第73話 秘められた真実

文字数 2,230文字

 旋と珠凛を無事に転校させ、樹にこのことを知らさないで守る方法なんて浮かばなかった。

 旋と珠凛を転校させたところで家を知られては何も意味がない。

 何より樹に知らさずに守る方法なんて、どう考えてもあるはずがない。

 あたしがあんたの下についたら何があっても3人に手は出さないと約束してくれ。それだけ約束してくれたらあたしはそれでいい、とでも言うか?

 いや、ダメだ。そんな約束をあの女が守る保証なんてない。

 それにその約束を逆手に取られでもしたら何をさせられるか分かったもんじゃない。
 それこそあたしは奴隷だ。

 どうしたらいい?守りたいのに守りようがない。

 いっそみんなで仲良く奴隷になるか?

 考えれば考えるほど、どうすればいいか分からなくなる。


『どうするんだ?白桐優子。悪いことは言わねぇよ。難しいことじゃねぇだろ?』

 鷹爪はあたしを見てニヤついていた。

 正直殺意を覚えた。あたしは必死に感情を抑えた。

『…分かった。少し時間をくれ』





 そして1つ答えが出た。

 結局あたしにはそれしかなかった。守れないのなら守らなければいい。
 自分と関係があると狙われてしまうのなら全てを切って自分が3人の前からいなくなればいい。

 その次の日、旋と珠凛に転校の話を持ちかけた。急な話だがすぐにでもと話を急がせた。

 2人の転校する日時が決まって、その前日最後に樹と連絡を取ると樹は中学を卒業したら同じ高校に通って相模原でCRSを立ち上げようと話してくれた。

 素敵な話だと思った。

 本当に嬉しかった。でも、あたしは…


『そう言ってくれて嬉しいんだけどさ、あたしはあたしでこっちで暴走族作ろうと思うんだ。だからさ…だから、お互いどこにも負けない神奈川で1番カッコいいチーム作ろうぜ』

 …あたしは守らなければならない。

 だから自分のことなど忘れ、いい人生、最高の青春を送ってほしいと…それだけを願った。




 そしてあたしは再び鷹爪の所に顔を出した。

『もう哉原樹も後輩の2人もあたしとは関係ない。連絡先も知らないし向こうも分からない。2人にも転校させて2度と目の前に現れるなと言っておいた。もう会うことはない。だからあたしがあんたの下についたらあんたもあいつらのことは忘れると念のためだが約束してほしい』

『もう関係ないのにか?忘れると約束しろなんてそいつらが大切だと言ってるようなもんじゃないか。お前は頭が悪いのか?』

『いや、やりたきゃやるがいいさ。だがそれならあたしも好きにするだけだ。あたしは理由もなく従うのは嫌なだけさ』

 鷹爪もその意味を理解したようだ。

『…ほーう。仲間守る為ならそのつながりさえ切るってか。その辺のガキよりは話が分かるじゃねぇか。その通り、あたしはお前が欲しいのさ。ここで1番強いお前があたしの下につくならそれ意外のことはまぁどうだっていい。それで例えば好きにするってよ、あたしがその約束を破った場合お前はどうするっていうんだよ』

 もしも樹やめぐと珠凛をあんな悲惨な目に合わされたら、あたしはきっと殺されるとしてもこいつを殺すだろう。

 だがそんな感情もあたしが本気だという脅しも今は必要ない。

 必要なのはたとえ2人を目の前で拷問にかけられようと、たとえ樹を顔の横でレイプされようとも関係ないって言いきれるだけの気持ちとそれを信じさせられるだけの強い態度だ。

『それであたしにどうしてほしいんだ?もう関係ないって言わなかったか?やりたいなら勝手にすればいい。殺してほしいならそんなことしなくてもいつだってやってやるぜ?』

 それを聞いて鷹爪は高笑いした。

『…ふっふっふ、あっはっは!そうか、そりゃあたしも腹を切る覚悟をしろってことか。おもしろい、気に入ったよ。安心しろよ、あたしはそんなつまんねぇことで死ぬつもりはない』

 いや、それは分からない。

 この女のことは1ミリも信用できない。こいつの目は平気で嘘を言える目だ。
 自分の為だったらなんだってする。多分味方を切ることだって簡単にできる奴だ。
 絶対に油断はしない。





 それからあたしは鷹爪に言われるがままだった。

 周辺の学校を潰せと言われれば潰したし覚醒剤をさばけと言われれば欲しがる奴に売りつけた。

 痛みはなかった。他の奴がどうなろうと知ったことじゃなかったし、この組織にも全く興味がなかった。

 高校ももちろん相模原などではなく厚木で最悪と評判の厚木中央に行くことになった。
 さすが噂通りのクズ校だったがそれでもまだ今程じゃなく、あたしたちは半月とかからず厚央を征服した。
 視界に入れば殴り飛ばし向かってくれば半殺しにした。

 あたしに敵はいない。

 仲間もいらない。

 いつか自由になれる日までクズに従いクズを従えるだけだ。

 そんな自分にただただ腹が立った。

 何が厚央の白桐だ。ただの犬じゃないか。

 不満のはけ口はあった。その怒りを他者や生意気な後輩に無差別にぶつけていた。

 おかげで誰もがあたしに頭を下げ誰もが言うことを聞く。





 あたしは生きながら死んでいた。

 覚醒剤をやっている時だけは全て忘れられるから楽だった。

 自分なんて死んだ方がいいと思っていた。

 生きている価値なんて見えなかった。

 だけど何が心残りなのか死のうともしなかった。

 心残りなのか、死ぬのが本当は怖いのか、それとも覚醒剤があったからなのか。
 本当に自殺できてしまう人たちに比べたら、あたしなんて死ねないで逃げてるだけだ。

 あたしは自分のことが嫌いになっていった。
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