきてくれることを信じて、いつでもあいつが戻ってこれるように…』
優子は容赦なく殴り飛ばすが麗桜はまだ立ち上がり向かっていく。
『…俺たちは、メジャーデビューがしたいんじゃない…あいつが歌うバンドで音楽をやりてーんだ…100歩譲って…1枚もCDが売れなくてもいい…あのバンドは下手くそだって指差されても構わない…それでもいいから俺は…あいつの歌う横でギターが弾きたいんだ…』
もう何発殴られたのか、次に殴り倒されるとついに麗桜は立てなかった。
それでも這いつくばって優子に向かおうとしている。
『あ、あんたの目は…澪の目にそっくりだ…歌いたいのに歌えない悲しい目…本当はそこにいたいのに消えちまった、あの悔しそうな目…なぁ、あんた…本当は樹さんのとこ戻りたいんだろ?』
『やめろ…それ以上喋るな』
優子は鈍器で殴られたような痛みを心の中に感じていた。
『お、俺が…悪いんだ…俺がちゃんとあいつを守って…支えてやれなかったから…こんな思いは…たくさんなんだよ…』
麗桜は最後の力を振り絞って立ち上がった。
『だから俺は…樹さんを…守るんだぁ~!!』
拳を握ると優子に向かっていった。渾身の力を込めた右ストレートだ。
優子はそれをよけない代わりにガラ空きのボディに拳を叩き込んだ。
麗桜は膝から崩れ脱力のまま倒れてしまった。
気を失ったようだ。
『…いいパンチだったな。だがあたしもこの拳でずっと、樹とめぐと珠凛を守ってきたんだよ』