第106話 ヘビ女に返さなきゃならないもの

文字数 989文字

『へっへへへ。おい、あたしを病院に送るとか言ってなかったか?どーしたよ』

 風雅は四阿相手に苦戦していた。木刀を持ち剣の間合いを取りたい風雅に対し総合格闘技の四阿はそれをさせない。
 仕方なく風雅も拳を構えるが四阿の強さも半端ではなかった。

『風雅どけ!あたしと代われ!』

 できることなら早くみんなの後を追いたい豹那だったが風雅をそのままにしてもおけない。

 だが風雅は耳を貸さなかった。

 自分は負けないという顔をしているがどう見ても相手の方が上。何より味方の旗の色も少々厳しいときている。
 数で勝る以上にやはりCRSの勢いが強いのだ。
 勝つ為に手段を選ばないCRSの猛攻に悪修羅嬢も苦戦していた。
 天王道煌も瞬相手に手いっぱい。

 この状況では自分がここを抜けることはできない。

 判断しかねる豹那の耳にこの乱闘の声や音の中、何かが聞こえてきた。単車の走る音だ。それも1台や2台ではない。
 音の方に目をやると無数のライトが連なってこちらへ向かってくるのが見えた。

 それらは単車を停めると次々に走り出しCRSにかかっていく。
 そして、その中から1人黒い特攻服の女が歩いてくる。

『なんだいなんだい。騒がしいねぇ~』

 それはまだ病院で寝ているはずの神楽だった。

 どうやら神楽がこの乱闘騒ぎを聞きつけ集まれるだけの人数を率いて駆けつけてくれたらしい。

『神楽さん…』

『おや風雅。本当に悪いんだけどね、そのヘビ女に返さなきゃならないものがあるんだ。ちょっとそこ、どいてくれるかい?』

 瞬は神楽の姿を見るなり止まってしまった。

『おいおい。そんな目で見るんじゃないよ、バカタレ。待ってな…今あのクソ張り倒してくるから。お前の説教はその後だ。ウチの従業員なんだ。もう少し辛抱してんだよ』

 神楽は次に豹那と目を合わせた。

『おいケガ人。ここ任せても大丈夫なんだろうね?』

『まだいたのかい?さっさと行きなよ。元からここはあたしの管轄だよ?』

『ふっ、よく言うよ。どの口が言ってんだか』

 豹那は単車に跨がるとエンジンをかけ走りだした。手負いでも、もうここは神楽に任せるしかない。

 その姿を見てから神楽は四阿に改めて向き直った。

『おいヘビ頭。1つだけ言っとくよ?あたしが神奈川最大にして最強の暴走族、覇女の頭神楽絆だ。最高に運が悪かったね。1番強い奴を怒らせちまってさ』

 神楽はまだ完治していない体で構え、目を細めた。
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