第20話 優子ちゃん先輩

文字数 1,958文字

『はは、なんだよあいつら。てんで大したことねぇのに威張りくさりやがって。お前らケガ大丈夫か?』

 大したことない?いや、それは分からないがこの女とてつもなく強かった。

『あの…ありがとうございました』

『本当、なんとお礼を言っていいか…』

 2人はこのリーゼントの女にもうすでに興味を持ち、憧れのような気持ちを抱いてしまっていた。

『いいっていいって。あたし本当に通りかかっただけなんだ。どこの学校にもあーゆーことってあるんだな。目ぇ付けられねーようにしな』

 他の上級生とは違い、優しく笑う人だった。

『あ、あの、あたし雛葉旋でこの子赤松珠凛です。先輩、名前教えてもらってもいいですか?』

『先輩なんてやめてくれよ。あたしは白桐優子。あたしからしたらお前らの方が先輩だぜ。まだ転校してきたばっかでさぁ、右も左も分かんねーんだ。そもそもさっきも道よく分かんなくて迷っててよ。あっはは!よろしくな』

『えっ!優子って言うの?どっから来たんですか?』

『めぐ、馴れ馴れしいわよ。すいません白桐先輩。どこから引っ越されてきたんですか?』

 優子は笑ってしまっていた。

『だからいいって、そんなにかしこまんなくて。優子~でも、ちゃんでもくんでも好きなように呼んでくれよ。あたし後輩より友達の方が欲しいんだよ』

 そう言われてもいきなりは難しいものだ。

『ん~。じゃ~優子ちゃん先輩!』

『もう。めぐ、それじゃ呼ばれる方も恥ずかしいわよ。優子ちゃ…ちゃ?…ゆ、優子さんって呼ばせてもらってもいいですか?』

『あっはっは!お前ら本当にでこぼこコンビだな!あたしは相模原から来たんだ』


 それから3人はよくつるむようになっていった。

 3人はその後も不良グループに狙われ囲まれることもあったがその度に優子が1人で圧倒的な強さでコテンパンにやっつけた。

 その内3人にからんでくる者もいなくなり、しばらく平和な日を過ごしていた。

 優子は2人に相模原の親友で今は離れ離れの相棒のことや、自分がいじめられっこのパシリだったこと。初めての家出のことから、それでもキックボクシングを始め相模原を統一したことなど自分のことをなんでも話した。

 もちろん、樹と2人で毎日のように語ったあのことも。

『これ見ろよ。あたしが考えたチーム名、相棒がデザインしてくれたんだ。カッコいいだろ?』

『C…R…S?』

 優子は樹が描いてくれたデザインを2人に自慢気に見せた。

『CRSってのはさ、元々ある暴走族なんだけど、あたしらで女だけのCRSを作ろうって言ってたんだ』

 作りたかった。作るはずだった。

 優子は、そんな言葉が口から出てしまいそうになるのを自分の中で抑えていた。

『へぇ~。この絵、上手だね!カッコいい~。なんて書いてあるか分かんないけど』

 描かれた特攻服のデザインやチーム名を見て旋は目を輝かせた。

 優子の話を聞いてからそれらを見るともはや宝物のように見えてくる。

『クレイジービーナス、レッドクイーン、セクシーマリアよ。めぐ、あなた英語位読めるようになんなさいよ』

 珠凛はちょいちょい保護者感を出してくる。

『じゃあさじゃあさ!優子ちゃん先輩はさ、卒業したらそっちでチーム作るの!?』

『…え?』

 その言葉は優子の時を止め、彼女の中で何回も繰り返された。

『だってだって、今は中学生だからしょうがないけど、高校はあっち行くこともできるでしょ!?そしたらあたしも2人のチームに入りたいもん!』

 旋に言われるまでそんなこと考えもしなかったが。

(そうか。そう考えたらあとたった何ヵ月か違う中学ってだけでまた一緒になれるんだ)

 言われてみればその通りで自分はつまらないことでくよくよしてしまっていたと優子は思えていた。

『…そうだな。あたしもそうしたいと今思ったよ』

 最初に優子が言った通り、3人は歳が2つ違いではあったが友達として打ち解けることがすぐにでき、特に優子は転校したばかりの新天地でとても心の支えになる嬉しい出会いとなった。

『もしもし?よぉ優子。そっちはどうだ?なんか困ってねーか?』

『はは、大丈夫だよ。子供じゃねぇんだから。そんなにあたしが心配なのか?あ、分かった。さてはもう寂しくなっちゃったんだ』

『は?はぁ?何言ってんだこの女。あたしは単純に心配しただけですぅ』

『あら、そうですか?全く樹は素直じゃないんだから』

 優子が引っ越してからというもの、毎日2人は連絡を取り合っていた。

 やはり樹の方が地元を1人離れてしまった優子のことをとにかく心配していたのだが、優子はそんな風に樹をからかったりして安心させようとしていた。

『まぁ心配しないでよ。相模原一家として恥ずかしくないようにちゃんとやってるからさ』

 優子は樹に同じ高校に行こうとは言わなかった。

 時期が来たら伝えて驚かせるつもりだった。
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