第162話 夢
文字数 2,296文字
誰かの呼ぶ声。あたしを呼んでいる。あれ?あたしは…
『樹さん!樹さん!』
愛羽の声で樹は目を覚ました。
『よかった気が付いた!大丈夫!?』
『あ、あぁ…』
頭が少しフラフラする。自分が何をしていたのか、どうしてここにいるのか思い出せない。だが見覚えのある場所だ。愛羽はだいぶいつもと血相が違う。
『さっきヤクザの人が通って、綺夜羅ちゃんが行けって言ってくれて、あたし走ってきて』
『ヤクザ?』
あれ?あたしはそもそも緋薙の家であいつが飯作ってくれるって言うから静火と唯と一緒に行ったんだよな? あれからどうした?なんで愛羽がいるんだ?
『静火と唯は?』
『分からない。麗桜ちゃんは門の所に倒れてたけど、他に誰も見当たらないから樹さんに電話したら音がして…』
樹はまだ少し頭が痛かったがだんだん今何が起こっているのか、その恐るべき事実が分かってきた。
おそらくもうすぐあの音が鳴る。
「バァァン!!」
もう嫌というほど耳にした破裂音。2度と忘れはしない。あの恐ろしい銃声だ。
『…夢か?』
自分はあのことを忘れられないあまり、ついにあの日の悪夢を夢でも見るようになってしまったのだ。そう思った。
今樹は優子が殺されたあの日の厚木中央高校にいる。
優子に負け気絶していたのを愛羽が発見してくれたあの時のあの場所にいる。
『出てこい優子ぉ!!』
これもあの日のままだ。鷹爪が校舎の中で叫んでいる。
『ねぇ…今の音…』
そう言って校舎の方を不安そうに見る愛羽の横顔。これもあの日通りだ。
『どうなってんだ…』
樹はまだこの状況を理解できていない。
『どうなってんだって、優子さんを助けるんでしょ!?なんとかしなきゃ殺されちゃうんだよ!?しっかりしてよ樹さん!!』
どうなっている?確かに自分はこの景色を知っている。この後のことも。その後の何日間のことも。
『まさか…』
あっちが夢だったとでも言うのか?そんなことまず信じられる訳もないが、今のこれが現実であると樹もだんだんと感じ始めていた。
『…助けなきゃ…』
愛羽がそうやって言うことも樹は分かっていた。
これが夢であれ現実であれ急がなければならない。2度と優子を、大切な親友を死なせたりはしない。
だが樹にはどうしても確認しておきたいことがあった。
『あぁ、助ける。だけど愛羽、その前に頼みがある』
『…何?』
『あたしを1発ぶん殴ってくれ!』
愛羽は一瞬もためらわず樹を殴りつけた。
普通「いいの?」とか「いくよ?」とか何かしら前ふりがあるだろうと思っていたがとんでもない。
(ちっ、相変わらずチビのくせにいいパンチだぜ、くそっ。けど、やっぱり痛ぇ。これはとうとう夢なんかじゃねぇ!)
『大丈夫?樹さん。殴っといてあれだけど、もう1発いっとく?』
『…いや、もういい、ありがとよ。それより愛羽、優子は死んでねぇんだな?まだ生きてんだよな?』
これが現実として自分が見たものが夢だったとしたら、一体あの夢はなんだったのだろう。それを確かめたい所だが今そんな時間はない。
(優子に会いに行くべきか?鷹爪を先に叩くべきか?それとも最終的に人質に取られた旋を起こすか、もっと見つからない場所に隠すべきか?)
樹は拳銃なんて持ってないし防弾ベストも着ていない。たった1つあるのは、これから起こることの全てを夢で1度体験しているという自分でも信じられないような虚ろな事実だけだ。
いや、もう1つ。
『愛羽…』
『え?』
樹にはこの前髪パッツンのポニーテールが目の前にいる。
『いや、さ…あたしがこれから突拍子もねぇこと…普通ならぜってーありえねぇことを言い出したら、お前…信じてくれるか?』
『どうしたの?』
急に樹の様子が鬼気迫るものに変わって愛羽も少し困惑している。
『こんな時に何バカなこと言ってんだって思っちまうかもしんねぇけど、お前がそれを信じてくれたら、今度は優子を助けられるかもしれねぇんだ!』
樹は愛羽の肩を強くつかんだ。
『優子はこれから撃たれて死ぬ。どういう訳かは分かんねぇけど、あたしはこれから起こること全部、さっきまで寝てた夢ん中でもう体験してきちまってるんだ。これからあたしらが校舎に入ってくとまず鷹爪に後をつけられる。その後愛羽が腕を撃たれて旋が人質に取られて、優子が先に鷹爪を撃ったはずがあいつの担任が優子の為に用意してたはずの防弾ベストを何故か鷹爪が着てやがって、最後はあたしをかばう為に撃たれて死んだんだ。あたしを…かばう為に…』
樹はあの光景が脳裏に甦り息が荒くなってしまっていた。
自分の口から出た嘘のような本当を改めて思い直すが、そんなこと信じてもらえるはずがない。
(落ち着け…なんとかするんだ、落ち着け)
だが正直怖い。1度体験してきてしまっているが故、これから起こることがとんでもなく怖い。
なかなか呼吸の調わない樹の背中を愛羽がさすっていた。
『…分かった。信じる』
樹は愛羽が言ったことを頭の中で何度か繰り返した。
『え?お前、今なんて?』
『信じる。で、あたしたちこれからどうすればいいの?』
『お前…』
樹はここに来てくれたのが本当に愛羽でよかったと思っていた。そういえば夢の中でも同じことを思った気がした。
この子は本当に何か不思議な力を持っているんじゃないかという気さえしている。
不思議なものだ。愛羽のおかげで樹は落ち着きを取り戻すことができた。
『ありがとよ愛羽。また一緒に来てくれるか?』
『何言ってんの?早く行こ!』
『あぁ!』
待ってろ優子。あたしが絶対助けてみせる。この命に代えてもな。
あたしが見たのが夢だったとしても、もしもこれが夢だったとしてもだ!
『樹さん!樹さん!』
愛羽の声で樹は目を覚ました。
『よかった気が付いた!大丈夫!?』
『あ、あぁ…』
頭が少しフラフラする。自分が何をしていたのか、どうしてここにいるのか思い出せない。だが見覚えのある場所だ。愛羽はだいぶいつもと血相が違う。
『さっきヤクザの人が通って、綺夜羅ちゃんが行けって言ってくれて、あたし走ってきて』
『ヤクザ?』
あれ?あたしはそもそも緋薙の家であいつが飯作ってくれるって言うから静火と唯と一緒に行ったんだよな? あれからどうした?なんで愛羽がいるんだ?
『静火と唯は?』
『分からない。麗桜ちゃんは門の所に倒れてたけど、他に誰も見当たらないから樹さんに電話したら音がして…』
樹はまだ少し頭が痛かったがだんだん今何が起こっているのか、その恐るべき事実が分かってきた。
おそらくもうすぐあの音が鳴る。
「バァァン!!」
もう嫌というほど耳にした破裂音。2度と忘れはしない。あの恐ろしい銃声だ。
『…夢か?』
自分はあのことを忘れられないあまり、ついにあの日の悪夢を夢でも見るようになってしまったのだ。そう思った。
今樹は優子が殺されたあの日の厚木中央高校にいる。
優子に負け気絶していたのを愛羽が発見してくれたあの時のあの場所にいる。
『出てこい優子ぉ!!』
これもあの日のままだ。鷹爪が校舎の中で叫んでいる。
『ねぇ…今の音…』
そう言って校舎の方を不安そうに見る愛羽の横顔。これもあの日通りだ。
『どうなってんだ…』
樹はまだこの状況を理解できていない。
『どうなってんだって、優子さんを助けるんでしょ!?なんとかしなきゃ殺されちゃうんだよ!?しっかりしてよ樹さん!!』
どうなっている?確かに自分はこの景色を知っている。この後のことも。その後の何日間のことも。
『まさか…』
あっちが夢だったとでも言うのか?そんなことまず信じられる訳もないが、今のこれが現実であると樹もだんだんと感じ始めていた。
『…助けなきゃ…』
愛羽がそうやって言うことも樹は分かっていた。
これが夢であれ現実であれ急がなければならない。2度と優子を、大切な親友を死なせたりはしない。
だが樹にはどうしても確認しておきたいことがあった。
『あぁ、助ける。だけど愛羽、その前に頼みがある』
『…何?』
『あたしを1発ぶん殴ってくれ!』
愛羽は一瞬もためらわず樹を殴りつけた。
普通「いいの?」とか「いくよ?」とか何かしら前ふりがあるだろうと思っていたがとんでもない。
(ちっ、相変わらずチビのくせにいいパンチだぜ、くそっ。けど、やっぱり痛ぇ。これはとうとう夢なんかじゃねぇ!)
『大丈夫?樹さん。殴っといてあれだけど、もう1発いっとく?』
『…いや、もういい、ありがとよ。それより愛羽、優子は死んでねぇんだな?まだ生きてんだよな?』
これが現実として自分が見たものが夢だったとしたら、一体あの夢はなんだったのだろう。それを確かめたい所だが今そんな時間はない。
(優子に会いに行くべきか?鷹爪を先に叩くべきか?それとも最終的に人質に取られた旋を起こすか、もっと見つからない場所に隠すべきか?)
樹は拳銃なんて持ってないし防弾ベストも着ていない。たった1つあるのは、これから起こることの全てを夢で1度体験しているという自分でも信じられないような虚ろな事実だけだ。
いや、もう1つ。
『愛羽…』
『え?』
樹にはこの前髪パッツンのポニーテールが目の前にいる。
『いや、さ…あたしがこれから突拍子もねぇこと…普通ならぜってーありえねぇことを言い出したら、お前…信じてくれるか?』
『どうしたの?』
急に樹の様子が鬼気迫るものに変わって愛羽も少し困惑している。
『こんな時に何バカなこと言ってんだって思っちまうかもしんねぇけど、お前がそれを信じてくれたら、今度は優子を助けられるかもしれねぇんだ!』
樹は愛羽の肩を強くつかんだ。
『優子はこれから撃たれて死ぬ。どういう訳かは分かんねぇけど、あたしはこれから起こること全部、さっきまで寝てた夢ん中でもう体験してきちまってるんだ。これからあたしらが校舎に入ってくとまず鷹爪に後をつけられる。その後愛羽が腕を撃たれて旋が人質に取られて、優子が先に鷹爪を撃ったはずがあいつの担任が優子の為に用意してたはずの防弾ベストを何故か鷹爪が着てやがって、最後はあたしをかばう為に撃たれて死んだんだ。あたしを…かばう為に…』
樹はあの光景が脳裏に甦り息が荒くなってしまっていた。
自分の口から出た嘘のような本当を改めて思い直すが、そんなこと信じてもらえるはずがない。
(落ち着け…なんとかするんだ、落ち着け)
だが正直怖い。1度体験してきてしまっているが故、これから起こることがとんでもなく怖い。
なかなか呼吸の調わない樹の背中を愛羽がさすっていた。
『…分かった。信じる』
樹は愛羽が言ったことを頭の中で何度か繰り返した。
『え?お前、今なんて?』
『信じる。で、あたしたちこれからどうすればいいの?』
『お前…』
樹はここに来てくれたのが本当に愛羽でよかったと思っていた。そういえば夢の中でも同じことを思った気がした。
この子は本当に何か不思議な力を持っているんじゃないかという気さえしている。
不思議なものだ。愛羽のおかげで樹は落ち着きを取り戻すことができた。
『ありがとよ愛羽。また一緒に来てくれるか?』
『何言ってんの?早く行こ!』
『あぁ!』
待ってろ優子。あたしが絶対助けてみせる。この命に代えてもな。
あたしが見たのが夢だったとしても、もしもこれが夢だったとしてもだ!