第169話 未来

文字数 974文字

『ねぇ優子見てよ。あたし腹筋割れてんべ』

『何言ってんの?あたしはもう先週には割れてたよー』

 女のくせしてそんなことで張り合う中学生、あたしたちだけだったよな…



『やっぱスカジャンっつったら青でしょ。サテンのさ』

『赤だよ、赤!あたしは絶対赤!』

 2人で初めてスカジャンを横須賀に買いに行った日、それを着て記念にプリクラを撮った。

 あたしは青。あんたは赤。2人してばっちりキマッてたよね。

 あれはあたしの1番のお気に入り。今でも本当はちゃんと持ってる…



 樹。中学の卒業式はどんな格好で出たの?

 派手好きで本当は目立ちたがりやのあんたは、きっとあたしの想像もつかないような晴れ姿で門出を飾ったんだろうな…




 DREAM。1回だけ見に行ったことがあるんだ。遠目からだけど。

 いい店だな。にぎやかで笑いが絶えなくて雰囲気がいい。

 静火と唯も一緒なんだろ?それ見てなんか安心したんだ。

 でも樹。客より誰よりあんたの声が1番響いてて、あれじゃ多分近所迷惑だよ。

 ズバリ当てようか?

 あんたたち、彼氏いないだろ。




 あんたと初めて喋ったのは小学校5年の時。同じクラスになってからだった。

 あんたは絵が上手くて、いつも休み時間周りの子があんたの描いた絵を見に集まってて、みんな樹にお願いして自分のノートに描いてほしい絵を描いてもらってた。

 あんたは授業中もそういう子たちのノートに一生懸命絵を描き込んでて、あたしはよくそれを横目で見てた。

『優子もなんか描いてあげる。何がいい?』

 あたしのノートを1日わざわざ家に持って帰ってあんたが描いてきてくれたのは、となりのトトロに出てくるネコバスにメイとお姉ちゃんが乗ってる所だった。

 すごく上手であたしは感激した。

 真似してあたしも何回か描こうと思ったけど、あたしには無理だった。




 でも樹。あたし、今は絵も描けるんだよ?

 あたし、あんたと一緒に何か描きたかったんだ。

 あんたと一緒に未来を描けたら、どんなに素敵だろう。

 あんたとあたしの…未来…




 廊下を駆けていく音が遠くなっていく。

 鷹爪は走り出すと恐怖に顔をひきつらせたまま見向きもせず逃げていった。

 引き金を引いた瞬間に分かった。撃ってはダメだと。

 でも気付いた時には全て遅く、あたしの目の前で胸のど真ん中を撃ち抜かれた樹が倒れていた。

 あたしが撃った…この手で…あたしが…
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