第111話 麗桜の決断

文字数 741文字

 麗桜は厚央の門で単車を停めた。するとすぐ目の前に校舎へ向かって歩く後ろ姿が見えた。
 優子だ。

『優子さん!』

『こんなとこに単車で誰が来たかと思えば、なんだまたお前か』

 1度だけ振り向いて優子は構わず歩いていく。

『なぁ、聞いてくれ!あんたはめられてるんだ!あんたのことよく思わないCRSの連中に全部仕組まれてんだよ!』

『…あぁ。そうだろうな』

『知ってたのか!?』

『そりゃ、他にありえないからな』

 優子は当たり前のように笑って言う。

『じゃあなんでこんなとこにいんだよ!』

『なんでって?』

『だって、何億円もする覚醒剤なくしたなんてなったら』

『殺されるだろうな』

『なっ!分かっててなんでこんな所で平然としてんだよ!』

 優子はそこでやっと足を止めた。

『平然?平然となんてしてる訳ないだろ。今から命のやり取りをしようって時に…』

『…まさか…まさかあんた死ぬ気なのか?』

 その状況でそんなに落ち着いていられることが麗桜には理解できない。

『さぁな。だが少なくとも奴に殺されるつもりはない』

 それでやっと分かった。

『じゃあ…つまり…殺すつもりだって言うのかよ』

『…あぁ。そうだ』

 麗桜は優子が本気であることを悟った。

『ダメだ。そんなことさせられない。頼む、一緒に逃げよう!』

『バカ言うな。そんなことはできない』

『どうして!俺はあんたにそんなことさせられない!樹さんが…悲しむ…』

『言いたいことが済んだら消えろ。いずれここには鷹爪が来る』

 優子は耳を貸すつもりなどさらさらない。

『…どうしても聞いてくれないのか?』

 麗桜は優子の前に立ち構えた。

『だったらなんだ』

『力ずくで連れていく』

 優子は視線を落とし少しめんどくさそうに溜め息をついたが構えをとった。

『あたしは忙しいんだ。悪いが遊んではやれないぞ』
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