第165話 ゲームオーバー

文字数 1,586文字

 優子は美術室のすぐ隣の教室で息を殺し様子を窺っていた。そこからなら反対側の校舎の様子も渡り廊下を渡ってくる所もよく見える。
 相手の動きを把握することがこの作戦の成功、すなわち鷹爪を撃つことに最も重要だ。

 だがここで予想もしないことが起きた。

 誰かが4階まで階段を上がってくる。2人いる。その後ろを誰かがつけている。

 階段を上がると渡り廊下に向かって歩いていく2人組を見て優子は青ざめた。

『めぐ…』

 もう1人の方は背の低い女らしいが誰かは分からない。そして後をつけているのはやはり鷹爪だ。

 最悪だ。仲間が助けに来てしまって何も知らずに中に入ってきてしまったのだと優子は思った。

 しかも予想外の出来事はそれだけではなかった。
 誰かの足音がする。

 鷹爪は向こうにいる。足音は近い。すぐそこのようだが声はしない。

(樹か?まさか…)

 一瞬優子はそう思ったがもし敵であるなら不用意に出てはいけない。
 それに鷹爪から目を放すことはできない。

(くそっ…なんてこった)

 優子がどうするか決まらない内に鷹爪は愛羽と旋の背中に向けて銃を構えた。



『後ろだ!めぐ!』

 反対側の校舎から優子が叫ぶと2人は後ろを確認せず走り出した。
 誰かが後ろに張りついていたのは2人もとっくに分かっていた。

 叫んだ優子に一瞬気を取られたせいで鷹爪は狙いが定まらなかった。

『ちっ』

 バァァン!!バァァン!!

 やむを得ず発砲するも1発目の弾が発射された時にはもう2人は渡り廊下の方へと曲がっていた。
 ギリギリセーフ。一息つきたいところだが追いつかれない内にこの渡り廊下を向こう側まで走り抜けなければならない。

 しかし渡り廊下の中央で別の人物が待ち構えていた。



『ここでゲームオーバーです。愛羽さん。今度こそ、ここだけは通せません』

『メイちゃん…』

 今回の首謀者、戦国原冥が三度愛羽の前に立ちはだかる。

『くそっ、またあいつ!』

『めぐちゃん止まらないで!走って!』

 走って突破しようとする愛羽だが戦国原はもちろん逃がさない。
 愛羽をつかむとそのまま投げ技で床に叩きつけ蹴りつけた。

『うっ!』

『聞いてましたか?ここは通さない。あなただけは』

『このっ!どけぇ!』

 助けに入る旋だったがもはや旋のことなど戦国原の眼中にはない。彼女1人では自分相手に何もできないことは言うまでもなく、真横から打ちこまれたパンチを見もせず片手で受け止めるとすかさず蹴り飛ばした。

 そのタイミングで鷹爪肖が渡り廊下に入ってきてしまった。

『ん?戦国原か?そこにいんのは…お前何やってんだ、こんな所で』

『…いえ、逃げられたのを追ってきたらここまで来てしまって…でもやっと捕まえられましたよ。鷹爪さん、この2人はボクが制圧しておきます。気にせず先に行って下さい』

 そこまで喋った所で戦国原は気付いていた。いや、気付き始めていた。

(おかしい…)

『…おう、そうか。ありがとよ』

 鷹爪は歩いて渡り廊下をこちらに向かってくる。

(おかしい…まだ…まだ変わらない…)

 頭の中のビジョンでは自分が撃たれたままだ。

(どうしてボクが撃たれなきゃならないんだ!)

 戦国原は全ての元凶が愛羽であると確信していた。だから愛羽1人をなんとかすれば流れがまた戻る。もしくはまた別の形にたどり着くと思っていた。

『いや待てよ?こうなったらこのガキらの死体をさらして嫌でも出て来させてやる』

 愛羽も旋も頭が真っ白になった。この至近距離に加えて戦国原もいるこの状況では間違いなく逃げられない。
 仮にどちらかが逃げられたとしても、どちらかは確実に撃ち殺される。

『めぐちゃん逃げて!』

 愛羽は走って鷹爪の方へ向かっていった。

(絶対誰も死なせたりしない!)

『ダメ!愛羽ぁ!』

 鷹爪は銃口を愛羽に向け引き金を引いた。

 銃口が火を吹いて恐ろしいほどの破裂音が響くと同時に、発射された弾は少女を撃ち抜いた。
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