第135話 強さ

文字数 1,083文字

『お前の倒し方がやっと分かったわ』

 眩はアジラナの首に腕を回し背中におぶさり足も胴に回してしがみついた。

『殴られても痛くない。おまけに体は化物ときとる。どうしばこうにもしばかれへん。せやけどや…』

 そのまま首をロックする腕に全身の残りの力を込めた。

『ワレかて人間じゃ。空気を吸って生きとんのや。痛くなくても苦しくはなる。なんぼステロイドや言うても、喉は筋肉でおおわれへん!』

『グッ…グッ…ガァア…』

 眩の読みは当たっていた。

 どんなに首回りの筋肉が発達しても喉は別だ。いかに鍛えられた者でも首を吊られれば間違いなく死ぬ。

『クッ…クソガァァ…!』

 アジラナは左の拳を眩に連続で叩きつける。

 利き腕の右手は豹那がなんとか押さえているが、この期に及んでもその打撃は全く悪魔的な破壊力だ。
 アジラナの拳に眩の顔面の血がベットリと着いてしまっている。
 眩はもう痛みでどうにかなってしまいそうなのをおそらく意地でギリギリ耐えている。

『ぐぅ…くそっ…』

 耐えているが限界は近い。それを見かねて豹那がしがみついた右腕に噛みついた。

『コノッ…コノアバズレドモガァ!!』

 アジラナは背中からおもいきり倒れこみ眩と豹那に対し交互にまだ拳を振るう。

『クゥオッ…ッカハ!…ッ~…ンンンン!ルルルル!…フシィフシィフシィ…ンンンンン!!』

 アジラナはかなり苦しそうだ。

 豹那は右腕にしっかりしがみつき腕を引き抜こうとして暴れるのを死にもの狂いでくい止める。

『来い!来いよ!はぁ…放すもんか…放して、たまるかよ!!あたしに来い!!』

 アジラナは顔を真っ赤にしながら豹那に眩に左腕で必死にパンチを叩きつけた。
 しかし2人は致命的なダメージを受けながらも手を緩めなかった。

 もうこれで決めなければ勝てる手段などない。

 この手を放せば負ける。この悪魔にめったくそにされて終わりだ。


 それは決してカッコいいケンカではなかった。

 ヒーローが敵を倒す時に使うカッコいい必殺技なんてものからは程々遠いが、周りで見守る者たちはその無様なヒーローをいつしか必死で応援していた。

『シィウ…シュウッ…ンン~ルッ!ルルルルルルルルッ!!』

 アジラナはまだしぶとく抗ったが豹那も眩も声を張り上げ負けまいと気合いを入れた。

『くたばれ!クソッタレ野郎!』

『これで終わりや!!勝つんはあたしらやぁ~!!』


 アジラナの体からフッと力が抜けた。

 もろとも豹那と眩も倒れた。

『はぁっ…はぁっ…どうや…ドアホッ…』

『はぁっ…はぁっ…くそっ…痛ぇ…ざまぁみろ…くそったれ…』

 豹那も眩もそれから息が整うとそのまま力尽き気を失ってしまった。
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