第64話 ある少女の悲しみ

文字数 670文字

 お母さんは私が7歳の時に死んじゃいました。

 こんな言い方をすると変な目で見られることもあるけど、お母さんは殺されたんです。

 私の目の前で。


 忘れもしません。あの日は雨が降っていました。
 丁度今頃の寒くなり始める時季で、お母さんは今日はあったかいスープを作るからねと言っていて、私たちは傘を差して買い物から帰る途中でした。

 私はお母さんと手をつないでいたけど、急に大きな怖い音がしたかと思ったら私は突き飛ばされていて気づくと転んでいたんです。

 足を擦りむいて水溜まりに転んだせいでビショビショになってしまって、突然のことに訳も分からず振り向くと歩道に車が突っこんできたらしく、車と塀の間でお母さんが潰されていました。

 車のクラクションの音がずーっと鳴っていて、それがすごく怖かったけど車の中で気を失っている男の人に私はどいて!どいて!と泣きわめきました。

 男の人が起きなくて、でもすぐに人がたくさん集まってきて車を動かしてお母さんを助け出してくれたけど、お母さんは動かなくて目も開けてくれなくて私は泣きながらお母さんのことをずっと呼んでいました。

 少しして救急車が来てくれて、私は子供だったからこれでお母さんは助かるとばかり思って一緒に病院に行きました。

 でも病院に着いてあまりにもすぐにお母さんは死んでしまったと、私にははっきり言ってくれなかったけど病院の人たちの顔を見て分かりました。

 だから居ても立ってもいられなくてお母さんのいる部屋に入って、お母さんの前まで行って一生懸命お母さんを呼んで、起きて!嫌だ!とずーっとそうしていました。
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