第69話 潜入

文字数 2,894文字

『あん時はすごかったんだぜ!?ベイブリッジを埋め尽くす東京連合の中にあたし1人で突っこんでったんだからな!』

 玲璃は夏の東京連合との激闘を自慢気に話していた。その玲璃の武勇伝を戦国原は夢中になって聞いている。

『500人の中に1人でですか!?すごい…玲璃さんは勇気があるんですね!ボクには考えられないや』

『まぁな!蘭菜と蓮華の仇に愛羽を守る為だ。当ったり前だぜ!』

『それで500人に勝っちゃったんですか!?』

『いや…さすがに500人は…向こうの総長の雪ノ瀬瞬って奴とタイマンだよ』

『雪ノ瀬瞬…』

『あぁ、あいつは強かったぜ。神奈川4大暴走族の総長たちも歯が立たねぇ位でよ、あいつ1人に片っ端から全員ボッコボコよ。強ぇなんてもんじゃなかったぜ。今はもう瞬とも友達だけどな。あの時のあいつは間違いなく関東一、下手すりゃ日本一の暴走族だったぜ』

『今は違うんですか?』

『まぁ、瞬が強ぇことに変わりはねぇけど、そん時ゃやべぇドーピングの薬やっててよ。それ以来仲良くなったし、あいつらも今は落ち着いてるみてーだな』

『…ドーピング…』

『後はやっぱ豹那だな。あいつは生身で瞬とやり合ってたし、結構いい線行ってたんだぜ?あいつこそ人間じゃねぇよ。多分神奈川で1番強ぇのは豹那だろうな。悪修羅嬢王緋薙豹那って言ってさ、結構カッコよくていい奴なんだ』

『へぇー…悪修羅嬢王…緋薙豹那』





『神楽さんは見た目よりずっと温かい人だよ。口でなんと言っても東京連合の時も大阪の時も助けに来てくれた。すごく強い人だしね。豹那さんは強いけど覇女の神楽絆もやっぱり強いと思う。関西で1番強い人と互角だったって樹さんが言ってたよ。神楽さんは自分のがちょっと上だって認めなかったけどね。神奈川で1番大きいチームの総長でありながらお店も経営してるし立派だと思う。えっ?横浜でキャバクラの経営しながらママもやってるんだよ。clubKってお店なんだけど…あ、そういえば最近瞬さんがそこで働き始めたって聞いたけど仲良くやってるのかな?』

『…clubK…』





『最初は仲良いのも夜叉猫だけだったのよ。でも不思議よね、絶対に分かり合えなかった4大チームがまるでパズルがはまったみたいに綺麗に揃っちゃって。その最後のピースが暴走愛努流だったみたいにね。だとしたらきっとそれをはめてみせたのは愛羽でしょうね。あんなに素敵な人、きっと他にいないわ。人のことを考えれて、その為に何をするべきか考えられて行動できる。それをあんなに真っ直ぐにできるってなかなかできそうで出来ないことだと思うの。愛羽はそれができる人。だからみんな惹かれるのよね。え?伴さん?あら、あの人見かけによらないだけですごく強いのよ?私たちは同じ学校で愛羽のお兄さんのこともあってか最初から味方だったけど、敵だったら1番油断できないんじゃないかしら。あの頃の瞬さんにも1歩も引かなかったし大阪の時だってドーピングの人相手に互角以上だったわ。何より豹那さんのライバルだったのよ?それにね、4大暴走族の総長の中で1番頭が良くてキレるのが伴さんなの。とってもオシャレで美人だし、私の憧れの先輩なの。え?えぇ、そうよ。愛羽のお兄さんと付き合ってるの』






『暴走愛努流はみんなカッコいいんだよ。愛羽も玲璃も蘭菜も麗桜も風雅もみんななんだかんだ強いしね。あたしだけ弱っちくて足手まといなんだ。だからそれが嫌で今麗桜にボクシング教えてもらってジムも通い始めたんだけど、後は暴走愛努流はとにかく愛羽を筆頭に友達思いかな。友達の為なら自分を犠牲にできる子ばっかだし、守るって言ったら何がなんでも守ってみせるみたいな?きっと愛羽のそういうとこ豹那さんも瞬さんも樹さんも認めてるんじゃないかなぁ。…もし友達に裏切られたら?うーん、どうなのかなぁ~…それでも愛羽は傷つけたり仕返ししたりしないし、信じるだろうし守ってみせるはずだよ。だからあたしもそうすると思う。え?その子と戦えるかって?…んー。難しいけど、愛羽は多分…戦えないと思う』





『樹さんか?自称神奈川一カッコいい暴走族っていつも言ってる人だよ。でも俺は本当にカッコいい人だと思ってるよ。いっつも陽気でヘラヘラしてるけどな。東京連合とやり合った時、俺の相手は到底太刀打ちできる相手じゃなかったんだ。そんで自分が打たれるのも構わず相手の足1本やっつけてくれたんだ。それで樹さんは負けて俺がそいつとやり合って、決着はつかなかったけど負けもしなかった。樹さんは多分絶対うなずかないけどあの時あの人はそうやってわざと負けてくれたんだ。俺を勝たせて俺に仲間を守らせる為に、自分の勝負を捨ててね。きっとそいつに勝つことを目標にしてずっとやってきたはずなのに。あんなカッコいい人なかなかいないぜ』





 戦国原はごくごく自然に様々な話を聞き出していった。

 それは何も知らない真面目な子が不良文化に興味や憧れを持つ、そんな姿にピタリと重なって見え愛羽たちは戦国原を微塵も疑わず自分たちの情報を全て垂れ流しにした。

『ねぇねぇ、冥ちゃんって誕生日いつ!?』

『平成○✕年10月28日です』

『10月28日!?ってことはもうすぐじゃん!』

『はい』

『あれ?○✕年って○○年じゃないの?』

『いえ、○✕年です』

『えっ?じゃあ冥ちゃんって今年17歳なの!?』

『はい』

 戦国原はとにかくニコニコしながら答える。

『えーじゃあ冥ちゃん先輩だったんだね!』

『そんな、先輩だなんてやめてください。ボクからしたら愛羽さんたちの方が先輩ですよ』

『あれ?でもなんで冥ちゃん1年なの?』

『それはダブったからです。ボクがバカで』

『えぇ!?そーお?そんな風に見えないけど。勉強もできる方な気がするし』

『いやいや、2年目ですから。それでできなかったら本当に問題ですよ』

『あぁ、あ~、そ、そうか。2回目ってことだもんね!でも、それにしてもそんな風に見えないんだけどな~』

『ふふふ。ありがとうございます』

『あー、それで冥ちゃんって何が好き?』

『…何が、とは?』

『あ、えーとね、その、つまり、プレゼントを考えようと思って!』

『プレゼント?』

『うん。ほら、誕生日の!』

 そうと聞いて戦国原は微妙な顔をした。

『…あぁ…どうでしょう。そんな、別に大丈夫ですよ。ボクなんかに』

『えぇ!?いや大事でしょ!1年に1回なんだし、せっかくその日に生まれたんだから』

『すいません。あんまりそういう習慣がなかったので』

『そうなの?おうちでそーゆーのないとかあるんだね!』

『ボクの家はお母さんが7歳の時に死んじゃって。だからそれまではそういうのもあったと思うんですけど、それからはなくて…だからあんまり覚えてないんです』

『えぇ!?えぇ!?ごめん冥ちゃん!あたしひどいこと言って。本当にごめんなさい…』

『いえ、気にしないでください。もう昔のことですし、ボクはもう気にしてませんから』

 戦国原は笑顔で答えて席を立った。愛羽はやってしまった感がありすぎてそれ以上話を聞けなくなってしまった。

『そっかぁ…じゃあ、どうしよっかなぁ…』

 愛羽は腕を組んで空を見上げた。
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