第158話 思い出の海に

文字数 919文字

 もうすぐ海だという所で道路に人影が立ちはだかっていた。

 それは紫の特攻服に身を包んだ緋薙豹那だった。豹那は道路のど真ん中でタバコを吸い腕を組み、仁王立ちで待ち構えていた。

 当然樹たちはそこで停まる。

『おい、お前ら。ここになんの用だい?』

『緋薙…』

『まさかとは思うけどさ、その花そこの海に飾ってくれようとでもしてるのかい?』

 どういうことなのかどうやら一緒に追悼しようというつもりではないらしい。

『おい豹那。今日は鬼音姫の追悼だって知ってるだろ!?』

『そうだよ。豹那さんも一緒に行こうよ』

『黙ってろガキ共』

 玲璃と蓮華が出ていくと妙にとげとげしい言葉が飛んできた。2人も驚いている。

『な、なんだよ緋薙。もちろんそのつもりだよ。優子の追悼なんだ。みんなで花をその海岸に飾るんだよ』

『へぇ…だったらそれはお断りしよう』

『は?』

 その場にいた全員が耳を疑った。

『おい愛羽。嬢王豹那はどうかしちまったのか?』

 どうなってしまっているのか全く状況の読めない綺夜羅が訪ねるも当の愛羽も分かる訳がない。
 豹那とは昨日会ったばかりで何も言っていなかった。

『聞こえないのかい?負け犬の汚ねぇ花なんか飾るなって言ってるんだ。この海はあたしたち悪修羅嬢の場所でね、あたしも毎日眺めてる。そこに仲間1人守れなかった奴のくそみてーな自己満足並べられるとさ、はっきり言って迷惑なんだよ。』

 そこでまず麗桜がキレた。

『てめぇ!』

『あっ、麗桜ちゃん!』

 愛羽が止めるのも聞かず殴りかかっていくと逆に殴り飛ばされてしまった。そこに手加減はなしだ。

『どうしてもそこをその場所にしたいんなら、このあたしを倒してから行ってくれるかい?まぁ、倒せたらだけどね。お前ごときにさ』

 豹那はそう言うと遠い目をして微笑んだ。

 何がどうなっているのかいよいよ本気らしい。

 樹にしてみたら豹那と戦う理由はないが優子の為に、あの思い出の海に花を飾る為にはおそらく避けては通れないらしい。

『…お前に勝ったら邪魔しねーんだな?』

『ふふ。勝てたらだよ。万が一にもね』

 樹はそのタイマンを受けると決めた。

『そんな、嘘でしょ?なんで2人が。やめなよ!』

 周りが止めるのも聞かずその戦いは始まってしまった。
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