第154話 戦国原のゴール
文字数 2,616文字
『じゃあここまで聞いた上でもう1度確認するけど、君は予定通り鷹爪肖を殺したということかな?』
『いいえ』
戦国原が逮捕されてから一週間が経った。しかし取り調べは一向に進まなかった。
命令した訳でも頼んだ訳でもなく、結局最後に自らが鷹爪を撃ったこと以外は戦国原が直接関わっていることは事実として見つからず、CRSの他のメンバーが事情聴取に来ても戦国原がレディだったなどという実態はなかったと証言されてしまう始末だった。
鷹爪に対して殺してやりたい位憎んでいたことは認めるも、全て計画して殺害に至ったかという点は否定した。
『ボクはあの時友達が殺されそうになっていたのを助けに入ったんですよ?あの時ボクが2階から飛び降りていなかったら鷹爪は誰かを撃ち殺していました。いえ、応援を呼ぶなんて言ってたからみんな死んでたかもしれないんですよ?勇気ある行動として称えられるべきでは?』
戦国原は実に淡々と、そして胸を張って答えた。
『う~ん。だが君はお母さんが事故に合いお父さんが覚醒剤に手を出してしまったこと、それを侮辱した鷹爪を殺そうと思っていたと言っていたじゃないか』
担当の刑事は実に難しそうな顔をして言った。
『殺そうと思っていたなんて言っていません。ボクはあの女を許してはいけないと思って、あの女が殺されるのをイメージしただけです。ボクが殺したら罪になっちゃうじゃないですか』
まるで何1つも悪いことなんてしてないとでもいう姿勢をとことん貫いている。
『でも君は白桐優子が失敗したから自分で殺すしかないと判断してそうしたんだろ?』
『いいえ。あの時は友達が撃たれそうになっていたから危険を承知で飛び降りたんです』
『そして銃を取り上げようとして揉み合った結果、鷹爪の頭を撃ち抜いてしまった』
『そうです』
戦国原はニコリとして答えた。
『だがねぇ…君以外の人間の証言だと、君は鷹爪の腕をへし折り明らかに殺すつもりで落ち着いて引き金を引いたそうじゃないか』
『そんな場面で落ち着いてなんていられると思いますか?皆さんきっと衝撃的でゆっくりに見えていたんじゃないですか?』
現役の刑事相手にここまでスパッと斬り返すことなど成人の容疑者でもなかなかできない。嘘っぽい仕草だったり曖昧な点がどうしても見えてくるのが普通。仮にその人物が完全に白でも疑わしい所はあるものである。
だがこの戦国原はほぼ100%と言えるほど白にしか見えなかった。
戦国原のことはCRSのメンバーに聞く他情報源がなく、何度も何人にも詳しく話を聞いたが彼女が黒幕だったことを断定できるものはなく、鷹爪のことを殺したいほど憎んでいたという動機以外は何も出てこなかった。
『それだけじゃない。鷹爪に対して殺意があると思われるようなことを言っていたらしいじゃないか』
『え?なんてです?』
戦国原はここぞとばかりにとぼけた顔をした。あの時戦国原が喋ったことなど聞いたようでみんなちゃんとは聞けてはいない。間違いなくこう言ったとは誰も証言できなかった。戦国原もそれが分かっている。
『はぁ…それで、なんて言って白桐優子に殺させようとしたんだい?』
『ボクは優子さんに何も言ってませんよ』
『でもアジラナには覚醒剤のことを言ったんだよね?』
『はい。それは確かに言いました』
『言ったらアジラナがそれを盗んで白桐優子を陥れようするのを踏んでだね?』
『いいえ。全然そんなこと夢にも思いませんよ』
もちろんそれをけしかけたのはレディだ。だがアジラナはレディのことを一切何も喋らなかった。言ったら次殺されるのは自分だと十分思い込まされているからだ。
刑事もとうとう黙ってしまった。
『おまわりさん、諦めて早く帰らせて下さい。ボクを叩いても何も出やしませんよ?間違って撃ち抜かれていたのはボクだったかもしれないんですから』
戦国原は最後まで否定し続け、ついに殺人事件の容疑者として検察庁に送られ殺人罪で起訴されることはなかった。だがその代わり少年犯罪として家庭裁判所で扱われることになった。
殺人でも傷害致死でもなく過失致死罪ということで話がまとめられたが戦国原はそれさえも否定した。
『それなら覚醒剤で捕まった人全てに過失致死以上の罪を適用させて下さい』
そうでなければ一切自分の非を認めず屈しないという態度だった。
人の命が失われる事犯は殺人に始まり傷害致死、過失致死、交通事故など、その中にも様々な場合がある。
今の日本ではそれらに対する量刑があまりにも差があり、その下の方に至っては刑が軽すぎると思えるような判決も少なくはない。
彼女もそんな事件、そんな法律に傷つけられたことは間違いなく、もし違っていたら彼女はこんな風にならなかったのかもしれない。
だから戦国原には少年法が適用された。
『あなたはたとえ今回のことが故意でなかったにしろ、あなた自身がもう1度人の命の重さを知り2度と同じことにならないよう少年院で考えてきて下さい』
そして2ヶ月後、戦国原の少年院送致が決まった。
『でもね、おまわりさん。どうしてもボクには分からないことがあるんです。あの時本当にボクは死ぬはずだったんです。ボクの頭の中では鷹爪が死ぬはずだった未来が愛羽さんが死ぬ場面に変わって、最終的にボクが死ぬ映像でストップしたままだったんです。だから鷹爪が死んでその後ボクが死ねば予定通りなんだと思ってたんです。でも結局弾は切れていて、ボクは死ねなくて優子さんが死んでしまった。』
担当の刑事はもうウンザリといった顔をした。
『君ね、そもそも人生想像通りに何でもいく訳ないだろ?』
『まだ信じてくれないんですか?』
『そんなもの信じたら警察は終わりだよ』
戦国原冥はゴールの映像を見る。過程はどうあれそのゴールを外したことはない。それは自信を持って言える。
だがあの日、ゴールの映像は2回変わり、ついにそれさえも外れた。
それがどうしても納得いかず理解できない。
あるとすれば例えば誰かもボクと同じ未来を見ていて、だけどその人もあの時ゴールが変わっていくのを見てボクより先に未来を変える方法を思いついて、ボクに鷹爪を殺させるように仕向けた…とかね…
『まさかね…』
「全くお前だけは本当に何考えてるか分からねぇや」
戦国原は急にはっとした。だがすぐに今思ったことを頭から消した。
『…そんなこと…ある訳がない…』
だって…だとしたらあの人は、全部分かってて…
『いいえ』
戦国原が逮捕されてから一週間が経った。しかし取り調べは一向に進まなかった。
命令した訳でも頼んだ訳でもなく、結局最後に自らが鷹爪を撃ったこと以外は戦国原が直接関わっていることは事実として見つからず、CRSの他のメンバーが事情聴取に来ても戦国原がレディだったなどという実態はなかったと証言されてしまう始末だった。
鷹爪に対して殺してやりたい位憎んでいたことは認めるも、全て計画して殺害に至ったかという点は否定した。
『ボクはあの時友達が殺されそうになっていたのを助けに入ったんですよ?あの時ボクが2階から飛び降りていなかったら鷹爪は誰かを撃ち殺していました。いえ、応援を呼ぶなんて言ってたからみんな死んでたかもしれないんですよ?勇気ある行動として称えられるべきでは?』
戦国原は実に淡々と、そして胸を張って答えた。
『う~ん。だが君はお母さんが事故に合いお父さんが覚醒剤に手を出してしまったこと、それを侮辱した鷹爪を殺そうと思っていたと言っていたじゃないか』
担当の刑事は実に難しそうな顔をして言った。
『殺そうと思っていたなんて言っていません。ボクはあの女を許してはいけないと思って、あの女が殺されるのをイメージしただけです。ボクが殺したら罪になっちゃうじゃないですか』
まるで何1つも悪いことなんてしてないとでもいう姿勢をとことん貫いている。
『でも君は白桐優子が失敗したから自分で殺すしかないと判断してそうしたんだろ?』
『いいえ。あの時は友達が撃たれそうになっていたから危険を承知で飛び降りたんです』
『そして銃を取り上げようとして揉み合った結果、鷹爪の頭を撃ち抜いてしまった』
『そうです』
戦国原はニコリとして答えた。
『だがねぇ…君以外の人間の証言だと、君は鷹爪の腕をへし折り明らかに殺すつもりで落ち着いて引き金を引いたそうじゃないか』
『そんな場面で落ち着いてなんていられると思いますか?皆さんきっと衝撃的でゆっくりに見えていたんじゃないですか?』
現役の刑事相手にここまでスパッと斬り返すことなど成人の容疑者でもなかなかできない。嘘っぽい仕草だったり曖昧な点がどうしても見えてくるのが普通。仮にその人物が完全に白でも疑わしい所はあるものである。
だがこの戦国原はほぼ100%と言えるほど白にしか見えなかった。
戦国原のことはCRSのメンバーに聞く他情報源がなく、何度も何人にも詳しく話を聞いたが彼女が黒幕だったことを断定できるものはなく、鷹爪のことを殺したいほど憎んでいたという動機以外は何も出てこなかった。
『それだけじゃない。鷹爪に対して殺意があると思われるようなことを言っていたらしいじゃないか』
『え?なんてです?』
戦国原はここぞとばかりにとぼけた顔をした。あの時戦国原が喋ったことなど聞いたようでみんなちゃんとは聞けてはいない。間違いなくこう言ったとは誰も証言できなかった。戦国原もそれが分かっている。
『はぁ…それで、なんて言って白桐優子に殺させようとしたんだい?』
『ボクは優子さんに何も言ってませんよ』
『でもアジラナには覚醒剤のことを言ったんだよね?』
『はい。それは確かに言いました』
『言ったらアジラナがそれを盗んで白桐優子を陥れようするのを踏んでだね?』
『いいえ。全然そんなこと夢にも思いませんよ』
もちろんそれをけしかけたのはレディだ。だがアジラナはレディのことを一切何も喋らなかった。言ったら次殺されるのは自分だと十分思い込まされているからだ。
刑事もとうとう黙ってしまった。
『おまわりさん、諦めて早く帰らせて下さい。ボクを叩いても何も出やしませんよ?間違って撃ち抜かれていたのはボクだったかもしれないんですから』
戦国原は最後まで否定し続け、ついに殺人事件の容疑者として検察庁に送られ殺人罪で起訴されることはなかった。だがその代わり少年犯罪として家庭裁判所で扱われることになった。
殺人でも傷害致死でもなく過失致死罪ということで話がまとめられたが戦国原はそれさえも否定した。
『それなら覚醒剤で捕まった人全てに過失致死以上の罪を適用させて下さい』
そうでなければ一切自分の非を認めず屈しないという態度だった。
人の命が失われる事犯は殺人に始まり傷害致死、過失致死、交通事故など、その中にも様々な場合がある。
今の日本ではそれらに対する量刑があまりにも差があり、その下の方に至っては刑が軽すぎると思えるような判決も少なくはない。
彼女もそんな事件、そんな法律に傷つけられたことは間違いなく、もし違っていたら彼女はこんな風にならなかったのかもしれない。
だから戦国原には少年法が適用された。
『あなたはたとえ今回のことが故意でなかったにしろ、あなた自身がもう1度人の命の重さを知り2度と同じことにならないよう少年院で考えてきて下さい』
そして2ヶ月後、戦国原の少年院送致が決まった。
『でもね、おまわりさん。どうしてもボクには分からないことがあるんです。あの時本当にボクは死ぬはずだったんです。ボクの頭の中では鷹爪が死ぬはずだった未来が愛羽さんが死ぬ場面に変わって、最終的にボクが死ぬ映像でストップしたままだったんです。だから鷹爪が死んでその後ボクが死ねば予定通りなんだと思ってたんです。でも結局弾は切れていて、ボクは死ねなくて優子さんが死んでしまった。』
担当の刑事はもうウンザリといった顔をした。
『君ね、そもそも人生想像通りに何でもいく訳ないだろ?』
『まだ信じてくれないんですか?』
『そんなもの信じたら警察は終わりだよ』
戦国原冥はゴールの映像を見る。過程はどうあれそのゴールを外したことはない。それは自信を持って言える。
だがあの日、ゴールの映像は2回変わり、ついにそれさえも外れた。
それがどうしても納得いかず理解できない。
あるとすれば例えば誰かもボクと同じ未来を見ていて、だけどその人もあの時ゴールが変わっていくのを見てボクより先に未来を変える方法を思いついて、ボクに鷹爪を殺させるように仕向けた…とかね…
『まさかね…』
「全くお前だけは本当に何考えてるか分からねぇや」
戦国原は急にはっとした。だがすぐに今思ったことを頭から消した。
『…そんなこと…ある訳がない…』
だって…だとしたらあの人は、全部分かってて…