第138話 峠

文字数 691文字

『瞬!ねぇ瞬ってば!』

 鳥の鳴く声が聞こえる。

 呼ばれて目を覚ますと瞬は見覚えのある所にいた。

 そこは以前、愛羽と綺夜羅、そして咲薇と一緒に来た。焔狼が東京連合になる前、瞬が琉花や千歌、都河泪とよく一緒に走りにきた峠のいつも休憩する場所だ。

 見渡す限りは自然に囲まれた川っぺりで人が寝っ転がれる程のゴツゴツしてない岩がいくつかある。
 瞬はその上で寝ていた。

 どうやら昼寝していたらしい。

 あれ?

 そうだっけ?…


『やーっと起きたの?あたしをデートに誘っといて寝ちゃうんだから』

 泪が頬を膨らませ怒っているようなフリをしている。
 泪の得意な顔だ。


 あぁ、そうだ。今日は2人でGPZに乗ってツーリングに来たんだ。
 そうだった…

 …そうだった…っけ?

『あーごめんごめん。なんかあたし疲れちゃってたのかな?寝るつもりなかったんだけど横になったら急に眠くなっちゃって…』

 瞬は焦って言い訳をした。

『まぁ、運転するのって疲れるもんね。帰りはあたしがするからさ。ねぇ、それより早くお弁当食べようよ。あたしお腹減っちゃってさぁ~。でも瞬と一緒に食べようって思って起きるの待ってたんだよ?』

『ご、ごめん!別に無理して待っててくれなくてもよかったのに!』

『ちょっとぉ。せっかく早起きして一生懸命作ったのに1人で食べさす気なの!?』

 そうだ…

 泪はそうやっていつも料理のできないあたしたちにお弁当を作ってくれた。

 みんなで走りに行くとなると、あたしと琉花と千歌にお昼に何食べたいか前もって聞いてくれて、可愛くて美味しい気合いの入ったお弁当を作ってくれる。

 誰かと…同じように…

 あれ?

 そんな人…いたっけ?
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