第155話 思い

文字数 1,038文字

 今思えばあたしがいけなかったのかな。

 中1のあの日、あたしとあんたが万引きで捕まった日。あんたが母親にぶたれて家帰ってくるなって言われた時にあたしが自分も家出するなんて言わなかったら、一緒にあんたんちに行って事情話して頭下げて謝ってたら、きっとこんなことにはならなかったと思う。

 あれがそもそもの始まりであたしたちのスタートだったから。

 もし帰っていたら、あたしたちはあれからもずっとパシリのままで中学では悲惨な思い出ばっかり作っていたかもしれない。
 でもそしたらあたしたちはずっと一緒で高校も同じ所に決めて、今頃卒業後のことに胸を踊らせたり、もしくは頭を抱えて悩み腐ってるかもしれないね。

 でもそっちの道はそっちの道で楽しいことだっていっぱいあって、あんたなんて整った顔してるから男にもてはやされて案外楽しんだりしてさ。
 今のあたしからはちょっと考えられないけど、でもあんたが一緒だったらあたしはどんな人生だってよかった。

 たとえ地味で日の当たらない青春だったとしても、あたしはあんたと手をつないで光を夢見てるだけで十分だった。

 十分だったのに…

 もう2度と会えないなんて、あんまりじゃないか…



『何言ってんの?樹』

 誰かが呼んでる。あれ?この声、優子?

『あんたが言ってくれたんじゃん。あたしたちは離れてもどこにいてもずっと一緒にいようって。忘れちゃったの?』

 樹は周りを見回したが誰もいない。

『どこ行く時も、ラスイチ吸う時も一緒。あんたがツラい時はあたしも一緒だよ。だからさ、もうそんな顔するのやめようぜ』

 だって優子、あたしのせいで

『何言ってんだよ。あたしが撃つより先に撃たれちまっただけのことだよ。あんたのせいなんかじゃないよ』

 樹はあの瞬間を悔やみきれない。あの後もずっとあの場面が頭から離れなかった。

『樹。あんたはあたしが認めた神奈川で1番カッコいい人だよ。それを忘れないでよ』

 あたしは自分のことそんな風に思えたことないんだよ。

『何言ってんのさ。あのピンクの頭の奴から聞いたぜ?やっぱりあんたはあたしが思った通りの女だったって思ったよ』

 カッコいいのはあいつの方だよ。

 そう思って樹ははっとした。これは夢じゃないのか?てっきり夢だと思っていたけど麗桜の話が出てきたのは意外だった。

『あぁ、あとさ、めぐと珠凛のこと頼むな。あいつらも多分メソメソしてる気がするからさ』

 優子の声から困り顔で笑うような、そんな顔が想像できてしまった。

『あたしも鬼音姫に入りたかったな』
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