第167話 無念

文字数 897文字

 何がダメだったのかな…

 春川麗桜、哉原樹。雛葉旋、赤松珠凛。月下綺夜羅、暁愛羽。
 どれが間違いだったのか、全く分からない。

 全てのシナリオが完成したあの日。

 白桐優子が守るべき者の為にCRSの頂点であり続けることを知ったあの時、ボクの頭のビジョンには鷹爪の死に顔が映った。

 当然白桐優子に殺されて。

 白桐優子は誰の言葉にも傾かない。他の人間だったら途中で怖じ気づいたり覚悟が決まりきらず失敗したのだろうが彼女は違う。
 大切な親友と後輩を守る為に何年も自分を犠牲にし続けている。引き金を引く役は彼女しかいない。
 正に完璧なキャスティングとストーリーだった。はずなのだ。

 その中でボクが危惧していたのは暁愛羽の存在だけだった。

 その予想通り彼女に行かれた途端ビジョンは変化し、暁愛羽が撃たれる映像から何故かボクが撃たれる映像に変わり、なんとか暁愛羽をくい止めるつもりがビジョンの通りボクは撃たれてしまっている。

 映像で見ていたのに…

 分かっていたことなのに…

 分からないと言えばそこだ。何故ボクは撃たれると分かっていたのに暁愛羽なんて助けてしまったんだろう。

 別にこんな奴撃たれて死のうとボクの知ったことじゃなかったのに。

 余計なことしなきゃ撃たれていたのは彼女だったはずなのに。

「暁愛羽は敵味方問わず信頼を得、人と人とを結びつける元凶」

 彼女のそれはまるで強力な磁力のようで、ボクは白桐優子が彼女と接触することを恐れていた。

 この計画において唯一それだけが阻止すべきことだと思っていた。思っていたけど…

 そうか、ボクは自分のことを考えていなかった。

 その磁力が及ぶ範囲に自分もいるなんてことは正直全く考えていなかったんだ。

 バカだなぁ。あと1歩だったのに。

 ちゃんと考えたのに。

 体が痛い。もう動けない。次はよけれそうにない。

 ボクは死ぬ。

 でもボクが死んでも白桐優子があいつを殺してくれる。
 だからせめて最後にあいつに屈辱を味あわせてやりたい。

 笑って…死んでやる…



 いや、そもそもボクはここで死ぬことを心のどこかで望んでいたのかもしれない。


 あぁ…羽が見える…


 天使さんが迎えに来たのかな…
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