第148話 想定外

文字数 1,109文字

 愛羽と樹はすり足で進んでいく。夜の学校だ。この暗闇の中、条件は皆同じである。拳銃を持っているからといって相手が必ずしも有利な訳ではないかもしれない。

 まさかとは思うが、持っているのが6発式の銃で予備の弾を仮にもしも持っていなかったとすれば弾はあと5発かもしれない。それを使いきらせることができれば相手をどうにかすることは不可能ではない。

 2人は柱の影に隠れながら進んでいくが、やはりどこからも物音は聞こえてこない。もしかしたら優子も鷹爪も息を潜めあって身を隠すことに徹しているのかもしれない。

 そうなると我慢比べだ。先に動いた方が確実に動きを察知される。

(いや、だとしたらあたしたちのことをとっくに2人共察知してるはずだ)

 静かな中でのこの戦いは相手の動きを見つけるまで絶対動かないのが鉄則のはず。つまり後から来た自分たちはすでに捕捉されている可能性が高い。樹がそう思った時だった。

『後ろだ樹ぃ!』

 反対側の校舎から優子が叫んだ。長い廊下の後方10メートル程の所で鷹爪が銃をこちらに向けて構えていた。

『ちぃ!』

『危ない!』

 バァァンッ!バァァンッ!

 2発の銃声が鳴り響くのとほぼ同時に愛羽が樹を突き飛ばした。まさかすでに後ろを取られていたとは。

 2人を優子の仲間だと踏んだ鷹爪は2人をつけて優子が出てくるのを待っていた。

 愛羽は樹を庇った為に銃弾を1発腕にくらってしまった。

『愛羽、立て!走るぞ!』

 この廊下では狙いたい放題の上、10メートルの距離を取られては反撃する前に撃たれてしまう。ここは逃げるが最善だ。

 愛羽は樹に手を引かれなんとか走り逃げ出した。

『優子の野郎、あっち側にいやがったか。出てこい優子!さもなきゃこいつらを先に殺してやろうか!』

 しかし優子は返事などせずまた身を潜めた。

『ちっ、あの野郎』





 戦国原は走りながら確かに今銃声を2発聞いた。

 校門の前で麗桜が倒れている。これは想定内。

 ここに来る途中で珠凛が足を引きずっているのも見た。これも想定内。

 隅っこで携帯の着信音が鳴っているのは旋だった。きっと仲間が心配して連絡してきているのだろう。

 だが、今校内には優子、樹、鷹爪、そして愛羽の4人がどういう形でかは分からないがいる。これは完全に想定外だ。

 もうすでに計画通りことが進んでいないのは明白な上、頭の中のビジョンには依然として愛羽が撃たれる場面が浮かんだままだ。

 どうすればいい?どうすれば変わる?急がなければならない。戦国原は校門を1歩中に入った。

 するとそこで恐るべき光景がまた脳裏に浮かび上がってきた。

『まさか…』

 次に見たのは撃たれて血だらけになった自分の姿だったのだ。

『どうして…』
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