第122話 赤松珠凛

文字数 1,691文字

 旋と珠凛は足の折れた珠凛に旋が肩を貸し少しずつ歩いていた。
 ここまで来たのにこのままでは間に合わなくなってしまう。

 珠凛は1つの覚悟をここでやっと決めることができた。

『めぐ…あなたに言っておかなければならないことがあるの。それを聞いたら私を置いて先に行って』

『え?』

『ずっと、言えなかったことがあって…』

『な、何さ、こんな時に改まって。やめてよね、実は彼氏がいたとかさ』

『…お姉さんのこと…』

 そう聞いて旋は足が止まってしまった。

『どういう…こと?』




 赤松珠凛はチーム綺夜羅の中で1番しっかりしている。
 綺夜羅も掠も数も熱くなりやすく、はっきり言ってしっかりしているとは言えない。
 その点で言うと燃はまだまず考えることができるがこのメンバーに言って聞かせられる方ではない。

 珠凛はそれができる子なのである。

 みんなが熱くなって周りが見えなくなりそうな時、珠凛の言葉だけは何故かみんな聞く。

 彼女は普段決して喋る方ではない。みんなが1人5回も10回も喋って、それでやっと珠凛が1回口を開くか開かないか程度だ。

 そんな彼女だが、そんな彼女だからなのか珠凛の言うことはみんなよく聞く。
 それはもちろん彼女が賢くて頭の回転が早く説得力があるのもそうなのだが、なんか珠凛が言うと聞いてしまう。
 みんなにとってそういう存在なのだ。

 珠凛は綺麗なキャラメル色に髪を染めていて、髪型は肩より少し伸ばし学校へ行くのにも毎日同じ髪型には絶対しない。
 毎日後頭部で縛るだけの綺夜羅や365日オールバックの数、めんどくさくてピンで止めるだけの掠と何もする必要がない位短い髪の旋たちには全く理解ができないほど、毎日少しでもイメージを変え、なんなら化粧やアクセサリーも変え、そんな変化を楽しむ女の子らしい一面も持っている。

 オシャレで上品でしっかり者。タイプ的に例えたら伴や蘭菜、そんな風に思えてしまいそうだが同じように見えても内面はまた別物で、珠凛は伴や蘭菜ほど前向きに考えてそうしてきた訳ではなかった。



 珠凛は小さい頃よく親に叱られた。

 何故そこまで怒られなければならないのか子供ながらに考えたが全く分からなかった。

 食べ物を残すな。勉強をしろ。手伝いをしろ。門限の前には必ず帰ってこい。
 1から10まで親の言った通りにやることを習慣づけられ時には手もあげられた。

 親の性格なのだろう。しつけ、教育の一環であり正しいからやっている。珠凛の為にそうしている。真面目にそう思っている親だった。
 それがおよそ自分の記憶の中でも1番最初の頃からあるので、少なくとも3歳4歳、もしかしたらもっと前から珠凛はそうやってされてきたということになる。

 今の日本ではまだ幼い自分の子や連れ子を暴力で死なせてしまうということが決して少なくない。
 それと同じとは言えないが近いものはあったはずだった。

 何故怒られるか分からないようなことで怒られる。
 悪いことしていないのにぶたれる。

 それが嫌だから嘘をつく。

 嘘をついてまた怒られる。

 怒られない為にはしっかりしなければならない。
 何故怒られるか分からなくても分かったフリをしなければならない。
 泣いても最終的には涙も止めなければならない。

 親は珠凛のことを愛していたのかもしれないが珠凛は親を心から愛せなかった。
 そのせいもあって珠凛の反抗期は早かった。

 部屋に入ってこないで、触らないでと親に初めてキレたのは小学校4年の時だった。

 そんな彼女をずっと支える存在だったのが旋とその姉の優子だった。
 朝一番のおはようからバイバイまた明日ねのその時まで笑わせようとしてくれ、そして笑っていてくれる旋は珠凛が最も心を許せ、そんな自分の隣にいてくれるなくてはならない存在だった。

 姉の優子は妹にするのと同じように可愛がってくれ小さい頃はよく甘えていた。

 ただの妹の友達の自分を嫌な顔1つせず優しくしてくれ、こんにちわと挨拶ができただけでも誉めてくれたりして珠凛はそれが嬉しくて優子にはとても心を開き自分の姉のように慕っていた。

 だから旋の家に遊びに行くのが好きでよくお邪魔していた。
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