第163話 生きるか死ぬかの別れ道

文字数 770文字

『愛羽、あっちで旋が寝てる。起こして事情を話して2人で4階の美術室に来てくれ』

 言って樹は明かりのついた教室を指差した。

『分かった』

 うなずくとすぐに行ってしまいそうな愛羽の肩をもう一度つかむと樹は心を鬼にして言った。

『いいな?分かってると思うけど、相手はマジで鉄砲持ってる。平気で撃ってきやがる!やり合わなくていいから全力で逃げてきてくれ。絶対死ぬな!』

 できるならそっちの役を自分がやりたい。目の前の少女を囮になんてしたくないし間違っても死なせられない。だが今この状況で愛羽に任せる他手段はなく、愛羽にだから任せられると思った。

『あんただけが頼りだ…』

 樹にそう言われ抱きしめられると愛羽は本当にこれが生きるか死ぬかの別れ道であることをやっと理解した。
 普段人のことをお前かてめぇでしか呼ばない樹が愛羽をあんたと呼んだことが今の樹の心の中を表している。それで十分伝わった。

『任せて』

 愛羽はそう言って笑うと走り出していった。



 樹は以前杉山に優子と会わせてもらった時に使った非常口から校内に入った。

 普通に玄関から入っていくと美術室のある校舎へは渡り廊下を渡っていかなければならない。
 夢の中では優子は美術室側の校舎にいたが鷹爪は玄関から入った自分たちのすぐ近くにいた。

 おそらくだが鷹爪はそもそも玄関の近くにいたはずだ。まさか優子が自分のことを殺そうとしているなんて夢にも思わないはずだし、むしろ逃げようとしていると思っただろう。
 鷹爪にしてみればそれが1番嫌な訳で、だから玄関付近から動けなかった。そこへのこのこと自分たちが行ってしまったのだからしめしめと思われただろう。

 こっちの非常口からなら階段を上がってすぐ美術室に行ける。
 まずは鷹爪より早く優子と会わなければならない。

 樹は音を立てぬよう気をつけながら階段を上がっていった。
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