第56話 正論
文字数 1,891文字
『これも…そのCRSにやられたこと、と考えていいのかしら』
伴は珍しく目を細めて言う。
風雅から連絡を受けた愛羽たちに豹那や樹はすぐに病院に駆けつけ、伴と暁龍玖が病室に到着してから改めて一同は今起きていることを話し合った。
病院に運ばれ処置が済んでも神楽と雪絵はまだ目が覚めず、特に雪絵をかばってシャンデリアの下敷きになったと見られる神楽は頭や背中など数ヶ所にして50針以上縫う大ケガで、その有り様は言うまでもなくひどいものだった。
店の中の状態から見て争ったのは一目瞭然で今日の一連の流れから、まず間違いなくCRSの人間の仕業だと見ていた。
1つ分からなかったのが、風雅が119番に連絡した時にはもうとっくに誰かが通報をした後だったらしく、通報してくれたのは店の人間や覇女のメンバーではないということだ。
誰かが風雅より先に店に来ていたのか、それともCRSが自分で通報をしたのか、なんにしろそこだけが不可解なままだったがそんなことは病室にいるメンバーからしたらどうでもいいことだった。
伴は静かだったが明らかにキレていて、普段学校で顔を合わせ、よくしてもらっている愛羽たちも声をかけられずにいる。
伴だけではない。病室の外も病院の周りも覇女のメンバーたちがまるで今から戦争にでも行くかのような殺気立った空気になっていた。
『伴、お前仕返しするなんて考えてるのか?』
喋りだしたのは龍玖だった。
『もちろんだわ。友達をこんな目に合わされて私は黙っていられないわ。覇女のみんなと共に打倒CRSを掲げるわよ』
『もしも絆が喜ばなくてもか?』
龍玖は心苦しそうに言った。伴は意表を突かれた顔をしたがすぐ言葉を返した。
『…えぇ、そうよ!このままじゃ被害者が増える一方だわ。それを止める為にも、戦いは避けられないわよ!』
伴が声に力を込めて言うと龍玖は悲しそうな顔をした。
『暴走族って、人の命を奪ったり危険にさらしてまでしなきゃいけない遊びだとは俺は思わない。10代の青春だろ?』
龍玖は伴だけではなく周りの人間にも向けて言っている。
『やめるべきだ。これが大きな抗争になってどちらかが死んだり重大なケガを負わせてしまったら、またそこで恨みとか怒りが生まれ結局は悲しみが残る。そんなつもりじゃなかったとしても、やられた側にはそんなの関係ない。そうやって終わらない争いを繰り返した結果、絆の兄は死んだんだ』
伴以外それを聞くのは初めてだった。伴も実際龍玖が自分の口からそのことを話すのは初めて聞いた。
『だから悔しいかもしれないけど、もうこいつらを悲しませてやらないでほしい…』
その気持ちは分かる。だから伴もすぐに言葉が見つからなかった。
だが豹那は黙っていない。龍玖の胸ぐらをつかむと引っぱり寄せにらみつけた。
『じゃあさ、あんたはどうしろって言うんだい?参考までに聞かせてみなよ』
龍玖は何も言わなかったが豹那は構わず続けた。
『さっきから聞いてりゃ、それはてめえが仲間守れなかった体験談か?そんなもんただの言い訳なんだよ。あんたが言ってんのはあんたの結果論じゃないか!ケガ人出さない為におとなしく向こうの傘下に入れってのかい?あたしは死んでもそんなのごめんだよ』
『傘下に入る?』
『そうさ。今回の件には暴走族だけじゃない、ヤクザが絡んでる。あたしら神奈川のチームを従えて金払わせようとしてやがるのさ』
八代と対峙した豹那以外は敵対するということしか聞いていない。
改めて暴力団の存在を聞くと場の空気は更に重くなってしまった。
『神楽…すまねぇ…みんな、すまねぇ…』
そんな中、樹は微かに震えながら眠る神楽の前で立ち尽くしていた。
『…なんであんたが謝るんだい?』
豹那はその根性が気にくわないとでも言いたそうだが樹は深刻な表情で話し始めた。
『CRSが優子のチームでみんなが言ってたことが全部本当なら、こうなっちまったのはあたしのせいだ。みんな、これからどーするこーするって話はちょっと待ってくれねぇか。愛羽の兄貴の言うとおりあたしもこの件でこれ以上ケガ人を出したくねぇ…』
『ふざけてんじゃないよ。いくらお前の昔の仲間だとしてもね、向こうだってそんなの分かった上で来てるんだろ?そんな理由でこっちが治まれる訳ないじゃないか。これで次にこの中の誰かしらでもやられてみな?もうどうにもならないよ?たとえヤクザが相手だろうがね』
結局その日2人は目覚めぬままで、みんなとても前向きな話などできず話はまとまらないまま一同はバラバラに解散していった。
伴と龍玖だけは病院に残り覇女の人間と交代で2人を見守ることにした。
伴は珍しく目を細めて言う。
風雅から連絡を受けた愛羽たちに豹那や樹はすぐに病院に駆けつけ、伴と暁龍玖が病室に到着してから改めて一同は今起きていることを話し合った。
病院に運ばれ処置が済んでも神楽と雪絵はまだ目が覚めず、特に雪絵をかばってシャンデリアの下敷きになったと見られる神楽は頭や背中など数ヶ所にして50針以上縫う大ケガで、その有り様は言うまでもなくひどいものだった。
店の中の状態から見て争ったのは一目瞭然で今日の一連の流れから、まず間違いなくCRSの人間の仕業だと見ていた。
1つ分からなかったのが、風雅が119番に連絡した時にはもうとっくに誰かが通報をした後だったらしく、通報してくれたのは店の人間や覇女のメンバーではないということだ。
誰かが風雅より先に店に来ていたのか、それともCRSが自分で通報をしたのか、なんにしろそこだけが不可解なままだったがそんなことは病室にいるメンバーからしたらどうでもいいことだった。
伴は静かだったが明らかにキレていて、普段学校で顔を合わせ、よくしてもらっている愛羽たちも声をかけられずにいる。
伴だけではない。病室の外も病院の周りも覇女のメンバーたちがまるで今から戦争にでも行くかのような殺気立った空気になっていた。
『伴、お前仕返しするなんて考えてるのか?』
喋りだしたのは龍玖だった。
『もちろんだわ。友達をこんな目に合わされて私は黙っていられないわ。覇女のみんなと共に打倒CRSを掲げるわよ』
『もしも絆が喜ばなくてもか?』
龍玖は心苦しそうに言った。伴は意表を突かれた顔をしたがすぐ言葉を返した。
『…えぇ、そうよ!このままじゃ被害者が増える一方だわ。それを止める為にも、戦いは避けられないわよ!』
伴が声に力を込めて言うと龍玖は悲しそうな顔をした。
『暴走族って、人の命を奪ったり危険にさらしてまでしなきゃいけない遊びだとは俺は思わない。10代の青春だろ?』
龍玖は伴だけではなく周りの人間にも向けて言っている。
『やめるべきだ。これが大きな抗争になってどちらかが死んだり重大なケガを負わせてしまったら、またそこで恨みとか怒りが生まれ結局は悲しみが残る。そんなつもりじゃなかったとしても、やられた側にはそんなの関係ない。そうやって終わらない争いを繰り返した結果、絆の兄は死んだんだ』
伴以外それを聞くのは初めてだった。伴も実際龍玖が自分の口からそのことを話すのは初めて聞いた。
『だから悔しいかもしれないけど、もうこいつらを悲しませてやらないでほしい…』
その気持ちは分かる。だから伴もすぐに言葉が見つからなかった。
だが豹那は黙っていない。龍玖の胸ぐらをつかむと引っぱり寄せにらみつけた。
『じゃあさ、あんたはどうしろって言うんだい?参考までに聞かせてみなよ』
龍玖は何も言わなかったが豹那は構わず続けた。
『さっきから聞いてりゃ、それはてめえが仲間守れなかった体験談か?そんなもんただの言い訳なんだよ。あんたが言ってんのはあんたの結果論じゃないか!ケガ人出さない為におとなしく向こうの傘下に入れってのかい?あたしは死んでもそんなのごめんだよ』
『傘下に入る?』
『そうさ。今回の件には暴走族だけじゃない、ヤクザが絡んでる。あたしら神奈川のチームを従えて金払わせようとしてやがるのさ』
八代と対峙した豹那以外は敵対するということしか聞いていない。
改めて暴力団の存在を聞くと場の空気は更に重くなってしまった。
『神楽…すまねぇ…みんな、すまねぇ…』
そんな中、樹は微かに震えながら眠る神楽の前で立ち尽くしていた。
『…なんであんたが謝るんだい?』
豹那はその根性が気にくわないとでも言いたそうだが樹は深刻な表情で話し始めた。
『CRSが優子のチームでみんなが言ってたことが全部本当なら、こうなっちまったのはあたしのせいだ。みんな、これからどーするこーするって話はちょっと待ってくれねぇか。愛羽の兄貴の言うとおりあたしもこの件でこれ以上ケガ人を出したくねぇ…』
『ふざけてんじゃないよ。いくらお前の昔の仲間だとしてもね、向こうだってそんなの分かった上で来てるんだろ?そんな理由でこっちが治まれる訳ないじゃないか。これで次にこの中の誰かしらでもやられてみな?もうどうにもならないよ?たとえヤクザが相手だろうがね』
結局その日2人は目覚めぬままで、みんなとても前向きな話などできず話はまとまらないまま一同はバラバラに解散していった。
伴と龍玖だけは病院に残り覇女の人間と交代で2人を見守ることにした。